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8-2

僕は立ち並ぶお店をぼんやりと眺めながら、ミトラに手を引かれて歩いていた。


家事ロボットが並ぶお店があったり、そのロボットの使う道具を売っている専門店があった。



さっきまで植物や布、雑貨が多かったが、機械が多い通りに来たな……と考えていると、僕の目を疑うものが飛び込んできた。


僕は足を止めてミトラの手を引っ張った。



「ミトラ!切られた腕が飾ってある……!!!」



「……えぇ?どれ?」



僕が慌ててミトラに言うが、彼女は冷静に辺りをきょろきょろと見回す。


周りの人たちがこちらを横目に、ひそひそと話をしている。



「あれってミトラ様?」



「なんだか一緒にいる少年が何かを訴えているようだけど……」



「変な子ね……」



生ぬるい視線がこちらを見ていた。


彼らには宙にぶら下がる腕は見えていないのだろうか?


それともこれが日常的なことで慣れてしまったのか?



……レヴェリーには腕を切って飾る文化というのがあるのか?



だとしたらその文化で腕を切られて苦しんでいる人がいるだろう。



なんて気味の悪い文化なんだ……それに腕なんて切られたら血がたくさん出て死んでしまうし、助かったとしても不自由になってしまう。



僕は腕が包丁のようなものでスパッと切られるところを想像して、背筋がむずむずして、怖くて眉をひそめた。



「見て!あのお店!あ、よく見ると胴体まで……」



僕は向かい側の道を指差した。



ガラス越しに手足のない胴体や、腕のぶら下がっているお店がそこにはある。



レヴェリーには生き物を解体する趣味があるということなのだろうか?


僕は頭が混乱してきて、怖くなっていた。



しかし、ミトラは僕の差した先を見ると「大丈夫よ」と静かに言った。


そして僕の手を引き、僕と進行方向を交互に見ながら再び歩き始めた。



「あれはアンドロイドのパーツのお店よ

さっき喫茶店にも人間によく似たアンドロイドがいたでしょ?」



「う、うん……」



「あそこは人間と深く関わる仕事をしているアンドロイド達がよく来る場所よ

それにほら、もっとよく見て?断面に機械が見えるでしょう?」



「ほ、ほんとだ……」



深呼吸し、ミトラに言われてもう一度ゆっくり見ると、腕の断面には鋼が見えている。


さらに観察していると、人間によく似た姿をしているアンドロイドが入口を通って店の中へ入っていく。



「……人間に近い姿をして何かいいことがあるのかな?」



外からじっと見ていると、ガラスの向こう、店の中で数名のアンドロイドがパーツを眺めているのがうかがえる。



僕たちが見ているのは、人間によく似た姿ができるパーツを売っている店だ。



店をよく出入りをしているところを見る限り、人間の姿を真似ることに何かしらメリットがあって、だからこそ需要がある可能性がある。



「アンドロイドが人間に似た見た目を重視する理由は、人間と接しやすくするためよ」



「……人間と接しやすくする?

