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4-3

赤紫色の水たまりと飛沫が激しく散った跡と、アーツで切断され壊世生物がいたことすら証明できないように何もなくなった岩場。



ミトラは辺りを見回して僕を見つけると太刀を地面に落とし、こちらに駆け寄ってきた。


太刀はミトラの手から離れると、光の粒子になってさらさらと消えていった。



ミトラは僕の顔を覗き込んできた。



「リアン、よかった!大丈夫?」



僕はミトラに声をかけられる。


ミトラは僕の背中をさすってくれた。



酸欠で苦しい、ハァハァと浅く早い呼吸を繰り返し、頭がぼーっとする。



「……」



僕はすこしぼんやり、いや、放心状態にあった。


怖い?いいや、何が何だかよくわからない……。


僕は茫然と宙を見つめる。



人が壊世エネルギーに満ちて殺し合いが始まったり、人の身体が真っ二つになるのを見た僕はショックで身体が震えて何も喋られなくなっていた。



「ミトラ様!!」



護衛隊のリーダーのアンドロイドはメンバーを引き連れてミトラに駆け寄ってきた。



「ご無事でなによりです!ミトラ様はアーツが使えたのですね!」



「えぇ……」



ミトラは護衛隊と周辺を険しい表情で目を細めて見回す。


そして護衛隊の人たちに強く言った。



「それよりもこんなところに立っていると、また壊世生物に見つかって戦わないといけなくなるわ

北の人達は全員避難できたようだし、シティに戻りましょう」



護衛隊の人たちは頷いた。



ミトラは屈んで、座ったままの僕に手を差し出してきた。



「リアン、大丈夫?立てる?」



「う、うん」



僕はやっとのことで頷いて、震える手でミトラの手を掴まえようと伸ばした。


しかし距離感が分からないほど混乱し、手を掴めないでいた。


するとミトラは僕の手を捕まえてグイッと引っ張り上げ、僕の足は少しだけ浮いた。


少しふらふらとよろけたが、そのままバランスを取って何とか立ち上がった。



僕のそばで横になって顔を抑えていた門番も、すっと起きて立ち上がった。


門番は手がガタガタ震え、頭を辛そうに抱えながらフラフラしている。



「じゃあ行きましょ」



ミトラは僕を北門まで引っ張っていこうとする。


僕は頭がぼうっとしながらも、無気力によろよろと歩き始めた。



しかし護衛隊のリーダーのアンドロイドに呼び止められた。



「少し待ってくださいミトラ様!」



護衛隊のリーダーのアンドロイドはミトラを呼び止めた後、門番のほうを見た。



「お前、腕と首を見せてみろ」



護衛隊のリーダーのアンドロイドは、門番に腕と首を見せろと言った。


僕は門番の方を見た。


門番は服の袖をまくり、首元の装甲を外した。



手先から腕、首は赤紫色に怪しく光っており、顔の左半分も赤紫色で汚染され、目は壊世エネルギーと同じ赤紫色に光っていた。


膝から下も壊世エネルギーがしたたり落ちている、そこも汚染されている可能性が高い……。



「……お前はシティで死ぬか、出て行くか選べ、手遅れだ」



僕はその言葉に驚いて思わず声が出た。



「……え?」



シティは安全なのに、どうして出て行かなければならないのか。


門番はうつむいて黙り込んだ。



「……」



「お前は汚染されすぎている

パルトネル様の命令通り、身体の半分以上が侵食されている者はレヴェリーシティでは処刑だ

しかしシティを出て行くという選択をすれば、自力で生きるという方法もある

レヴェリーシティで生きる者はこの2つしか選択がない、さあ選べ」



処刑か、追放か。



身体の半分以上が侵食されているからとはいえ、何故そんな選択を迫られているのか分からなくて僕は止めようとした。



しかし護衛隊のアンドロイドは語る。



「汚染は進行する、そして進行すると自我が崩壊して誰かを襲うだろう

それがレヴェリーシティでは問題になる、さらに汚染が進めば壊世エネルギーに変化する

