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6:水色の力

寝る準備を整えて寝室に行き、僕はふかふかのベッドの上に腰かけていた。


薄暗い部屋、ミトラの前にある机の上のモニターと窓から差し込む月の明かりだけが部屋を照らしている。


相変わらず研究熱心で机に向かって頭を抱えるミトラの様子を僕はぼんやり眺めていた。



僕は今日一日あったことを振り返っていた。



壊世雨の予測が北門付近で合って、北門ではイディオと戦うことになった。


それからミトラに助けられたけどミトラが汚染されて死にそうになって、僕は力が使えるようになった……。



「……リアン、私の考えた実験に付き合ってくれる?」



突然、名前を呼ばれて顔を上げると、ミトラが机の上のスケジュール帳に片手を置きながら身体をこちらに向けて、まっすぐ僕を見ていた。



「……?実験?壊世雨の予測のお手伝い?」



僕は首を傾げた。壊世雨の予測を手伝えることができたのだろうか?


そう思ったがミトラは首を横に振った。



「違うわ、今日振り返って考えていたの、リアンの力がどうしたら使えるかをね」



どうやら壊世雨の予測の実験ではなく僕の力のことについて考えていたようだ。


ミトラはふぅと息をつくと、宙を見上げて深く背もたれにもたれかかりながら、腕を組んで話し始めた。



「リアンは北門で門番を助けようとして力を使おうとしたけど使えなかった

私はリアンが力が使えなかった理由を解明したいわ、今後同じことを繰り返さないためにもね」



「……そうだね」



「クレイ研究所ではプロジェクトの中止を要求された

でも私個人で研究して、リアンが私以外の人にも創世エネルギーを与えられるということができれば、プロジェクト関係なくシティの人々を救えると思うの」



ミトラはゆっくりと立ち上がって、僕の前に歩いてきてしゃがんだ。


そして手の平を上に向けて両手をすっと差し出してきて、鶯色の瞳は僕を見上げてまっすぐ僕を見つめてきた。


彼女はレヴェリーシティを救うために、さらに研究を1つ増やそうとしている。



「リアンはどうしたい?シティの人を助けたい?それとも私といるだけで満足してる?」



ミトラにそう言われてふと思い出した。



僕自体はアーツの復活の目的で作られた存在なのだと。



プロジェクトが中止された瞬間、まるで道具のように扱われ僕は不要な存在となった。


捨てられた僕をミトラが助けてくれた、研究員達は僕を必要としていない。



僕は考えた。



「(……力が使えるようになったからと言って、研究を手伝う義務はない

僕はもう研究所の道具ではないのだから……)」



僕はミトラといられることに満足していた。それは本当だった。



しかし僕の脳裏にはシティに帰ることを諦めた門番と、狂気に満ちた汚染者の姿が焼き付いていた。


それに、シティで関わってきた人たちは、誰も僕を道具だと呼ばなかった。



「(研究所であったこととシティの人々は別だ

僕は目の前の人を助けられるかもしれない力があるのに、見捨てるなんて出来ない)」



僕は自分の可能性をシティの人々のために使いたい。


それが答えだった。



「僕もミトラと一緒でシティの人たちを助けたいと思ってる

だからミトラの考えた実験をやりたい」



僕はミトラの両手にふわっと自分の手を重ねて握った。


すると僕の両手はポカポカと温まり、ぼんやりと水色に光り初めて次第に明るさを増し、辺りは一面水色の光で眩しく照らされた。



「眩し……っ」



僕は目を細めて顔をそらした。


暗い部屋が強い水色の光に照らされて水色に染まる。



なぜ門番の時には力が発動しなくて今発動するのかがよくわからない。


やっぱりミトラだからなのだろうか?



