3-6
イディオが腰に手を当てて偉そうに僕たちを見下ろしている。
その右には剣士、左には槍使い。
2体のアンドロイドが僕を見ながらじわじわと寄ってくる。
怖くて、でもミトラも汚染されて苦しそうで……。
僕は混乱していた。
僕はミトラの意識を取り戻そうと揺さぶって起こそうとしたが、ミトラは横たわってのたうち回って呻いている。
ミトラの頬の黒く染まった部分を見ると模様が赤紫色に、脈を打つかのように怪しく光って歪な雰囲気を出していた。
それがとても苦しそうだった。
「いや、まて……」
イディオがアンドロイド達にそう言うと、2体のアンドロイドは動きを止めてイディオの方をみた。
何かをひらめいたようににやりと笑うと、イディオは指をさす。
……ミトラに。
「お前たち、ミトラを狙え」
「……!?」
「ここで確実にミトラを殺しておけば、クレイ研究所の統率者はあの気弱なトレートルになるだろ?
つまり!ワタシの研究を邪魔する者はいなくなる!
ワタシこそレヴェリーいちの研究者になれるぞ!!
ミトラは武器の壊世エネルギーに汚染されて襲ってきた、だから殺したという正当防衛として処理できる……
なんていい機会なんだ!!」
イディオは両手を掲げて、大きな声で笑う。
ミトラはレヴェリーシティの技術を支えるトップの研究者だ。
イディオはその座を狙っていてミトラを邪魔に思ったのかもしれない。
それとも、壊世エネルギーの武器を作ることを否定したことに関して、根に持っていたのかもしれない。
「最低!!」
僕はイディオを睨みつけた。
アイツは敵、絶対的な敵だ。
首をへし折って殺してやりたい。いいや、壊世エネルギーの中に沈めてもがき苦しませてやってもいい。
でも、僕には……なんの力もない。
「ハハハ、何とでも言え!お前もこれから死ぬんだ!泣き喚けばいい!!
無力な子供が1人騒いだところで、現状は何も変わらない!!」
アンドロイド達はイディオの指示を聞いて僕の傍にいるミトラへ視線をずらした。
「そこの子供はどうせ無力だ、あとからいくらでも殺せる、さあミトラをやれ!」
イディオの指示でアンドロイド達は僕のそばに来た。
横たわるミトラに向かってアンドロイド達はそれぞれ剣を逆手に持ち、振り上げる。
槍使いは槍を持って突き刺そうと構える。
ミトラは息をしているが、地面に仰向けのまま目を閉じ、ぐったりとして動かない。
「……ダメ!!」
ミトラを守らなきゃ……!
僕はミトラを覆うように抱き着いた。
手足が震えた、怖かった。
「(……ミトラは命がけで僕を助けてくれたんだ、僕だって助けられる!
……僕は死んでもミトラを守る!)」
僕はぎゅっとこぶしを握り締めて覚悟を決めた。
―――チャリッ、チャリッ。
剣も槍も降ってこない。
鉄の擦れるような音に顔を上げると、剣も槍も空中で止まっていた。
後ろを振り返ると、アンドロイド達の腕や身体が”水色の鎖”に縛られて静止していた。
ピンと張って突っ張った鎖にしっかりと繋がれて、アンドロイド達は身動きが取れずに固まっている。
鎖の先を目で追うといくつかの空間の裂け目があり、そこから複数の鎖が飛び出してきているようだ。
「……”水色の鎖”だと!?」
イディオが片眼鏡をくいっと上げて二度見をしていた。
水色で、少し透明がかっているような綺麗な水色の結晶で出来た鎖。
空間の裂け目から出てきているその鎖は、レヴェリーシティを守っているバリアやパルトネルが使っていた武器と同じような色をしている。
「お前!もしかしてセルセラの力が使えるようになって……!!」
イディオは地団太を踏む。
シュー……。
僕の手元が温かく、溶けるような音がする。
手首をぎゅっと握られる。
前を見ると、ミトラの手が僕の手首を握っていて、ミトラが起き上がっていた。
手元は水色にふわふわとやわらかい光を放っている。
「ミトラ!!」
ミトラの顔の黒く染まったところや赤紫色の模様はすーっと薄くなって引くように消えていく。
ミトラの顔色がよくなっていき、嘘のように表情が柔らかくなった。
起き上がったミトラの瞳の色が、綺麗な鶯色になっている。
「リアンのおかげでよくなったわ……ありがとう」
険しい表情をしながらミトラはゆっくりと立ち上がり、僕の前に立った。
僕も立ち上がろうとすると、ミトラは左手でストップの合図をしてきた。
僕はそのまま地面に座った。
「危ないからそこにいてね」
ミトラがすっと右手を宙に出す。
光の粒子が集まって太刀を空中に作り、ミトラは太刀の持ち手を掴んで構えた。
あれは……アーツで作った太刀?