汚染が汚染を連鎖させてしまうことはシティを崩壊させるだろう」



上半身を見ると、ほとんど汚染が進んでいるといっても過言ではなかった。


それがもっと進むと、自我が崩壊して人を襲うようになるんだろうか……。



つまり汚染が進んだ人がいるとパンデミックが起こる可能性があるということだろう。



だとしたらシティにいると門番から汚染が拡大してしまう。


だからいられない、そう言うことだろう。



ならば回復させたらいいだけだ。


僕はそう閃き、門番に駆け寄った。



「待って!もう一度……もう一度……試させて!」



「……?」



「僕の力で、門番さんを治療あげられるかもしれないんだ!」



「……??君は一体……?」



護衛隊のアンドロイドは首をかしげる。


僕は門番の痙攣を起こしている赤紫色の右手を両手でぎゅっと握った。



「(僕は門番さんを助けたい……!)」



僕は祈った、門番の汚染が治り彼がまた北門で仕事をしているところを想像した。


苦しそうな痙攣や赤紫色に染まった瞳が元に戻ればいいと願った。



しかし手は温かくもならない、水色に光りもしない。



「……どうして、どうして応えてくれないの……」



門番の赤紫色の肌は元の色に戻らない。


護衛隊のアンドロイドは僕の腕を掴んだ。



「このままここにいると他の壊世生物に見つかって、もっと多くの人が死ぬことになるかもしれない、さあ帰ろう」



僕は腕を引っ張られる。



「嫌だ!!帰らない!!」



僕はアンドロイドを睨みつけて、大きな声で言った。


足に力を入れて踏ん張った。



すると手をかざすようにしてぎゅっと、僕の手は優しく握られた。



「……君まで死んでしまっては意味がない、帰りなさい」



僕の手を握っていたのは門番だった。


それから、門番は顔を上げて周囲の人に聞こえるように、よく通る声でハッキリと言う。



「自分はここに残ります、みなさんは帰ってください

……それと1つ、武器をください」



それから眉をひそめて悲しそうな顔をすると、ハハッと笑った。



「分かった」



護衛隊のリーダーのアンドロイドが門番に壊世エネルギーの武器、ピストルを渡した。


彼は……その武器を一体何に使うのだろうか……。



「……そんな」



門番はピストルを受け取ると、屈んで僕に優しい声で言った。



「さあ君も早く帰るんだ、ここであったことは忘れなさい」



門番は疲れたような表情を浮かべ、僕に小さく手を振る。


回復できなかったことが、こんなに残酷な結果になるなんて。



忘れられる……わけがない。



「(……どうして……どうして……)」



護衛隊のアンドロイドは、僕の両肩を掴んで身体の向きを変え、背中を押してきた。


僕は背中を押されて1歩、また1歩と前へ歩かされる。



「君も帰ろう」



護衛隊のアンドロイドは冷たい声でそう言うと、まっすぐ北門を見て歩こうとする。



「……そんな、おかしいよ!!」



僕は足に力を入れて自分の身体が動かないようにした。


すると護衛隊のアンドロイドは僕の方を振り向いた。



「パルトネル様の命令なんだ、それにレヴェリーシティ全員の命がかかわっている

連れて帰るわけにはいかない」



「……」



僕は唇を噛みしめた。



たしかに、そうだけど……でも。



「……リアン、行くわよ、ここに残っていると他の人たちまで危険よ」



ミトラに手を引っ張られる。



「(……門番を助けたい、でも巻き込んでそれ以外の複数の命が犠牲になるのはダメだ……)」



僕は歩きながら後ろを振り返った。



門番は困ったような笑顔で僕を見ながら、手を振っていた。


僕は門番との別れを惜しみながら、ミトラに手を引かれて北門へ向かって歩き始めた。



彼は、僕の力では助けられなかった。



―――そして北門へ着いた頃、遠くから何かが破裂したような音が聞こえた。

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