3-5
「門番の人に声を掛けようか……」
門の出入り口の右端で僕は考えた。
しかし門番は門の外、つまりバリアの外にいる。
僕は外に出ていいとミトラに言われていない。
でも壊世雨が発生するかどうかを確認をしてきてほしいと言われている。
そのためにはまた門の上に上がって見させてもらう必要があるが、エレベーターを勝手に使っていいのかわからない。
南門で見たときと同じように、門の右側、ここでは段差の傍にエレベーターがある。
……つまり、門の外に一度出て、門番に勝手に使っていいか聞かなければならないということだ。
「少しなら出ても怒られないよね」
僕は門番のそばに近寄ろうと段差を回って、坂道を駆け下りた。
その先にはもちろん、レヴェリーシティを包んでいるバリアがある。
僕は水色のバリアに触れて、バリアの外に出た。
バリアは水面に物を落とした時のような波紋を浮かべる。
そして車の出入りする端を歩き、右側に立っていた門番のそばに駆け寄った。
「……あの!門番さん!」
重装備をした門番は、声をかけると振り返った。
そして一瞬、驚いた顔をしたがすぐに怒った顔をした。
持っていた長銃をおろして斜め掛けのベルトで肩から下げ、背中に回して両手で僕の背中を押した。
「ちょっとちょっと!今すぐバリアの中に入りなさい!」
「えへへ……」
僕は背中を押されて歩き、バリアの中に戻される。
バリアの中に戻ると、門番は難しい顔をして僕のことを見ていた。
「ハァ、困ったなあ、こんなところに子供がいるなんて……
自分はここから動けないというのに……」
門番は顔を上げて辺りを見回す。
すると、門番は僕の背後に誰かを見つけたのか手を振った。
「丁度よかった、この子を家まで送って……」
僕は後ろを振り返った。
そこには白いボディに紺色のワンポイントの入っているアンドロイド。
……僕はこのアンドロイドに見覚えがある。
研究所でパルトネルやイディオと一緒にいたアンドロイドだ……!
僕は反射的に身構えた。
槍を持ったアンドロイドと、片手剣を持ったアンドロイド、今回は2人。
そして予想通り、片方のアンドロイドが槍を構えて走ってきた。
「門番さん避けて!」
僕は振り返って門番にそう言うと、槍の軌道から右へ退けた。
混乱した門番は慌ててその場から左へ転んだようだ。
出て来た車が僕らのそばでプー!とクラクションをならし、一時停止をして弧を描くようにして僕らを避けて通っていく。
……どうしてこんなところにあのアンドロイドが?
僕が疑問に思っていると、もう1体アンドロイドが正面に現れた。
そしてその横から背が低いことと、片眼鏡が目立つことで印象に残っていたイディオが姿を現した。
「ミトラの家にいないと思ったらこんなところにいるなんて、よくもワタシの手を煩わせてくれたな……!?」
イディオは怒っていた。理由はよくわからないがぷるぷると身体を震わせている。
走ってきたのか、息を切らしている。
門番はそれを見て慌てていた。
「イディオ様!?こ、こんなところで何をされてるのですか!?」
「お前は死にたくなかったら下がってろ!!」
怒られた門番は目が点になるかのように固まる。
背の低いイディオが、2倍以上はあるであろう門番を見上げて大きな声で言っているのだ。
門番は僕とイディオを交互に見て、何があったのかと首をかしげる。
イディオは地団太を踏んで、僕を指差した。
「いいか!!そいつはパルトネル様の反逆者だ!!
ここで殺しておかないとレヴェリーシティを崩壊させる悪魔だ!!殺せ!」
「パルトネル様の反逆者?レヴェリーシティを崩壊??
