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7-3

相棒の死は深い絶望をもたらすだろう。


パルトネルはきっと深い苦しみの中から抜け出せずに苦しんでいるに違いないと思った。


そしてそれは僕にも起こりうる話だ。



僕が力を発揮できずにミトラが壊世生物の発したエネルギーを大量に浴びるところを想像した。



ミトラが死んだら、僕は……―――。



「失礼します、お待たせしました、新鮮野菜と鶏肉のラップです」



ぼんやりと考えていた僕の前にコトンと僕の前に注文した料理が置かれる。


トマトとレタス、鶏肉が生地に巻かれている料理。



沈黙していたミトラと姐さんは嬉しそうに笑った。



「やっときたねえ!さあお食べよ!」



姐さんはははっとわらう。


しかし料理を持ってきたエプロンドレスのアンドロイドが姉さんを睨みつけていた。



「姐様、お客様の席に座って寛いでいないでお冷をお持ちしたらどうですか?

サボるのもいい加減にしてください」



エプロンドレスのアンドロイドはミトラの前に料理を置くと、ふぅ、と息をついてむすっとしていた。


一方で姐さんは豪快にははは!と笑っている。



「久しぶりにミトラちゃんが羽休めに来たんだ、たまにはいいじゃないか!」



「もう充分話されていましたし、料理もできたのですよ……」



エプロンドレスのアンドロイドは、片手に乗せているトレイからグラスに注がれた水を、コトンと僕とミトラの前に置いてくれた。


そして空になったトレイを抱えると、片手で姐さんの腕を勢いよく引っ張り上げた。


姐さんの鉄の身体はぐらりと外に傾き、姐さんはおっとっと、とバランスをとって立ち上がった。



「ちぇっ……」



姐さんは舌打ちをした。



2人のやり取りを見て、もしかすると姐さんはサボり常習犯なのかもしれないと思い、苦笑いをした。


きっと僕とミトラ以外の人たちにも話しかけているに違いない。



「いや、私が呼び止めたのよ、話が聞きたくて!」



ミトラがエプロンドレスのアンドロイドをなだめようとする。


すると姐さんはにやりと笑って、エプロンドレスのアンドロイドを見ていた。


そうだそうだと言わんばかりのドヤ顔だった。



しかしエプロンドレスのアンドロイドはぺこりとお辞儀をすると、容赦なく姐さんの腕を引っ張った。



「……失礼しました」



姐さんはエプロンドレスのアンドロイドに連れていかれて、姉さんは渋々と言った感じでキッチンに回収されていった。


これから真面目に仕事させられるのだろう……。



姐さんは仕事をさぼるアンドロイドだったようだ。



「……じゃあ、いただきます!」



ミトラが前で手を合わせていた。


僕も手を合わせて「いただきまーす」と言う。



目の前には白くて丸い大きな皿の上に、トマトとレタス、鶏肉が薄い生地に巻かれている料理がある。


1本だと長いためか半分に切られており、両端は紙で包んであって片手で食べやすいようになっている。


半分になったものが計4個あり、ちょっと多い気はしたがひとつひとつが小さいので食べきれそうではある。



そのうちのひとつを掴み、口へ運んだ。


はみ出しそうな具にかぶりついてほおばる。



……パクッ。



「さっぱりしてておいしい~……」



トマトの果汁とシャキシャキのレタスの水分が広がり、鶏肉の油を吸収してくれる。


鶏肉につけられたソースはコクと甘味があり、鶏肉自体はとてもやわらかくてジューシーで食べやすかった。


なんて優しくておいしい食べ物なんだろう……。



これはパクパクいける……!



僕はあっという間に1個を食べてもう半分に手を伸ばしていた。



「そんなに慌てて食べなくても、食べ物は逃げないわよ」



僕の食べ方を見ていたのか、ミトラが苦笑いをしていた。


僕は手で料理を掴みながらミトラの方を見た。



「すごく、すごくおいしくて……!」



「ふふ、そんなに目を輝かせるなんて、よっぽどおいしかったのね

でも急いで食べると喉に詰まっちゃうわよ」



手が、口が止まらない、この料理はクセになる。



……とはいえ慌てて食べすぎたかもしれない。



確かにのどに詰まらせたら危険だと思い、僕はなるべくゆっくり食べることを意識した。



「―――なぜ総督が喋らなくなったのかは具体的には分からなかったわ」



ミトラは料理を食べながらぼそりと呟いた。


僕は手を止めてミトラの方を見た。



そういえば、姐さんはパルトネルが喋らなくなったことをセルセラが死んでしまったからではないかと言っていた。


パルトネルは相棒が亡くなったことが忘れられなくて、悲しみに暮れているのだろうか?


