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門番が護衛隊と名乗る人たちを呼んできたのだろう。
丸い壊世生物の片方は護衛隊のひとりに刺されて、体内の赤紫色の結晶が砕かれた。
目の光は失われて巨体がぐらりとぐらつく。
丸い壊世生物の巨体は地面に倒れて、たぽんと音を立てた。
それから、全身から破裂するように壊世エネルギーを吹き出した。
「退避!!退避ーーーッ!!」
護衛隊の1人がそう叫ぶと、そのメンバーと門番は後ろに下がる。
彼らがさっきまでたっていた場所は赤紫色の液体が散乱して煙が上がる。
丸い壊世生物を刺した人が、まだ壊世生物のそばに取り残されている。
「うぐぁあああ!!」
逃げ遅れたその人は、全身に赤紫色の液体を浴びて地面に倒れた。
赤紫色の液体の水たまりの上で叫んで地面で悶えている。
どろりとした液体がその身体に絡み付き、煙を上げた。
その横を見ると、残された1体の丸い壊世生物が地面に倒れた人間を見ている。
口を少し開き、よだれをたらすかのように壊世エネルギーを垂らしている。
「まずい……このままじゃ食べられちゃう……」
僕はその人をどうやったら助けられるか考えていた。
壊世エネルギーに近寄らなくて、壊世生物から遠ざけられる方法。
「そうだ、鎖で縛って助け出せばいいんだ」
僕は慌てて左手を前に出した。
丸い壊世生物を倒した人を鎖で捕まえて、液体の中から助け出して遠ざけた。
しかし、丸い壊世生物は興味なさげに護衛隊の方を向いた。
そしてかぱっと180°大きな口を開け、結晶がむき出しになる。
「チャンスだ!結晶を砕け!!」
護衛隊のリーダーのアンドロイドがそう指示すると、片手に大きなボウガンを装着していたアンドロイドが赤紫色に光る矢を構えた。
丸い壊世生物の身体がたぽんたぽんと音を立ててしぼんだり膨らんだりをし始める。
まるで吐き気をもよおした時のように……。
僕は慌てて彼らを止めた。
「そこから離れて!何か吐き出す!!」
僕は叫んだ。
しかしその時には丸い壊世生物が壊世エネルギーを蓄えた泡を吐き出していた。
護衛隊は慌てて左右に散る。
泡は護衛隊が集まっていた地面でぱちんと弾けて大きくエネルギーを散らせた。
真ん中に壊世エネルギーの水たまりを作り、飛沫が周囲に飛び散った。
「うあああァ!」
門番が泡からはじけ飛んだ壊世エネルギーを、頭から派手に浴びて顔を抑える。
壊世エネルギーはすぐにじゅっと門番の身体に染み込み、煙を上げながら鎧を真っ黒に染めた。
門番は身体をうねらせて地面でもがく。
「これじゃあ倒しても倒さなくても被害しか出ない……!」
僕は空いた左手で物を投げるように振って、鎖を丸い壊世生物の口に縛った。
そして手をぐっと握る。
丸い壊世生物は口を縛られてもごもごとしていた。
「……門番さん……そうだ、僕が回復してあげられたらいいんだ!」
僕は急いで門番に駆け寄った。
そばに座って顔を押さえている両手の甲に触れた。
「ミトラと同じなら、これで回復するはず……!」
……しかし手は温かくならない、水色にも光らない。
そして苦しみも軽減しないのか、門番は地面でごろごろともがき、叫び続けている。
門番は尖った耳が赤紫色になり、ドクドクと脈を打つように光っている。
僕は苦痛で暴れる門番の手に当たり、尻もちをついた。
「……どうして!?ミトラは回復したのに!」
まるで効果がない、ミトラはなぜ回復できたのか。偶然だったのか。
僕が動揺していると、視界の端、壊世エネルギーたまりの向こうでは、丸い壊世生物を倒した人間が、よたよたしながら近付いてくる。
最初に片方の壊世生物を倒し、逃げ遅れて壊世エネルギーを全身に浴びてしまった人間だ。
鎧からは赤紫色の液体が滴り落ちて、両腕と首元は赤紫色になり、身体はぶるぶると痙攣している。
それでも両足を使って歩き、カクカクした気味の悪い動きをしている。
苦痛に耐えるかのような壊れた呼吸をして、視線は動くものを追いかけているが焦点が合っていない……。
「シ……ネェエエエ!!」
その人は持っていた槍を構えると、フラフラ、よたよたしながら護衛隊の……仲間に向かって壊世エネルギーの武器を振り回し始めた。
赤紫色に光る目は正気じゃない、周囲の動くものを敵と認識しているのかぎょろぎょろと見回し、見境なく突進している。
しかし苦しんでいるのかと思いきや、ハハハと口が笑い、表情は狂気を帯びている。
さっきまでとはまるで別人だ。
周りの護衛隊の人たちは慌てて避けた。
「壊世エネルギーで自我が崩壊したんだ!!殺せ!!殺していい!!」
護衛隊のリーダーのアンドロイドは叫ぶ。
護衛隊は統率力を失ってバラバラに逃げ回ったり、武器を構えて汚染された人と戦っていた。
―――壊世エネルギーの汚染が進行すると自我が破壊されていき、最終的には壊世エネルギーに変化する。
ミトラはそう言っていた。
「やぁああ!!」
護衛隊の1人が自我の崩壊した仲間を壊世エネルギーの剣で切り裂いた。
その人は手が震え、武器を使った反動で指先が赤紫色になって壊世エネルギーに汚染された。
ぐっと歯を食いしばり、よろけて仲間に受け止められていた。
「アアアア!!」
自我の崩壊した護衛隊の人は腹を切り裂かれて上半身と下半身が2つに別れて宙を舞う。
切り裂かれた身体は赤紫色の液体に変化し、空中でドロドロの水のようになった。
それからぶくぶくと沸騰するような動きをすると、ぱんぱんに膨らんで破裂し、血のような赤紫色の水しぶきが辺りに散らした。
人の原型はほとんどなくなっていたが、その口は破裂の寸前まで苦しんで雄たけびを上げながら、最後には壊世エネルギーの水たまりになった。
「―――人が……」
僕はその状況に声が出なかった。
―――これが壊世雨の惨状……?
人が人を殺し始めた。
僕は戦況に目を疑った。
悪いのは壊世雨と壊世生物のはずなのに……。
「はぁぁああっ!!」
その声の先で、ミトラが丸い壊世生物にとびかかり、巨体を太刀で斜めに切り裂いていた。
丸い壊世生物は、身体にあった赤紫色の結晶が溶けて「キィイイ」と甲高い悲鳴を上げた。
そしてはじける……と思いきや、壊世エネルギーの武器で切り裂かれた時とは違い、光の粒子になってさらさらと宙に消えていき、あとには何も残さなかった。
敵はいなくなった。
初めて壊世生物と戦って死者が出るということを目の当たりにした僕は、それを見て頭が混乱し、過呼吸になっていた。




