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5:私たちは支えられて生きている

僕とミトラは家に帰る前に商店街へ寄った。


理由は単純、晩御飯を調達するためだ。


まだ明るい商店街だったが、相変わらず人でにぎわっていて、左右で向かいと帰りの流れができている。


夕方のためか、以前と違ってシャッターの閉まっている店はほとんどなかった。



「今日はいいところに連れて行ってあげる」



ミトラはとてもうきうきした様子でそう言うと僕の手を引っ張った。


僕は人の波にのまれないように必死でミトラに付いて行った。



しばらく歩いてミトラがすっと脇に出た。


その後に続いて僕も出ると、そこは水の音がする不思議なお店だった。



「らっしゃい!ミトラ様じゃないか!」



ガタイのいい元気な店主が挨拶をしてきて、僕は会釈をした。


ミトラは隣で店主に小さく手を振っている。



そのお店はこの商店街では珍しく、店にロボットがいない。調整中だろうか?


中央の机には白かったり茶色かったりする、干し肉のようなものが大量に並べられている。


周囲には階段状にたくさんの水槽があり、水が循環している。


そしてその水槽の中では、生き物が水の中を漂っている。



生き物はみんな似たような形をしているが、大きかったり、小さかったり、黄色だったり銀色だったり黒色だったりする。


キラキラと光るうろこが、水槽の上のライトに照らされて輝いているのがとてもきれいだ。



……それにしても、この形、どこかで見たような?



僕は水槽の前に立ってじっとその生き物を見ていた。



「はっはっは!ボウズ!魚は初めてかい?」



「……これが……魚……?」



「レヴェリーシティではここしかないもんなあ!」



声をかけられて振り向くと、元気な店主が僕を見て豪快に笑っていた。


腕を組んで僕を見下ろしている。



「セルセラ様の生前は海の魚も食べられたが、最近は壊世エネルギーのせいであまり船が出せずに海の魚は取れない、奇跡的に船を出せたとしても汚染で魚がいっぱい死んでたりするしなあ」



「……船?」



「そうか!ボウズみたいに小さいと船の事も知らないか!ハハッ!

海に浮かべて魚を取ったりする乗り物のことだぞ!」



「そんなものがあったんだ……」



僕は水槽の魚に視線を戻した。



魚、魚、魚……。



これが、Tシャツに書かれていた生き物なのか……。



水の中をひらひら泳いでいて、ひとつ目……かとおもいきや、反対を向くとそちらにも目がある。


僕がじっと見ていた黄色い魚は水槽の中を大きな目でぎょろぎょろと眺め、口をパクパクさせている。


体高が高く、尻尾のほうに行くとスッと細くなり、身体がひし形のような形をしている。


そしてその先に水をかいている尻尾と思われるものがある。



「ミトラ!魚はひとつ目じゃないの!?」



僕はたしかに見た。


ミトラが僕に着せた服の魚はひとつ目だった。



てっきりああいう形のものが泳いでいるのかと思っていた。


僕が魚を指さし、後ろにいたミトラにそう言う。


店主は大きな声でがははと笑い、ミトラも口に手を当てて吹き出していた。



「ぷっ……目は2つあるわよ」



ミトラは笑いながら答え、僕の顔ほどの大きさの黄色い魚を指差す。


表と裏、確かに2つある。



「もっと近くで見てみるかい?」



「……え?」



店主は軍手をした手を水槽に入れ、ミトラと見ていた黄色の魚の尻尾の付け根をぐっとわし掴みした。



バシャン!



すると黄色の魚は身体をくねくねと捻って水槽の中で暴れ始め、水槽は黄色の魚の尻尾で空気と水が混ざって泡だらけになり、周りの魚は水槽の端へ逃げ出す。


店主はそのままその魚を持ち上げ、バシャッと水槽から出す。


黄色の魚の尻尾や身体は水面を叩き、店主の手を振り払おうと激しく暴れた。



ピチピチピチ!!



黄色の魚は水槽を出てもなお、空中で身体を捻る。


店主は暴れる黄色の魚を、僕の顔に近づけてきた。



水しぶきが僕の顔に飛んできて、ピタッと触れてひんやりした温度を伝えてきた。



「うわぁあああ!!」



魚が店主の手から飛んできそうだ……!



