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1-2

―――ガシャーン!



突然、落ち込んでいた僕の耳に激しい音が響いて、びくっと体が震えた。


激しく物が割れるその音は部屋中に響いた。



「総督!総督!!お待ちください!!」



慌てる研究員の声が2階の方からガラス越しに聞こえて、1階にいた僕、トレートル、ミトラは観測室のほうを見た。



「そうとく……?」



「そ、総督だって!?どうして今?というか何でここに!?」



「レヴェリーの王に等しいような人が突然研究所に現れるなんて、さすが暴君や狂人と噂されるだけあるわね」



僕は二人の様子を見る。


トレートルはあたふたとしながらぶるぶるして怯えたような感じになる。


その様子を見た僕は少しだけ不安になり、僕の方を見たミトラが「大丈夫よ」と声をかけてくれる。



僕とトレートルが動揺している間に、観測室の下の出入口から1階の方へ、全身機械パーツで出来た白いボディに紺色のワンポイントの入っているアンドロイドが十数名、変わった武器を持って入ってきて、部屋の隅に立った。



それから真っ黒な機械の身体にエネルギーが循環しているように白い電気のようなものが通っているアンドロイド。


背中に身体を包むように取り付けられた帯のようなマントが特徴的な、全長2メートルを越えるずっしりとして強そうな男性のアンドロイドが入ってきた。



最後に、惑星に環があるようなバッヂをラボコートにつけた、僕が見下ろせるほど背の低い、男性研究員が駆け足で入ってきてアンドロイドの隣に立つ。


大きすぎる片眼鏡に黒に近いワインレッド色のマッシュヘアー、かなり目立つ研究員だ。


成人していそうなのに僕よりも背が低いか同じぐらいか……。



「そっ、総督、ご……ご用件はー……?」



トレートルが背筋をピンと伸ばし、ひきつった笑顔を浮かべて一歩後に身を引きながら、黒いアンドロイドの男のことを総督と呼んだ。


きっとこのアンドロイドの男がレヴェリーの王?のような人で、ミトラの言っていた暴君や狂人と噂されている人なのだろう。



黒いアンドロイドの男は、頭の部分は斜め上へ後ろ向きにとがった耳?いや受信機?のようなパーツがあり、顔の部分は目に該当する部分はヘルメットの上部のようになった頭部パーツで覆われて陰になって見えず、表情が読めない。


いや、そもそも機械に表情はないのかもしれないが……。



「お前たちの世界のトップであるパルトネル様は、このクレイ研究所へセルセラの代わりにアーツを使えるようにする存在を創れと命じた、そうだろう~?」



片眼鏡の男が黒いアンドロイドの男をパルトネルと呼んだ。


片眼鏡の男は眼鏡のフチを持って位置を直し、ニタニタとわらいながら前かがみで僕に目を向ける。


その視線があつくて、なんだか気味が悪くて立ち上がってミトラにぎゅっとしがみついた。



「(なんかこの片眼鏡の研究員さん気持ち悪い、不気味……)」



ミトラは僕のことを受け止めてくれて、僕はミトラの頭と腕の隙間からパルトネルという総督と片眼鏡の男性研究員を見ていた。



「だから何なのよ、あとイディオ、あんたじゃなくて総督に聞いてるのよ」



イディオと呼ばれた片眼鏡の男性研究員の不気味さに引いていると、ミトラは冷ややかに「あんたじゃない」と言い放った。


……が、イディオはミトラの話を全く聞いていないらしく、ばっと手を広げると大きな声で話し始めた。



「しかしワタシの所属する!ワタシの技術が蓄積されたユニヴェル研究所の壊世エネルギーを利用する技術で新兵器が作られたのだ!!故に―――……!」



―――ガシッ。



パルトネルにラボコートの襟をつかまれたイディオの身体が持ち上がる。



「ぐえ!?パルトネルさ……」



パルトネルはイディオを、部屋の隅でじっとしているアンドロイド達のところにポイッと投げ捨てた。



アンドロイド達はがらがらと体制を崩してぶつかり合い、キリキリと機物同士がこすれ合う音を立て、イディオのクッションになりながら受け止たが、クッションと言っても機械に激しく身体を打ったイディオは唸りながらアンドロイド達に介抱されていた。



