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8:思い出と贈り物

……カランカラン。



店を出ると、入口のベルが鳴りゆっくりとドアは閉まった。


その外は日が少し高くなってきており、水色の瞳に入る前よりも気温は温かくなっていた。



早朝よりも人が出払っているのか歩道は人が減り、混雑は解消されて人の流れもゆっくりになっていた。


それでもなおカラクリ通りには活気があり、人が店に出入りしている様子が見える。



……それにしてもカラクリ通りのお店は個性的だ。



ぱっと見た視線の先の建物には植物があふれており、草で覆われているせいで壁が見えない店がある。


花が咲いていたり、葉が生い茂っている森のようなお店。


店員がじょうろで水やりをしているが、その店員の頭にも花が添えてあったりと、植物への愛を感じる。


店の上には苗木のマークの書かれた木目調のデザインの看板がぶら下がっている。



他にも、建物の入り口につぎはぎしたカラフルな布が、のれんのようにぶら下がっているお店。


店先には洗濯物を干すときのようにぶら下がった紐があり、そこに布で出来たものが吊るされ、形や模様、色も様々な服や手拭いなどがある。


入口の上には金属で作られた服のロゴがある。



カラクリ通りの店は商店街とは違い、屋台形式ではなく建物にひとつ、または似た種類のお店がいくつか入っていると言った感じだ。


そして建物自体もレイアウトされていて個性が出ており、その雰囲気と標識で何のお店なのか分かるようになっている。



僕の左側、道路には車が通っている。


車は各お店の前に止まってその物資を積み下ろしていたり、他の区域に向かって走っていっている。



「ミトラ、これから何処に行くの?」



僕は隣でじっとこちらを見ていたミトラの方を振り向いて話しかけた。


いつも僕のことを引っ張り導いてくれる彼女の事だ、きっと今度も行き場所があるに違いない。



「うーん、どうしようかしら……」



ミトラは頭を少し傾けながら頬に手を当て、僕を見ながらじっと考えているような素振りを見せた。


彼女にしては珍しく計画していなかったのだろうか。



「ミトラが迷ってるのは初めて……」



僕は息を吐くように、心で思ったことが言葉に出た。



研究所にいた時のミトラはとても計画的だが、そうでない時の彼女は案外気ままで穏やかな時間を過ごしていたりするのだろうか?と考えた。



「私だって迷うことぐらいあるわよ?」



「えっ、あっ……」



僕は慌てて両手で自分の口を覆った。


ミトラが怒っているのではないかと不安になったが、彼女は僕を見てふふっと笑った。



「仕事の時は目標に向けて動いているわ、明確に行動指針がある

でもこれは仕事とは別、自分で目標を立てなければいけないわ

決まりや方針がないからこそ、自由すぎて迷うの」



「な、なるほど……」



僕はそう答えたが、ミトラの言っていることをあまり理解できなかった。


なぜ自由なことで迷うのか、自由だからこそ迷わないのではないか、そう思った。



でも、きっとそういう場面に遭ったら、ミトラの気持ちはわかるだろう。


僕はクレイ研究所の研究員になったことはないし、ミトラのように働いたことはないから分からない。



ふと、僕はいつも誰かに目標を与えられていると思った。



「……昨日話した通り、リアンの能力について一緒に考えたいの

リアンはセルセラ様の遺伝子を継いでるから、セルセラ様についてもっと詳しく知ることができれば、リアンが能力を使う時の参考になるかもしれないと考えてるわ」



「セルセラ様の真似をしたら……できそうってこと……?」



「可能性はあるわ、だからセルセラ様について詳しい人がいるところに行ってみましょ

私に勉強を教えてくれていた先生なら、生前のセルセラ様について詳しいはず……」



ミトラは僕をじっと見つめる。


しかし手を口に当てて難しい顔をしており、視線の向こうでは先生と呼んだ人のことを思い出しているようだった。



一体どんな人だろう?



僕がそう考えていると、ミトラは表情を緩めて僕の胸元に手を差し出してくる。


その手を握ると、ミトラはその人物がいるであろう方向に歩きだし、僕は彼女に付いて行った。



「ミトラは研究をしてるからセルセラ様について詳しい気がするけど、先生はもっと詳しいの?」



僕は歩きながらふと考えた。



ミトラより詳しい……というのはなかなか難しい話だろう。


彼女は日頃から研究をしているのだ、そんな人は珍しい。



僕がたずねたことに対して、ミトラは頷いた。



「私は生前のセルセラ様を知らないわ

先生は私よりもずっと長く生きていて、セルセラ様の事も知っているの」



僕は不思議に思ってミトラの顔を見た。


それは、ミトラがセルセラ様を知らないというのがおかしいと思ったからだ。



―――セルセラが亡くなったのは20年前だ。



彼女の容姿から考えると、小さなころに一度は見たことがあるはずだと思うのだが……。



「ミトラはセルセラ様に会ったことがないってこと?」



「ええ、そうよ」



僕は考えた。



もしかすると、ミトラは容姿が大人びている人ではないかと。


てっきり20歳を過ぎている大人だと思っていたが、違うのかもしれない。



僕はふと彼女に聞こうと思ったが、口を止めた。



クレイ研究所にいた頃、男性が女性に年齢を聞いて、女性が不機嫌になるという場面を見たことがあったからだ。


それは僕も例外ではないだろう……。



僕が今ここでミトラの年齢を聞いてしまうと、彼女は機嫌を悪くしてしまうかもしれない。



僕は気になりながらも黙った。

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