3-4
司令塔の陰になっている工業区域。
そこは大きな機械が北門から出入りしたり、乗り物を整備している場所だった。
工業区域自体が巨大な工場のようになっており、それぞれが何かに特化した修理現場・生成現場といったところだろうか?
大きな鉄同士がぶつかる音や機械の作動音以外にも、様々な音楽が鳴っている。
頭が箱になっている運搬ロボットが個々に別々の音楽を流し、床の模様に沿って巡回している。
にぎやか……と言うにはうるさすぎて音が混雑しているといった感じだろうか?
また、作りかけの車が並んでいたり、解体されたロボットがあったりする。
大きなクレーンが大きなパーツを持ち上げて組み立てていたり……。
「コラ!子供がこんなところに来るもんじゃねえ!」
「……!?ごめんなさい!!」
面白いなあと眺めていたら、突然目の前にゴテゴテの装備の男が現れた。
背が高くて、手には刃の短い剣を持っている。
「空から剣が降ってきたらどうするつもりじゃあ!!!帰れェェエ!!!」
男は剣を振り上げ、ものすごい剣幕で怒鳴ってきて、僕は追い返される。
しかし僕は目的を思い出した。
「ごめんなさい!!でも僕、”北門”に行かないといけなくてぇぇっ!!」
怖くて身をすぼめて後ずさりし、泣きそうになりながらも精一杯の大きな声で目的を言った。
すると男は首を傾げた。
「”似たもん”!?お前さんに”似たもん”は見てないぞ!!帰れ!!!」
「(ヒィ……難聴だ……)」
こんなところにいれば音も聞き取れないだろう。
それにずっとこんなところで仕事して居れば、耳も過労になるだろう。
この男にとっては僕の声など虫の羽音、いや聞こえてすらいないかもしれない。
しかし僕はミトラに壊世雨の予測があっているかどうか確かめてきてほしいと頼まれている。
「”似たもん”じゃなくて!!!”北門”!!!」
もう一度大きな声で、出来るだけ腹の底から大きな声を出して言う。
だが男は怒っている。
「お前さんみたいに銀髪で水色の角が生えたやつなんちゃあ!レヴェリーシティでも見たこたぁねえってんだ!!!帰れ!!!」
「(聞いてない……!)」
泣きそうになっていると、男の背後にゴーグルをかけた青年が現れた。
青い髪をゴーグルでかき上げ、鋭い目つきの紺色のつなぎの青年。
青年は男の肩を掴んだ。
「……師匠、”北門”です」
「ああン!?」
「”似たもん”じゃなくて”北門”です、俺が案内します」
男の怒りは収まり、青年に向かって大きな声で尋ねている。
青年は男に対し、冷静に対処している。
「よくわからんがお前に任せたらいいんだな!?任せたぞ!」
「はい」
男はのっしのっしとどこかへ歩いていく。
……よくわからないが助かったようだ。
師匠、と呼んでいただけあって、この青年は男の難聴をよく知っているのかもしれない。
「ありがとう、お兄さん!」
僕は青年にお礼を言う。
……が、青年は聞こえなかったのかふぃっと身体の向きを変えた。
「ついて来い」
そう言って青年は斜め左方向へ、道の端をすたすたと歩いていく。
僕は慌てて青年の後を追い、横に並んで早歩きで歩く。
青年が歩くとカチャカチャと器具の音がする。
それもそうで、腰には銃のような器具があったり、足のベルトにはレンチがあったりする。
この青年もまた工業区域の作業員なのかもしれない。
「……このあたりは突然部品が落下したりする危険性もある、用が済んだらすぐに帰れ
あと、道の真ん中を歩くな、轢かれるぞ」
注意された僕は、慌てて青年の後ろに立った。
「わ、分かった!」
青年に注意されて辺りを見回すと、道の真ん中で車が鉄の塊を運んで往復していた。
また、歩く先からも荷物を積んだ車が入ってきて、大量の袋を積んでいる。
「……子供1人で北門へ何の用なんだ?」
青年はツンとした表情で、僕の方を見ずにそう聞いてきた。
師匠と呼ばれたあの男の熱さとは違い、青年はクール……と言ったところか。
「えっと、ミトラに頼まれて壊世雨の研究をしようと思って……」
「……何?」
青年は僕のほうを振り返った。
音がうるさくて聞こえなかったのだろうか?
