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7:相棒と沈黙

……猛烈に眠い。



目を覚ますと隣にミトラはおらず、僕は家事ロボットにたたき起こされた。


その起こし方はかなり横暴だ、腹に勢いよく固い手を叩き込んでくるのだから。



……ゆすっても起きない僕がいけないのかもしれないが。



布団があたたかかったからもっと眠っていたくて、ついつい寝すぎてしまった。


僕は家事ロボットに手伝ってもらいながら寝ぼけ眼で着替え、リビングのドアを開けた。



「やっと起きたわね!私が起こしてもしがみつきながら寝言を言って起きないんだから!」



椅子に座って上半身をこちらに向けて振り返り、ミトラは待ちくたびれたと言いたげな不機嫌な顔をしている。


彼女は朝に強いのかもしれない、いつ見てもしゃきっとしている。



「……うーん」



ベッドのぬくもりが恋しい、もう一度眠りたい、ぼーっとする。


僕は目をこすりながらくるりと向きを変えて、ドアの取っ手に手をかけた。


隣にいたロボットが僕の足元で「ピココ!」と音を立てて、ダメとでも言うように手を上下に振る。



「ちょ、ちょっと待って!また寝る気!?」



背後で椅子を引く音がしたかと思うと、バタバタと走ってくる音がして、両脇をガシッと掴まれて身体が浮き、取っ手から引きはがされた。


僕はミトラの腕の中で、無気力にぐでっとしていた。



あたたかい腕だ、布団のような優しさだ、眠れそう……。



腕の中でうつらうつらとしていると、ミトラが耳元に顔を近づけてきた。



「今からカラクリ通りに行くんでしょ、起きて!」



「カラクリ通り……」



大きな声が脳内にキンキンと響く。



そうだ、昨日はカラクリ通りに連れて行ってくれるとミトラが言っていた。


僕はまだ行ったことがなくて、それを聞いた昨晩はワクワクしていた。



その感覚を思い出した僕はワクワクが再沸騰して目が覚めた。



「……そうだった!」



「もう……寝ぼすけさんなんだから……」



ミトラはハァとため息をつくと、そっと僕をおろしてくれた。


床に足がついてミトラの手が離れた後、僕はくるりとミトラの方を振り返った。



「早く行きたい!!」



「慌てなくても今から行くわよ!」



僕がえへへと笑って返すと、ミトラは困ったような笑みを浮かべてわしわしと頭をなでてきた。


ミトラは困ったように笑う。



「しょうがない子ね……とりあえず朝ごはんを食べに行きましょ」



「……今日は家事ロボットに作ってもらわないの?」



家事ロボットを見ると、目をぱちくりさせて僕を見ていた。


キッチンは静かで料理の香りも漂っていない、今は何も用意されていないようだ。



「そうね、今日は私のよく知ってるお店に行こうと思って!」



ミトラは僕の後ろに回ると僕の両肩に手を置き、僕の身体を玄関のほうに向けて背中を押してくる。


僕は押されて足を前に進めた。


そしてドアの前で止まり、ミトラが片手でドアを押し開けると外に押し出された。



後ろを振り向くと、家事ロボットが手を振って見送ってくれていた。



外は眩しい朝日が照り付け、人々がそれぞれの目的に向かって歩いて行っていた。




※※※




僕とミトラは家を出てカラクリ通りに向かっていた。


噴水広場に着くと、朝が始まってせっせと役目を果たすために働く人たちでごった返していた。

僕は手を引かれてミトラと歩いていた。



―――テレレッテ~テレレ~。



テンポのいい音楽が頭上で聞こえた。



『ハロリス~!今日もいい天気だね!

でもでも、お昼ごろからちょっと曇り始めるかも!

雨が降る心配はないから安心してお出かけしてね!』



音楽が流れた方を見ると、司令塔の壁に映し出されたアイドル、イリスが相変わらず元気に明るく人々にニュースを届けていた。


人々は遠くまでよく通るその声に足を止めて司令塔を眺め始めた。



ミトラが足を止めて顔を上げて司令塔を眺め始め、僕もイリスの方を見た。



『今日はとっておきのニュースがあるんだ!

あのパルトネル様がどうやら新しい対抗策を考えてるみたいなんだ!

もしかしたら安全に外に出られる新しい方法が開発されるかも~!?』



イリスは両脇をぐっとしめて拳を握り、目をキラキラ輝かせながら身体を左右に揺らしてワクワクした様子だった。


イリスのチャームポイントである象牙色のリボンテールがゆらゆらと誘うように揺れて、人々はニュースに釘付けだった。



彼女はかわいい厳しい生活をしているレヴェリーシティの人々にとって、唯一の癒し的な存在だと言えるだろう。



しかし人々が気にしていたのはニュースの内容のようだった。



「あのパルトネル様が新しい対抗策……?