……つ、つまりどういうことですか!?」
突然人を殺せと命令された門番は混乱しているようだった。
「ええい!もういい下がれ!!忌々しい!!さっさとアイツを殺せって言ってるだろ!!」
門番はイディオをなだめようとしていたが、イディオは激昂していた。
きっとイディオは門番に言うことを聞いてほしかったのだろう……。
「お前たち!コイツをやれ!!」
イディオが僕に指をさす。
僕の足元に影ができて後ろを見ると、槍を振り上げたアンドロイドがイディオの指示で僕を槍で突き刺そうとしている。
僕は地面を蹴って左手を軸に走り出し、その反動で起き上がった。
振り下ろされた槍は赤紫色に光り、地面を砕く。
ジ、ジ、ジ……。
アンドロイドの腕の装甲が赤紫色にじわじわ光り、カタカタと震える。
「(このアンドロイドたち、汚染されていってる……!)」
喋らなくても、壊れていく人形のように首や手が震え、苦しそうな動きをする。
「やめてよ!このアンドロイドたち死んじゃうよ!!」
僕はイディオに向かってそう叫んだ。
イディオはにやにやと嬉しそうに笑っている。
「人の心配より自分の心配をしたらどうだ!?」
イディオの横にいたアンドロイドが僕の前に現れる。
―――右側、首のそばに赤紫色に光る剣先。
「……っ!!」
僕は目を瞑った。
「―――止まりなさい!」
……痛くない。
……ミトラの声。
僕がそっと目を開けると、鬼のような形相のミトラがイディオの背後に立ち、長銃の先端を斜め下に、イディオの後頭部へ突きつけていた。
その声と様子を見たアンドロイド達が僕の前でぴたりと止まったようだ。
ミトラの背後では長銃を持っていた主であろう門番がミトラを止めようとしていたが、現状を見ておろおろしていた。
「あの、ミトラ様~……」
「あなたはさがってなさい、巻き込まれたくなければね」
門番はミトラに言われたとおりに駆け足でバタバタと逃げていった。
「お、おや、ミトラじゃないかァ~……」
ミトラは長銃をグイッとイディオの頭に押し突きつける。
いつもの元気で優しいミトラとは思えないほど静かで、その静かさが余計に鋭い目から出ている殺意を強くしていた。
イディオはびくっとして、ひきつった笑顔を浮かべる。
「い、い、いいのかァ……?ワタシを撃ったらあの子供の命は……」
「……」
「それにその瞳、壊世エネルギーに汚染されてるのではないか……?
その武器を使ったら……」
……カチャ。
ミトラが引き金に手をかけて、その動きで銃が少しだけ動く。
銃の先端が赤紫色にチカチカと光る。
「その前にアンタを殺すわ」
「ひぃい……」
イディオは両手をゆっくり、そーっと上げて降参のポーズをとる。
アンドロイド達は止まっているが、僕から視線を外さない。
僕が動いたら目の前のアンドロイドに斬りつけられるかもしれない、そう思い僕も目だけを動かして状況を確認するしかできない。
場が凍り付いた。
……かさ。
僕の隣にいる槍使いのアンドロイドの足が、砂利の音を立てた。
……時間が動き出すっ!!
剣で首を切られると思った僕は思わずしゃがんだ。
―――パァン!
大きな銃声が上がり、キィイインという金属音が耳に響く。
剣は光を失ってくるくる宙を回転し、遠くの地面へと突き刺さった。
剣使いのアンドロイドは骨を追いかける犬のように剣を取りに行く。
しかし、槍使いのアンドロイドがこちらへ向かって突進してくる。
僕は立ち上がって逃げようとした。
「リアン、そのまま動かないで!」
ミトラの声が聞こえてそちらを見ると、ミトラが槍使いのアンドロイドに向けて長銃を構えていた。
このままじゃ刺される……でも……。
僕はそのまましゃがんで目を瞑り、ミトラを信じた。
―――パァン!
カラン、という金属が地面の石とぶつかる音。
静まり、目を開けると槍が地面に落ちていた。
そして槍つかいのアンドロイドは右腕を損傷し、腕のつなぎ目が大きくへこんで関節が外れたかのように腕がぶらぶらしていた。
「この……ッ!!お前たち何をしてるんだ!!」
イディオは地団太を踏む。
しかしミトラがイディオの頭に長銃を突きつけるとおとなしく両手を上げた。
「パルトネル様に反逆されたらレヴェリーシティは……!」
「うるさいわね……!」
「ひぃん……」
ブルブル震えるイディオ。
片腕を損傷したアンドロイドに、遠くでようやく剣を掴んだもう1体のアンドロイド。
2体は動きを止めてミトラのほうを見る。
「(……助かった)」
僕は安堵した。
しかし……。
「……はぁ……はぁ……ぐッ……」
ミトラがゼェゼェと肩で息をしはじめた。
息を切らして片手で胸を抑えたかと思うと、身体がぐらついて膝をつき、バランスを崩して長銃を落として、地面にうずくまった。
「ミトラ……!?まさか汚染で……!」
僕はミトラが長銃で2発、弾を撃ったことが頭によぎった。
そしてそれは銃口が赤紫色に光っていて……。
……つまりそれも汚染される武器である。
ミトラは座ることもできなくなった。
体制を崩して倒れ、横たわっていた。
「ミトラ!!」
僕はミトラに駆け寄った。
ミトラの肩を揺さぶるが彼女の頬が黒くなって汚染が進み、赤紫色の模様が浮かび上がっていた。
苦しそうに自身の胸元を掴み、歯を食いしばってもがき苦しんでいた。
「……ぐ……うぁあッ……」
「ミトラ!!しっかりして!!」
……ミトラが死んでしまう!
僕はミトラを起こそうとした。
何もできることがない。
……助ける方法は?
僕はイディオの方を見た。
イディオは相変わらずニチャァという効果音が合いそうなゲスい笑みを浮かべている。
イディオが助ける方法を提供してくれるはずがない……。
「やっと大人しくなったか……」
2体のアンドロイドは僕の方へ武器を構える。
僕は、どうしたら……―――。