クレイ研究所にいたときにパルトネルが大剣を作った時のような、いや、それと全く同じ状況が目の前で起こっている。
「(ミトラがアーツを使える……?)」
ミトラは太刀を両手でしっかり握ると、鎖で縛られているアンドロイド達に……いや、アンドロイド達の武器に向かって遠心力を付けて横に回転切りをした。
僕の頭上に風が吹き、アンドロイド達の握っていた剣の刃と槍の先、それぞれが切り落とされ、勢いで吹き飛んで地面に突き刺さる。
アンドロイド達は戦闘手段を失い、鎖の中でもがくことしかできなくなった。
しかし鎖はピンと張っていて、アンドロイド達は動く余地もなかった。
そしてミトラは向きを変え、イディオの頭部に右手で太刀を構えて睨みつけるように見下ろしていた。
「斬られたくなかったらユニヴェル研究所に帰って頭を冷やしてきなさい」
「お、おのれ!ミトラ!……覚えてろ!!」
イディオは後ずさりしながら捨て台詞のようにそう言うと、転びそうになりながら北門の方へ走って逃げていった。
アンドロイド達はイディオが逃げていったのを追いかけようとするが、鎖につかまったまま動けずにもがいている。
ミトラはイディオの背中を見送ると、太刀を手放した。
太刀は光の粒子になって空気に溶けていった。
「(……やはり研究所でみたパルトネルっていうアンドロイドと同じアーツに違いない
……ミトラはアーツを使えるんだ)」
僕がミトラをぼーっと見ていると、ミトラは僕の方を振り向いた。
「……リアン、パーして」
ミトラはしゃがんで僕の手首を握った。
緊張で忘れていたが、僕はずっと拳を握り締めていた。
「パー?」
僕は言われた通り手を開いてパーにした。
すると、アンドロイド達を拘束していた鎖が光の粒子になって消え、アンドロイド達は鎖の束縛から解放された。
そしてアンドロイド達は、北門へ逃げていったイディオを追いかけて走っていった。
「……???」
「あの鎖はリアンが出したものだから……」
ミトラはにっこり笑う。
「水色……アーツ?僕もアーツが使えたの?」
空間の裂け目、水色の鎖で圧倒的な束縛。
僕はとんでもないアーツが使えたのかと、自分の両手を見て驚いた。
「そうね、リアンはセルセラ様の力が使えるようになったんだから」
「……ど、どういうこと!?」
「見て」と言ってミトラは右手の手袋を取った。
僕がミトラの手を見ると、その手はミトラの本来の血色のある肌色をしていた。
……黒くない、元のミトラの綺麗な手だ。
指の先端までしっかりと綺麗な手に戻っている。
「ミトラの手、治ってる……!」
僕はミトラの右手を握った。
目頭が熱くなってきて、頬を涙が伝った。
今までこらえていたものが我慢できなくなった。
「……嘘じゃない!ミトラの手が治った!!ミトラの汚染が治った!!」
ミトラは汚染で死ぬ運命から逃れた。
……ミトラは生きられる。
そう思うとなによりもうれしくて、ミトラの手を握ったり手の裏を見たりしていた。
それからミトラに思いっきり抱きついた。
「ミトラぁ……ぐずっ」
「……ふふ、ありがとう、リアン」
ミトラは僕を受け止めて背中をさすってくれていた。
「リアンが創世エネルギーを作ったおかげで、私の汚染も治ったわ
それにさっきの太刀だって、リアンが与えてくれた力で作れた物よ」
「……?」
僕は顔を上げ、首を傾げた。
よくわからないが僕は魔法が使えるようになったということだろうか?
そしてそれがセルセラの力だと、ミトラは言う。
これがクレイ研究所で求められていた力なのだろうか?
そう思うと確かに強い力ではある。
汚染された人を治療することができるのだから。
「イディオのおかげかしらね……
彼の影響でリアンが何か強い思いを願ったのかもしれないわ
それがきっかけできっと使えるようになったのよ」
「そっかあ……」
きっかけは何であれ、セルセラの力を使えるようになったのはよかったと思った。
なによりミトラを守れたのはとても嬉しかった。
僕は初めてミトラを助けることができたのだ。
「―――僕、何か大事なことを忘れてるような」
僕はミトラの顔を見てそんな気がした。
ミトラはポケットから懐中時計を出した。
「そろそろ来るわ」
「……?」
ミトラは空を指さした。
僕が空を見上げると、紫色の空に眩しい光が見えた。
そして空は次第に見たこともない赤紫色の不気味な色になっていく。
「もしかして、壊世雨の予測……」
「……えぇ、また当たりね」
小動物が走ってレヴェリーシティの方角へ逃げていく。
近くを飛んでいた鳥の群れが向きを変えて西と東へ散っていく。
ざわざわ……と小動物たちが騒いで逃げ出し、後に残るのはレヴェリーシティの住人たちである。
たくさんの乗り物や近場で作業をしていた人達が、空の異変に気付いたのか北門へ向かって走っていく。
入口は混雑し、中から出てきた数名の工業区域の人が門の入り口を整備し始めた。
そこから混雑は解消したものの、北方面からバラバラと帰ってくる人や機械の様子を見ると、壊世雨の発生までに門を閉めることは容易ではないだろう……。