無口だからそれすらもわからない、そうかもしれない……。



「え?セルセラ様が亡くなったからじゃないの?」



僕がそう言うとミトラは首を横に振った。



「セルセラ様が亡くなったのは20年前、総督が喋らなくなったのは数年前なの

亡くなったことは関係ないと思うわ」



「じゃあ、なんでなんだろう?」



考えながら静かに料理に手を伸ばした。



僕はパルトネルとそんなに話したことがないが、少ない経験をもとに頭をフル回転させた。



パルトネルはセルセラを大事に思っていた。


セルセラは死んでしまった。



つまり、セルセラを思い出すのが辛いかもしれない……。



「……はっ」



僕はひらめいた。


僕の様子を見ていたミトラが、こちらを見てピタリと動きを止めていた。



「僕の存在でセルセラ様を思い出して辛いのかもしれない……」



「……?」



「だってほら、僕は研究所を出てからいろんな人にセルセラ様に似てるとか、同じ髪色をしてるとか言われてきたんだ

パルトネルもそれを見るとセルセラ様を思い出して辛いのかなって」



「総督はリアンの存在がトラウマで嫌だってことかしら?

……思い返すとリアンの生成に成功した辺りから喋らなくなっていったわね……」



ミトラはピタリと手を止め、難しい顔をして宙を見ながらしばらく黙り込んだ。



「……でも、それはないと思うわ」



ミトラはうーんと少し悩んだあと、首を横に振った。


経験上、考えられないということだろう。



「うーん、じゃあなんだろう……」



名推理だと思ったが、ミトラの知ってる中だと違うらしい。


僕のことが嫌いなら剣を振った理由も、目の前から消したいという理由でつじつまが合うと思ったのだが。



でもミトラは研究員をしてきてパルトネルと関わってきたのだから、たった1回しか会ったことのない僕よりも彼のことを知っているだろう。



「分からないわね……何かヒントがあると思ったのだけど

……やっぱり総督が何を考えているか分からないわね」



ミトラはため息をついた。



何かヒントはないのだろうか?


僕はふとミトラの知っている過去から何か分からないかと聞いてみることにした。



「ミトラの知ってる昔のパルトネルはどんな人だったの?」



子供の頃からパルトネルと一緒に研究をしてるミトラなら何か知っているに違いないと考えた。


ミトラはうーんと考えながら、ゆっくり話してくれた。



「第一印象は頭の固い人、頑固な人だったわ

人使いも荒くて、対応も無愛想でぶっきらぼうな感じよ

でも不思議とたくさんの人に慕われていたの

私は何でこんな人がトップで人をまとめられるのか疑問に思っていたわ」



ミトラは苦笑いをする。



そんな人でも付いて行きたくなる要素があったから、人々に慕われていたのだろうと思い、僕は黙って話を聞いた。



「でも何度も話をしていくうちに感じたことだけど、総督は感情に疎い人なのかもしれないわ

問題を解決するために一切の感情を捨てたといった感じで、だからこそ私とはよく合わなくてぶつかっていたと思うの」



「感情を捨てる……?」



「ええ、私とは正反対の人間、いやアンドロイドといったかんじかしら

感情がないわけではないのだけど、思考回路がロジカルさに全振りした感じなのよ

論理的ともいうわね」



問題を解決する能力が高い、つまりパルトネルは頭がいいのだろう。


しかし感情はポイッと捨てられる物ではない、人間にもアンドロイドにも心があるはずだ。



……いや、もしかすると物事を順序だてて考えていくうちに、自分の感情に振り回されるのが邪魔になってしまったのかもしれない。


それを無視し続けた結果、感情に疎くなり、ロジカルな部位に尖っていったということだろう。


トップに立っているなら人を指揮する必要がある、自身の感情に振り回されていてはその役割は成り立たないのかもしれない。



「でもどれだけ物事の本質を分析しても、それが本当かどうかは分からないじゃない?