別に姿を変えなくても接しやすさは変わらないんじゃないの?」



「いいえ、姿を変えて印象を変えると、人間側の対応が変わることがあるわ

たとえば、リアンよりも小さな子供が機械がむき出しの姿のアンドロイドを見ると、怖くて泣いてしまうの

でも優しそうな人間の姿で対応すると人間と同じような雰囲気から泣かれることも回避することができるし、物事がスムーズに進んだりするのよ」



「……確かに、背が低い小さな子の前に、自分より何倍も高い機械的な見た目のアンドロイドがいたら怖いよね」



僕はパルトネルを見た時のことを思い出した。


彼は僕が見上げるほど大きくて、ごつごつしていて強そうで、頭のパーツで顔が見えない事から表情もわからなくて怖い印象しか残っていない。



「そういえば、喫茶店にいた店員や姐さんは、にっこり笑ったりする機能を持ったアンドロイドだったね

それにお客さんは人間ばかりだった……」



喫茶店で飲食を行うのは人間だ、アンドロイドは飲食を行わないだろう。


つまり人間の付き添いでもない限りは、喫茶店の客は基本的に人間なのだ。


人がたくさん、子供も来るかもしれない場所で機械的な見た目をしていると、人を怖がらせてしまうかもしれないのだろうと考えた。



「そうね、彼女たちは人間が相手の仕事をしているから、喫茶店という場所で安らぎを与えるために人の姿をしているのかも知れないわね」



「なるほど……怖がらせないためじゃなくて、安らぎを与えることもできるんだ

機械的な見た目をしているとメリットが少ないのかな……」



僕がそう呟くと、ミトラは首を横に振って「そんなことはないわ」と答えた。



「それは誤解よ

戦闘などの機能に特化出来るのはアンドロイドの姿だから、外に行く仕事をしているアンドロイドは基本的に機械的な見た目をしていると思うわ

活動できる時間を延ばしたり、武器を仕込んだりできるんじゃなかったかしら……」



「へえ……じゃあ戦いたかったらアンドロイドの見た目で、人と接したかったら人間の見た目になるって感じなの?」



「そうそう、大雑把に分けるとそんな感じね」



「適した場所で適した格好をするなんて、なんだか着替えみたいだね?」



「そうね、人間でいう着替えとほとんど変わらないわ」



実験を行うときは実験の服に着替えて、普段は着易い服を着てという感覚は、たとえ姿が変わっても同じなのかもしれない。


そういう意味では親近感がわく。



「……ところで、先生のところに行くって言ってたけど、先生はどこにいるの?」



すたすたと歩くミトラの横顔を見ながら、僕はたずねた



「学校よ」



「学校?学校ってたしか、子供が通って色々なことを学ぶ場所だったような……」



クレイ研究所にいる時にミトラから聞いたことがある。


研究所の外の子供たちがどうしてるか聞いたとき、学校という場所に行って様々なことを学び、大人になっていくのだと。



僕は学校に行ったことがない。


学校には大人がいて、大人が子供に知識を教える場所なのだと教わった。


まるで僕がミトラから色々なことを教わったように、子供が色々なことを教わっているのだろう。



ミトラはいろいろなことを知っている。


きっと先生は大人で、とても博識な人に違いない。



「そうね、先生にセルセラ様のことを教えてもらおうと思ったの」



「なるほど、たしか生前のセルセラ様の事を知ってるってさっき言ってたから、きっと長生きなひとなんだろうな……」



「……え、えぇそうよ……」



僕の呟きに対して、ミトラは眉をひそめながら困ったように笑った。


僕は何かおかしなことを言っただろうか?と考えたが、特におかしなことを言った自覚はなかった。



「どうしたの?」



「……その、確かに長生きな人ではあるの

でも彼は歴史担当の教師だから、伝統を重んじていて厳しいところがあるのを思い出して、そこが少し……」



「……厳しい?」



「ええ、とても、気難しいともいえるわ」



……気難しい?



ミトラの話から想像するに、何か作法を間違えたりすると厳しく怒られたりするのだろうか?



僕は見知らぬ人からすごい剣幕で怒鳴られるところを想像した。


僕は小さくなって涙目になり、一方的にがみがみと怒鳴られているところを。



「……こ、怖い」



僕は研究所の中で暮らしてきた。


伝統なんて詳しくないし、大人たちのルールだってよくわかっていない。


外の世界のこともほとんど知らなかった、壊世雨の姿だってまだ最近初めて見た、そんな僕に知識があるとは到底思えない。



怒られずにいられる自信がない。



「そんなに心配しなくても大丈夫よ、学校に行く前に花を買いに行きましょ」



「……お花?どうしてお花を買うの?」



「昔からあるやり方で、挨拶の時に花を贈るという文化があるの

セルセラ様の生前は、アーツを使って大量の野菜や果物を育てていたそうなの

これは聞いた話だけど、始まりは道端に生えた花を素敵だと思った人が、セルセラ様に花を贈ったことで……」



「道端に生えた花を……?」



「ええ、セルセラ様はその花をすごく気に入ったようで、喜んでいたみたい

それがきっかけで人々がセルセラ様に花を贈るようになったそうよ

それから野菜や果物の他に花が育てられるようになって、セルセラ様以外にも他者への挨拶の時に贈られるようになったわ」



「初めて花を贈った人がきっかけで、みんな花の良さに気付いていったって感じだね」



「そうね、日常的になったからこそ、今でもその文化が残ってるのよ

先生にも花を贈ったらきっと喜ぶわ」



「伝統を重んじる人なら確かに喜びそう!」



僕の頭の中で、頑固な人がうんうんと頷く様子が思い浮かんだ。


ミトラのそばで礼儀正しくしていれば怒られない可能性はある。



僕は少し緊張しながらも、ミトラと一緒に花屋に向かった。

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