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4:一方通行の願い

昼にもかかわらず空はどんどん赤紫色に染まっていった。


まるで血染めの空。



怪しい色をした空から光が見え始め、あっという間に多数の結晶が姿を現した。


空から物が落下してくるゴオオという落下音が鳴り、結晶は近づいて大きく見えるようになる。



北門からまっすぐ北へ行ったところには、岩場と森が交わる場所があった。


壊世雨の結晶は丁度その場所めがけて複数落下する。



―――ドゴーン、ドゴーン。



結晶が落下した衝撃音が周囲に響き渡る。



着地地点から響いてきた揺れで、足元が少しだけ揺れる。


遠くて森の木々に隠れてよく見えないが、着地地点からは煙が上がっている。



早く北門を閉めて壊世生物の視界に入らなければ、大きな問題は発生しないだろう。


壊世生物と目が合ったら物陰に隠れてと、今朝聞いた気がする。



そう思ったが、逃げ遅れた人々がまだ北門へ入っていく様子が見える。



北門……こちらへ向かって全速力で走ってくる車。


その後ろを、溶けて肩や首の輪郭を失って繋げたような、ぐにゃぐにゃドロドロの人型の壊世生物が、走って地面を溶かしながら追いかけてきている。



そしてもう2体、その少し後ろを南門で遭遇した壊世生物と同じ種類の、鳥足をした丸い水の塊のような壊世生物が並んでのそのそと歩いてきている。



「リアン!手伝って!あの車の人を助けるわよ!」



それを見たミトラが両手を前に出してぎゅっと空中を掴む。アーツだ。


光の粒子が集まって水色の太刀を出し、ミトラは太刀を握った。



「リアン、さっきイディオのアンドロイドを拘束したように、壊世生物をできるだけ拘束できる?

私じゃ一気に3体も相手に出来ないわ」



ミトラは太刀をぐっと両手に握り、僕に強いまなざしを向けた。


覚悟を決めたような厳しい表情をしている、ミトラは本当にやる気だ。



でも僕は不安だった。



「……!?どうしたら鎖が出てきたのか分からないよ!!」



僕は、イディオと一緒に来たアンドロイド達を拘束した鎖がどうやって出てきたのか分からなかった。


気付いたらそこにあった、そんな感覚だった。



分かっているのは、手を握ると鎖が強く引き締まり、その力が強ければ強いほど引き締まる力も強くなる。


手を開くと鎖はほどける、その程度の事しか分かっていない。



「アーツは願いに応えて具現化できる

だから鎖はリアンが必要だから出てきてほしいと強く願ったら出てくると思うわ

セルセラ様の力がきっとリアンを助けてくれる」



ミトラは僕を励ますように一瞬、微笑んだ。


僕はまだ聞き足りなかった。


しかしミトラは、車の後ろをついてきている人型の壊世生物の方へ向かって走っていった。



まるで”任せた”と言わんばかりに。



……僕にできるだろうか?



「や、やるしかない……」



僕がやらなければミトラは車を守りながら3体の壊世生物の相手をしなければいけなくなる。


そんな事をすればあの大きな巨体に飲み込まれ、今度こそただでは済まないかもしれない。


僕は2体の丸い壊世生物の方を見た。


丸い壊世生物はのっそのっそとゆっくり歩いており、車やミトラの追いかけている人型の壊世生物よりも離れている。



僕は丸い壊世生物の方へ走った。



顔に当たる風が冷たい。


でも走ったことで身体がポカポカしてきて内側からじんわりと温まってくる。



とろとろ、ゆっくりと車を目指す丸い壊世生物。


僕は息を切らしながらそばに駆け寄った。



「(……僕がやるべきことは、ミトラが来るまで時間を稼ぐこと)」



それぞれ2匹分の距離を置いて、僕は大きな声で叫んでみた。



「こっちだよー!」



僕は丸い壊世生物たちに向かって大きく手を振ってみた。


南門では気を引けなかったがどうだろうか?



すると丸い壊世生物たちは2匹とも足を止め、ぬるりとこちらを見た。



車との距離が大きくあいて追いつけそうになく、諦めてターゲットを変更したのだろうか?


2匹そろって鳥のような足をこちらに向け、僕の方へのっしのっしと近付いてきた。



「(……よし、気を引けた!)」



僕は北門とは反対方向へ全力で走った。


しかし3mもある巨体の彼らの一歩はとても大きく、車では逃げられても僕はすぐに追いつかれそうだ。



「(……でもきっと、ミトラが来てくれる!)」



僕はゆっくりと足を止め、2体の丸い壊世生物のほうへ振り返った。



相変わらず大きい、3mほどある巨体を見上げる。


赤紫色に光る丸い目は何を思っているのか、僕だけを見つめてゆっくり近づいてくる。



見た目はとても不気味で、何を考えているのかもよくわからない。


それが本当に怖い。



「(……セルセラ様、水色の鎖、僕を助けて!)」



僕は覚悟を決め、右手を胸の前へ持ってきて強く祈った。



―――小さな空間の裂け目が、丸い壊世生物の背後にいくつか現れる。



そして空間の裂け目から水色の鎖が少しだけ顔を出した。



「うまくいった!」



僕は胸の前にある右手を引っ張り出すように前へ振りかざした。



すると空間の裂け目から水色の鎖がチャラチャラと出てきて、丸い壊世生物をぐるぐると巻きついた。


その瞬間、シューと音を立て、丸い壊世生物の身体から煙が上がる。



丸い壊世生物は苦しそうに身体をうねり、赤紫色の目をしばしばさせた。


鎖を振り払おうと小さな足で身体を支えてふんばり、身体を振り回した。



「僕の鎖が創世エネルギーだから、壊世エネルギーの彼らは相殺されて苦しいんだ……!」



2つのエネルギーはお互いに消し合うとミトラが言っていた。



丸い壊世生物は鎖を振り払うことをやめて、僕の方へ近付こうとし始めた。


しかし空間の裂け目の方へ引っ張られ、鎖はその行動を妨害していた。



……僕のほうに近付いて来られない、これはチャンスだ。



「もしかしたらこのまま倒せるかもしれない……!」



僕は思いっきり右手を握って、歯を食いしばった。手がカタカタと震えるほどに。



鎖は丸い壊世生物の身体に食い込み、壊世生物は再び鎖を振り払おうと小さな足で立って巨体をふるふると震わせた。


身体からにじみ出てきた赤紫色の液体が周囲に散って、地面を溶かす。



僕はあきらめないで、ぐっと手を握った。



鎖がシューシューと音を立て、壊世生物との間に煙を上げる。


しかし、鎖はギリギリと音を立て始め、今にも溶けてちぎれてしまいそうだ……。



その瞬間、1体の壊世生物が「キィイイイ」と悲鳴を上げ、身体から赤紫色の液体が吹き出した。



「―――護衛隊もお供します!!」



丸い壊世生物の後ろには門番と数名の人やアンドロイドがいて、彼らは壊世エネルギーの武器をもっていた。


その間、車は北門へ入っていき、避難が完了したようだった。

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