ミトラは「相変わらず頭が痛いわね……」とボソッと呟いてため息をついた。



「(イディオって人、怒られたのかな……)」



出しゃばりなんだろうか?それがパルトネルの気に触れたに違いない。



イディオの声でうるさかったはずの場所がシーンと静まり、冷たいような、微妙な空気になった。


静かな中、パルトネルが動いて僕たちはそちらに目を向けた。



「……その子供が実験体か」



エコーのかかった低く落ち着いた機械音声が響く。


パルトネルの方を見ると、彼の顔はこちらを向いており、僕は目が合ったような気がしてドキッとした。


パルトネルは身体も大きく、アンドロイドで人間とかけ離れている容姿をしていたり、パーツに阻まれて表情を読めないところから、何とも言えない威圧感がある。



そんなパルトネルの右手がふわっと動き、僕は彼の手を目で追いかけた。



「(こ、こわい……)」



パルトネルが右手を自分の肩ぐらいにあげ、手のひらで宙を掴む。


すると水色の光の粒子が周囲に現れてパルトネルの手元に集まり、光の粒子は透き通るような水色に光る大剣をパルトネルの手に握った状態で姿を現した。


大剣の先端が重量に引っ張られてズシッ、メリッと音を立てて実験室の床にめり込む。



「(水色の大剣、あれってアーツじゃ……?

あれ?パルトネルって人はアーツを使える?)」



僕は研究員の人たちに教えてもらったことを思い出していた。


昔はアーツを使って武器を生み出し、壊世雨と戦っていた人たちがいたと。



トレートルはパルトネルが出した武器を見て腰を抜かし、おろおろして言葉を失っていたが、周りのアンドロイドたちは無反応のままその様子を見ていた。



「こんなところでセルセラ様に残してもらった残存のエネルギーを使って武器を作るなんて、何が言いたいの?

創世エネルギーが残っているのはもう総督しかいないのよ?」



大剣は僕とミトラのほうに向いていた。



僕を抱きよせているミトラの手に、ぐっと力が入ってる気がした。



「っ!!」



パルトネルの左手も大剣の柄を握ると、大剣の先端がぐらっと動き、持ち上がった。



その瞬間、うなじをぐっと強い力で押さえられて、体勢を崩して地面に伏せた。


ミトラは隣で膝をついてかがんでいた。


僕達の上を右下から左上へ、大剣の起こした強い風が通っていく。



パルトネルは斬りかかってきた。



それだけは分かったが、僕はそんな身の危険な状況に置かれたことはなかった。



「(なんで急に!……やめ……!)」



僕の口が小さくパクパクとパルトネルを止めようとした。


喉がキュッと絞められたようになって声が出ず、伏せた状態から慌てて起き上がるが、重くなった足を引きずってなんとか上半身だけを起こして後ずさりする。



僕がまっすぐ見る先では、重さで勢いのついた大剣がパルトネルの背よりも高く振り上げられて、僕の近くに影を落としていた。



「総督!!お待ちください!!総督!!」



2階にいたはずのクレイの研究員が降りてきたのか、パルトネルを止める声がする。



「リアン!!」



肩を強く押されて突き飛ばされた。



カーン!



その音と共に激しくシューと音が鳴り、霧のような水が降ってくる。



コロリと上半身を床へ押し付けられるように倒れた僕は慌てて起き上がり、僕を呼んだ声の主であるミトラの方を慌てて見る。



「……ミトラっ!」



ミトラは床に倒れた状態から慌てて起き上がろうとしていた。


その少し左でパルトネルの大剣は実験室にあったポッドを引き裂いてめり込み、中の水を噴出させていた。



パルトネルの傍には二人のクレイの研究員が両腕を必死に広げ、パルトネルのわき腹を包むような感じで抱きかかえて止めようとしており、その反動で大剣は本来振り下ろすはずだった位置からずっと左へずれてポッドを引き裂いたようだった。



ミトラはすぐに立ち上がってパルトネルから離れて距離を取る。


一方でパルトネルはポッドにめり込んだ大剣から手を離した、すると大剣はぱあっと光って光の粒になり、光の粒は空中に散るように分裂してスーッと消えていった。



それを見たミトラが僕のほうを見て走ってくる。



「リアン!大丈夫?」



「う、うん」



ミトラが僕の手足や身体を見て無事を確認しているようだ。



僕は立ち上がると大きくうなずいた。


ミトラは「よかった」と言って息をつき、安心していた。



僕はミトラの身体の横から覗きパルトネルのほうを見た。



パルトネルはわき腹を掴むクレイの研究員達をイディオと同じように掴み、アンドロイドたちが集まっている部屋の隅へ投げ捨てていた。


投げ捨てられた研究員達は身体を打って呻いている。

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