1:アーツの研究結論
僕はレヴェリーシティにあるクレイ研究所の中で生まれた、正確には作られたというべきか。
セルセラと呼ばれたドラゴンの遺伝子と人間の遺伝子を組み合わせて作られた人造人間だそうだ。
人間の見た目をしているが髪の毛は青銀色で長いため結んでおり、耳は少しとがっていて、瞳は言い伝えのセルセラと同じように水色の瞳と、耳の上あたりから丸っこい木の枝のような小さな角が生えている。
セルセラはかつて人々を壊世雨から守るためにアーツという魔法を授けて、人々とともに壊世雨に対抗していたドラゴンだと聞いた。
研究員達はセルセラと同じ遺伝子を僕に組み込んだ……つまりセルセラと同じことを要求しているようだった。
僕は研究員の人達に大事に育てられ、彼らにその恩を返したいと思って要求される実験に応えていた。
「リアン君は台に座って、ミトラと手を繋いでね」
天井の高い実験室に僕は二人の研究員と一緒にいた。
2階の観測室で観測をする研究員は大きなガラス越しにこちらを窺い、1階の実験場では研究員に見守られながら今日も実験をするところだった。
片方の男性研究員は特にこれと言って特徴のない人、隣の女性研究員より背が高いが他の人と比べるとそうでもない。
ラボコートを着てしっかりと前をしめているが、ほっそりした体型のせいか少しぶかぶかな気もする。
「はぁい」
僕は言われたとおりに半月型の台に登って座る。
周りには人形の入ったポッドがいくつかあり、時折ポッドも実験に使われていたが、今回は関係あるのだろうか?
木を描いたようなロゴのバッヂを付けたラボコートを着た研究員男性は、バインダーを片手にそっと僕の細い左手首を掴んだ。
そして僕の正面でかがんで右手を差し出している女性研究員の手の平の上に僕の手を乗せた。
ミトラと呼ばれた女性研究員はラボコートの下に無地の黒いシャツと茜色のスキニーを着ている。
黒髪の前下がりのボブヘアがよく似合う、ミトラは相変わらずさわやかでボーイッシュな雰囲気。整った顔からも少しだけ活気のある感じがうかがえる。
「トレートル、私はリアンの手を今握ったらいいのかしら?」
「そうそう、ばっちり」
男性研究員、トレートルは人差し指と親指で丸を描きオッケーサインをつくって見せる。
「(もうずっと研究員の人たちと一緒にいるけど、研究はうまくいってるのかな……)」
僕は彼らの表情や反応を見て、彼らの研究結果が順調ではなく頭を悩ませていることを知っていた。
どうしたら望んだ結果が出るのか、僕も頭を悩ませて言われたとおりにやってきたが、それでもどうやらうまくいってないらしい。
研究員の人達はとても優しいが、僕は彼らに迷惑をかけているのではといつからか心配をするようになっていた。
そんな中でミトラは僕にとって不思議な存在だった。
一緒にいるとなんだかすごく安心して、あれこれ考えている不安が吹き飛んでいく、そんな気がするのだ。
ミトラの細くて綺麗な手が僕の手を優しく握る。
「大丈夫、心配しないで」
大人っぽい顔立ちのミトラの釣り目の目尻が下がって僕に微笑みかけて、優しい雰囲気を出す。
僕の顔を見てミトラは不安だと読み取ったのだろうか、それとも顔に出ていたのかもしれない。
「……今日はどんな実験をするの?」
僕はミトラとトレートルを交互に見て尋ねた。
「リアンと私が手を繋いでアーツを使えるようになるか、あとは台の周囲にあるポッドの中の人形に創世エネルギーの反応が出るか……といった感じかしら」
「創世エネルギーってアーツを使うのに必要な魔力みたいな、水色のエネルギーだったっけ……?」
「そう、壊世エネルギーとぶつかり合うと打ち消し合うエネルギーよ
その反応があればアーツを使えると思うの」
今日は手をつなぐだけの、不思議な実験……。
僕達はいろんな実験をしてきた。
一緒に外を散歩したあと、研究員の人は歩き回った研究員の体調を計測していたり、数名ですごろくと呼ばれるゲームをしてみたりした。
そうかと思えば僕が水に満たされたポッドに入れられて眠り、夢の中で別の意識と繋がってみたりすることがあった。
そのように何年も様々な方法で、僕を通じてアーツが使えるようになるのを研究しているようだった。
しかし未だに彼らがアーツを使えるようになった所も、そう言った所も見たことがなかった。
「セルセラ様は創世エネルギーを作り出してたって言ってたけど、どうしたら僕も同じことができるの?」
僕は二人に聞いてみた。
するとトレートルはうーんと頭を悩ませて困ったように僕に答えた。
「それはまだ誰もわかってない、セルセラ様については不思議なことが多くてまだ知らないことが多いんだ、だから実験をするんだよ」
「うーん、そっか……」
トレートルはハハッと苦笑いをした。
それからミトラのほうを見た。
「ミトラ、変化はあったか?」
「……特にないわね」
ミトラは右手で僕の手を握りながら、左手をぎゅっぎゅっと握り開いたり、自分の手のひらを眺める。
「今日もうまくいかないのかな……」
二人の反応を見た僕は少し落ち込んだ。