僕は腹から大きな声を出して、もう一度青年に説明を試みた。
「えっと!ミトラに頼まれて……!」
青年は目が点になったかのような、驚いた表情をしていた。
そして僕の喋るのを遮る。
「ミトラ、と言ったか?」
「あ、うん」
なんだ、聞こえていたのか……。
青年は難聴ではなかったようだ。
青年は手を顎にやり、しかめっ面をして首を傾げていた。
「ミトラ様と言ったらレヴェリーで一番有名な研究員なんだが……」
「そうなの?」
「お前、知らないのか……?」
僕は首を傾げ、青年は僕の顔を二度見していた。
まるでミトラのことは誰でも知っているとでも言いたげだ。
ミトラがレヴェリーで一番有名な研究員なのに知らないのは、確かに不思議なことかもしれない。
研究所で育った僕はミトラのことをクレイの研究員としてしか思っていなかったが、レヴェリーシティでは有名人だったのか、なるほど……。
どおりで何処に行ってもミトラのことを知っている人が多いわけだ。
「ミトラ様は創世エネルギーのバリアを考案された方だ、そしてレヴェリーシティができた」
「ミトラがバリアを考えたんだ!?す、すごい!」
「それに加えて、師匠よりもっと前の人たちが創世エネルギーを使って作った物を電気や燃料といったもので動かせるように技術を改良した
先代の技術は創世エネルギーで動く仕組みだったから、セルセラ様の死後は使えない技術として放棄されそうだったんだ」
「じゃあここら辺にある機械たちは……?」
「かつての技術をミトラ様の研究によって復活させた技術だ」
なるほど、ミトラがレヴェリーそのものを変え、支える研究をしたといっても過言ではない。
それはたしかに有名になりそうな話ではある。
レヴェリーシティのほとんどはミトラの技術によって成り立っているのだから。
ミトラは優しいだけでなく、天才の研究者のようだ……。
僕の心の中は「ミトラすごい!」という感想でいっぱいになっていた。
「それに今アンドロイドや護衛隊が使ってる壊世エネルギーを用いた武器は、ミトラ様が開発したものを応用して作られたものだ
もっとも、別の研究員によって改造されたものだが、使用するのはシティをまとめているパルトネル様のご意向だろう……」
青年は険しい顔をする。
「使った瞬間に壊世エネルギーに汚染される武器の使用を許可するなんて、パルトネル様が何を考えているか、俺にはよくわからない」
青年はパルトネルの考えに不安を抱いているようだった。
「でもその武器がないと、壊世生物が来たら対処法はないんでしょ?」
僕は青年にたずねた。
使用すれば壊世エネルギーに汚染される武器は、たしかに身体に悪影響があってよくない。
しかし現状、壊世生物に襲われたら壊世エネルギーの武器で倒すしか手段がない。
「いや、ミトラ様は以前にトラップを開発していた
壊世生物はそもそも、居場所を認知されなければ追ってこない」
「あれ、じゃあそのトラップを使えば壊世生物から逃げられるんじゃあ?」
「そういうことだ
本当に接近されて戦わざるを得ないときだけ壊世エネルギーの武器を使用しないといけないのなら分からなくもないのだが、壊世エネルギーの武器が出来てから、トラップは状況に関係なく使用が禁止になった」
「……なんでだろう?
トラップにも使用者が汚染されるみたいなことはあるの?」
「ないな」
「……うーん?」
たしかに緊急時は壊世エネルギーの武器を使用し、それ以外はトラップで対応すると言うなら被害は少なくて済むだろう……。
対処法の1つとして、命を捨てるよりかは有効だが、ミトラの様子を知っている僕は、リスクが高すぎていいとは言えない。
パルトネルは何を考えて汚染される武器の使用をすすめているのか……?
僕はぼんやり考えていた。
そこで青年が足を止めた。
僕も慌てて後ろで足を止め、青年の顔を見上げた。
「着いたぞ、北門だ」
僕は青年の横から向こう側を見た。
青年が足を止める先には段差があり、坂道になった門で荷物を積んだ車がバリアにぬるりぬるりと波紋を浮かべて出入りしていた。
そしてその入り口では、武器を持った門番が外を見ている。
門の向こう側には草が剥げてむき出しになっている地面が見える。
「ありがとう、お兄さん!」
僕は青年にそう言って門の方へ走った。
しばらく走って手を振ろうと振り返ると、青年は何の反応もせずもと来た道を戻っていった。
……忙しいのかもしれない。
そう考えることにした。