「なんで今、創世エネルギーの生成が起きてるのかしら……

それに以前よりも光り方が強いわ……」



水色の光はミトラの手に伝わって、強くなったり、弱くなったり、それを繰り返して呼吸をするように光る。


目が慣れてくると、その光はとても心地が良くて優しい光だと感じた。



「さっきまで水色に光ってなかった、だからやっぱり力を発揮するにはきっかけがあるはずだわ……」



ミトラは眉をひそめて難しそうな顔をして僕の手を見つめていた。


しかし今はミトラの手を握る事しかやっていない。



「……今みたいに僕が他の人に触れたら力が発揮できるんじゃないの?」



僕がそう言うとミトラはすっと手を離し、僕から離れて机の前に立った。


それでも僕の手はゆらゆらと光ったまま、ミトラの手や胸のあたりがぼんやりと水色に光っている。


離れていても力が発揮されているのだろう。



「いいえ、たぶん触れているかどうかは関係ないわ、離れてもほら手は光ってる

それにセルセラ様のいる場所からずっと離れた隣町の人までもがアーツを使えたと研究の記録には書いてあったもの」



影響範囲は相当広いということだろうか。



しかしミトラはそう言った後に宙を見る。


それから何かを考え付いたのか、顎に手を当てて僕の手を見つめながらうーんと首をかしげていた。



「セルセラ様の創世エネルギーの生成原理もわからないけど、もうひとつ分からないことがあるわ」



「……?なんだろう?」



「リアン、思い出してみて

私を助けたときにイディオたちに変化はあった?病院にはどんな人がいた?」



「……うーん」



僕はその時の様子を思い出す。



イディオの連れていたアンドロイドは壊世エネルギーの武器を使っていて、病院には汚染者が歩いていた。



しかし僕はミトラのそばで創世エネルギーを生成している、これは隣町までも届く力のはずだ。



……おかしい。



「リアンの力は広範囲に影響があるはずなのに、私以外の誰にも創世エネルギーを与えている様子がないの、何故かしら?」



もしも影響を受けていたなら、イディオとそのアンドロイドはアーツを使っていただろうし、病院の汚染者は全員汚染から回復していてもおかしくないだろう。



広範囲に及ぶものでありながら、1人にしか効果が出ていない、なぜだろうか。



「……あ、ミトラだけが何か特別とか?」



「そう……なのかしら……?

いや、そんなはずはないわ、セルセラ様は多数の人にアーツを使えるようにしていたんだもの

……もしかして創世エネルギーが与えられることに関して条件があったりするのかしら……」



「条件……?うーん」



そう話してる間に光は徐々に弱まって最後には光の粒子をぱっと散らして消えて、辺りは月明りとモニターの明かりだけになった。



影響範囲が広いはずなのに、ミトラしか反応が出ないのはやはり不思議な話だ。


僕はミトラが具体的にどういう条件を満たして影響を受けたのか、考えた。



ミトラの顔をじっと見てぱっと思いついた。



「ミトラだけが当てはまる条件があるのだとしたら、僕が安心する人とか、大好きだと思っているかどうかなのかな……

門番さんを助けたいって思っても応えてくれなかったんだ」



ミトラは僕の恩人で、小さい頃から面倒を見てくれて、すごく僕のことを大事にしてくれていると思う。


そう言う意味では僕はミトラのことが大好きだ。いつだって素敵な時間を送れる。



それが何か関係しているんだろうか、と考えていると、ミトラは僕のことを二度見して頬を両手で覆っていた。



「リアン、今大好きって……」



「うん、僕はミトラのこと大好きだよ?」



「……!」



僕がそう言うと真剣に考えていたはずのミトラの表情が緩んでニコニコとしていた。


頬を覆う両手を口元にずらして口を覆っていた。


ミトラはふるふると首を振ると、こほん!と咳払いをした。



「……ん、つまり、好意ってことかしら……?」



好意……。


確かに門番にもイディオにも好意はない、イディオにおいては憎しみさえ抱いていた。


しかしそうだとしたら矛盾点がある。



「でもそうだったらクレイ研究所にいる時から、ミトラがアーツを使えるようになっててもおかしくないかも

僕はクレイ研究所にいる時からミトラのことが大好きだよ

でもミトラはずっとアーツを使えなかったんでしょ?」



「そうね、確かにアーツ以前に私の体内に創世エネルギーの反応はなかったわ

どうしたらリアンは力が使えるのか、それとどうしたら創世エネルギーを与えられるのかについてはよくわからないわね……」



何をしたら僕の力は使えて、創世エネルギーを生成し、与えることができるのだろうか?


それさえ分かればまた門番のように汚染された人も救える気がした。



僕は頭を悩ませる。



……セルセラは、人々という多数の人たちに向けてアーツを使えるようにしていた。



きっと何か秘密があるのだろう……。

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