壊世エネルギーの武器のような命の危険があるものの開発を進めるような人だ、ろくなことじゃない!」



ふと僕の耳に怒りの声が聞こえた。



「昔のパルトネル様は我々の話を聞いてくださる心の広い方だったが、今のパルトネル様は心を閉ざしたように誰とも会話しないから、何をお考えなのかよくわからない

今度は何をお考えなのだろうか……」



「パルトネル様は壊世エネルギーの武器を使えという指示を押し通していた

その命令に逆らった者には嫌なら処刑かシティを出て行けと脅していた

そんな暴君じゃなかったのに気が狂ってしまったのか……

次の対抗策でもきっと……」



ニュースを聞いて、人々は顔を見合わせて不穏な表情をしていた。


辺りはざわざわと人々の声で溢れかえっていた。


そしてその数々の呟きもまた、パルトネルに対して怒りや不安の声を表すものだった。



「いっそミトラ様がレヴェリーシティのトップにいてくれたらいいのになあ……」



そんな呟きも聞こえた。


たしかに何を考えてるか分からない人に命を預けるようなことは出来ない。



一方でミトラはレヴェリーシティでも有名な人で実績を出していて、人々から支持されているのだろう。



「新しい対抗策?そんなの聞いてないわ……今度は何を考えてるのかしら……」



隣を見ると、ミトラが険しい表情を浮かべながらぼそっと呟いていた。


ミトラの中でさえ、パルトネルは理解のできない存在なのだろう。



僕の中での彼の印象は、訳のわからない人だった。


いきなりクレイ研究所にものすごい音とともに入ってきて大剣を振り上げてきた人、というイメージしか残っていない。


そしていきなり剣を振ってきた理由も何だったかよくわからず、僕もミトラと同じように何を考えているのかよくわからない、怖い……と思った。



『北の方は昨日起きた壊世雨で壊世生物がうろうろしていてちょっと危ないかも!

南門は今日も通行止めだよ!だから今日は西、東門を使ってね!』



イリスは背後にレヴェリーシティの地図を表示し、先端にハートが付いた棒でペチペチと壁を地図を指して説明し始めた。



すると人々は視線を司令塔に戻し、呟くのをやめて静まった。



『今日も生きて帰るんだぞ!イリスとの約束!バイバ~イ!』



そしてあっという間にイリスのニュースは終わった。


時が止まったように見上げていた人々はそれぞれの目的に向かって歩き始めた。



「明日、問いただしてみないと……」



ミトラは口をへの字にして、うむむ、と考えている様子だった。


眉間にしわを寄せて宙を見つめて深刻そうに考えている。



「……問いただす?」



僕がたずねると、ミトラは僕の存在を思い出したようにハッと振り向いた。


研究の事を考えているミトラはいつも真剣だ。


きっと考えることに夢中になってその世界に浸っていたのだろう。



「総督の事よ、昔はもう少し喋る人だったのだけど数年前から何も言わないで勝手に物事を進めるようになったの」


ミトラはため息をついて片手で困ったように頭を抱える。


何を考えているか分からない人の絶対命令に振り回されているというのは、大変なことかもしれない。


しかしそれ以上にミトラはシティの人々の安否を気にして悩んでいる気がした。



「リアンも聞いたことがあるかもしれないけど、総督はレヴェリーシティと2つの研究所をまとめている人なの

私が他の研究員から聞いた話だと、すごく長生きをしてるアンドロイドらしいわ」



「うーん、見た目がアンドロイドだからわからなかったけど、おじいちゃんってこと?」



アンドロイドは機械だから、人間のように老けていかないし老いが分からない。


相当長い……それは一体何才ぐらいの人なんだろうか……?



「たしかにその表現が近いわね

私が研究員に志願したとき、彼は研究機関を束ねていたわ

総督は私がバリアのアイデアを出すと話を聞いてくれて、そのバリアの案を生かしてレヴェリーシティを作るという計画を立てたわ」



「ミトラとパルトネルが力を合わせて一緒にシティを作ったんだ?」



「そういうことね

彼は人々にそのレヴェリーシティを作ろうとしているアイデアをを共有し、人々と力を合わせて今のレヴェリーシティを作っていったわ」



昔のパルトネルはどうやらまともな人だったようだ。



それゆえに人と協力してレヴェリーシティを作ることに成功したのだろう。


当時はきっと指揮者やリーダーのような存在だったに違いないと僕は思った。



「……シティが出来てからは、壊世雨に対抗して生存できる策を考えることに集中していたわ

彼と話をしたのち、最も有効な壊世雨の対抗策としてセルセラ様の代わりになる存在を作る事にした

人々はアーツに頼って生きていたからそれが一番よかった

私たちは協力して研究を重ね、人造人間を生み出した……」



「それが僕だったんだ、でもなんで最も有効な対抗策のプロジェクトを中止したんだろう?」



「分からないわ……彼の口から語られない限り……」



ミトラはうーんと考えていた。


そしてぱっと顔を上げると、僕の手を引っ張った。



「昔のことについて探ってみるのがいいかもしれないわ

きっと今から行くお店の店主が詳しいわ、総督の過去について聞いてみましょ」



「うん!」



僕たちは広場を左に曲がり、カラクリ通りに向かった。

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