僕は怖くて身を引き、後ずさりした。


しかし魚は店主の手にがっしりと握られて体をひねっているだけだった。


黄色の魚の目はぎょろりと、こちらを睨んでいるような感じがする。



口をパクパクさせ、目の横にあるフタのような部分がパカパカとしている。



「ほら、触ってみてもいいぞ!」



「……ひぃ……」



僕の顔ほどもある歪な形のものがびったんびったんと動くのが、怖い。



店主は魚を裏と表、両方向けて僕に見せてくれた。


店の光に照らされて鱗が綺麗に輝く。



まるで生きた宝石のようだ。



「ははは!」



店主は笑いながら水槽に黄色の魚を戻した。


黄色の魚は水槽に入れられるとスイっと店主の手を離れ、何事もなかったかのように水槽の中を泳ぎ始めた。



「魚を見れる機会は貴重だから、ゆっくり好きなだけ見ていくといい!」



店主は歯を見せて笑い、眩しい笑顔を見せると親指を立ててグッドサインをした。



「ふふ、ありがとう」



ミトラは店主にお礼を言い、僕のほうを見た。



「リアン、どんな魚が食べたい?」



「……え?たべ……え、食べる?」



僕はもう一度水槽の魚を見た。



デカい。暴れるし狂暴。睨まれて怖い。



僕はびったんびったんと暴れていた黄色の魚の狂気が忘れられなかった。


魚は食べられる、ということが次元を超えていて理解ができない。



「ミトラ、あんな怖いものをかじるの……?

口をびったんびったんされちゃうし、睨まれて怖いよ……食べられないものだよ……」



僕は魚の頭をがじがじとかじる自分と、それをやったことで黄色の魚に尻尾で壮絶なビンタされる自分を想像した。



無理だ、絶対無理だ……。



「リアンは肉みたいに解体されたものしか食べたことがないものね

もしかすると生きてる状態のものが食べ物になる事と結びつかないのかもしれないわ」



「……うーん?」



僕が辺りを見回していると、ミトラは別の水槽にいる魚を指差した。


その魚は身体が虹色に輝いていて、20センチほどの大きさで長方形の横に長い楕円のような形をした魚だった。


虹色のうろこが輝く魚に近寄ってみる。



ガラスの床をパクパクしていて目は小さく、丸い顔ですこし間抜けな感じの魚。


黄色の魚と違って、この魚はなんだか可愛い……。



「これにしてみましょ」



僕はよくわからなかった。


このふよふよしているのを食べるところが想像がつかない。


でもミトラがそう言うなら食べられるのだと思い、頷いた。



頭からかじるにしては大きすぎるのだ。


やはり食べる途中に尻尾で顔をビンタされるに違いない。



店主がバケツを持ってきて、ミトラの横に立った。



「これにするかい?」



「ええ、2匹くれる?」



ミトラがそう言うと、店主は四角いバケツで水槽の水をすくい、大きな手でわしっと虹色の魚の身体を捕まえる。


虹色の魚もまた、黄色の魚と同じように暴れるが、身体を掴まれているせいか威力は低く、ぴちぴちぴち!!と小さな水しぶきを上げる程度だった。


虹色の魚は水入りバケツにするりと入れられ、バケツでくるくると泳ぎ始める。



「ちょっと待ってな!」



店主はバケツを持って店の奥に行った。



しばらく待っていると、店主は空気がパンパンに入った透明な袋の中に水と2匹の魚を入れた状態で持ってきた。


魚は袋の中で底にむかって泳いでいる。


光に照らされると動く宝石みたいで綺麗だ。



「気を付けて持つんだぞ!」



僕は店主に袋を渡され、両手で受け取った。


生き物を持って帰る、不思議な感覚だ。


袋の中の水で魚が泳ぎまわり、袋が揺れる。



僕はなんだかうきうきした。



「ありがとう、また来るわね」



そばでミトラがポケットからカードを出し、店主が腰から外した機械にかざしていた。


機械からはピッと音が鳴り、会計を終えた音が鳴った。



「ボウズもまた来てくれな!」



「うん!」



僕は片手で袋を大事に抱えて、もう片方の手で店主に手を振った。


店主は眩しい笑顔で僕に手を振り返してくれた。



「リアン、行きましょ」



ミトラは左手を差し出してきた。


僕は左手で袋を抱えながら、右手でミトラの手を握って商店街の波に潜り込んだ。

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