それに問題を解決できても、人々の心を置いてけぼりにしているかもしれないわ

総督はそれに気付いていたのか、時折人々のところに顔を出したり、子供たちと遊んだりしてたわ」



「あんなに怖い人と遊ぶ子供がいるんだ、昔は違ったのかな……」



子供の遊びに混ざると聞いて、僕は元気よく遊ぶ幼い子供を思い浮かべた。


あのパルトネルが子供に囲まれ、遊びを教えてもらっている……。


しかし無邪気や遊びというのは彼には難しく、不思議だと思ってきっと首をかしげるのだろう。



感情には疎いが思考した結果、出来事を根本的に解決をするためには人々の感情を理解する必要もあると考えたのかもしれない。



「そうね

私はそれで聞いたことがあるのだけど、子供たちに向かって『それは具体的に何を解決する物なんだ?』と総督は聞いていたわ

子供たちは無邪気に教えていて、総督は不器用ながらもそれに混ざっていたの

人々も総督のことを理解しているのか、物事を教えていたわ」



そう聞くとパルトネルはなんだか不器用な人、という印象を抱いた。


頭が良くて人から慕われているが、それゆえ共感性に欠けて不器用なのだろう。


しかしそれさえも人々に受け入れられていたようだ。



きっとパルトネルは努力家でもあるのだろう。



「でも、今の総督についてはよくわからないわ、まるでその真逆だもの……

シティの人々も総督のことを変だと思ってるみたいだし……」



「たしかに……」



朝に聞いたアイドルイリスのニュースでは、人々はパルトネルの対応に不満を持っているようだった。


そう聞くと確かに真逆だ、今は何を考えているのか理解できないという話を聞いたこともある。



……パルトネルは何を考えているのだろうか……?



僕らは2人で頭を悩ませながら、ゆっくりと料理を食べ進めた。



そして話をしている間にあっという間に皿は空になった。


もっと食べたいと恋しく感じた。



僕はグラスを手に取ると水を一気に飲み干した。



「おいしかった!ごちそうさまでした!」



「よかった」



僕は両手を合わせておいしいごはんにありつけたことと、もらった命に感謝を示した。


すると、その手をミトラが包むように両手で握ってきた。



「……ミトラ?どうしたの?」



僕が問いかけても反応せず、ミトラは真剣そうな表情で僕の手を見ていた。


僕は自分の手とミトラの顔を交互に見て何かあったのか考えていた。



「……感情の高ぶりと創世エネルギーの生成は関係なさそうね」



たしかに手もミトラの手も水色には光っていない。


僕がすごく楽しくなったりおいしいという感動では創世エネルギーは生み出せないようだ。



「さあ、カラクリ通りに行ってみましょ」



ミトラが席を立ち、僕もそれにつられて席を立った。



するとキッチンからこちらを見ていたエプロンドレスのアンドロイドが「ありがとうございます」と言っていた。

料理をしていたであろう姐さんがのそのそとキッチンから出てきて出入り口で僕とミトラを見ている。



僕とミトラは出入口のそばにいる姐さんのそばにゆっくり歩いて行った。



姐さんはにやにやと笑いながら僕たちを待っていた。



「おいしかったかい?」



姐さんは僕にそう聞いてきて、僕は大きくうなずいた。



「すごくおいしかった!食べやすくて優しい味!」



「それはよかったねえ」



姐さんは僕の頭をわしわしと撫でると、腰に付けた機械を隣で待っていたミトラの前に出した。


ミトラはその機械にカードをかざして会計を済ませていた。



「ありがとう、おいしかったわ」



ミトラが小さく手を振り、出入り口に歩いて行ってドアの取っ手を握り、ドアを押し開ける。



「ごちそうさま!」



僕は姐さんにそう言うと、ぱたぱたとミトラの後ろに付いて行った。



「またゆっくりおいで、その時は研究の話でも聞かせてくれたら嬉しいよ」



ミトラはふふっと笑い、笑顔を返していた。


姐さんは僕たちを見送ってくれた。

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