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2-5

僕は急いで門の前に立った。


大きな門が少しずつ開いて行き、強い風が吹きつけてくる。



空が見えてきて、遠くの景色が見えてきて。



黒いぶよぶよした丸い頭が見えてくる。さっき上から見た壊世生物だ。



そして門が開き切る前に人の手が厚い門を掴んでいるのが見えた。



「走って!」



門が開いた。


外にいた二人の男は転びそうになりながら全速力で走ってくる。



後ろには壊世生物がぐわぁっと腹のような部分から口を開けていた。



「ウワァアアアア!」



外にいた二人の男はバリアの中に飛び込み、バリアは二人の男を迎え入れて波紋を浮かべる。


二人の男はズザザザと音を立てて地面に擦れて止まった。



そのすぐ後ろにいた壊世生物は赤紫色の目を輝かせながら二人に向かって大きな口をあけて突進してきた。


しかしバリアにぶつかって跳ね返って倒れ、ぼちゃん!と音を立てた。



壊世生物は全長3mほどあった。


赤紫色の宝石を中心に黒い泥に包まれ、丸い身体に短く鳥のように4つに分かれた足が生えている。


全身がジュワジュワ溶けるように黒い煙を帯びており、ぽたぽたと液体をたらして煙をあげている。



「あ、あ、ありがとう、少年!」



壊世生物は諦めずに起き上がり男を追いかけようと、少し後ろに下がりバリアに強く体当たりをしてドォンという音を立てる。


跳ね返って後ろにのけぞり、ぬるりと起き上がる。



この生き物はバリアを通れないようだ。



壊世生物はじっと二人の男を見つめて、ターゲットだと認識しているようだ。


生き物はのっそのっそと小さな足でこちらへ歩いてきて、バリアに身体を擦り付けた。



ジ、ジ、ジジジッ。



煙が上がる。



壊世生物は煙をあげて、腹のような部分にある口を開けて苦しそうにしているが、それでもバリアに身体をぴったり貼り付け、こすっていた。



―――ピシッ。



「……バリアにヒビが……はいって……!」



ミトラが言っていた、”バリアは創世エネルギーで出来ている”、”創世エネルギーは壊世エネルギーと混ざると消し合う”と。



つまり、コイツは自傷しながらもバリアを割って二人の男を食べようとしているのか……!



このままでは本当にバリアが割られて他の人たちも襲われてしまうかもしれない。



僕は持っていた棒の根元を持ちながら壊世生物に近寄る。



大きい……怖い……。


でも、追い払わないと、危ない……!



僕は目を瞑って思い切り、棒を後ろに引き、前に向かって遠心力で振った。


バリアの内側から手に持っている棒で壊世生物を叩いた。



「ど、どっかにいって!!」



当たった。


僕は恐る恐る目を開ける、倒したか……?



棒と壊世生物の間に煙がジュワッと上がっていた。


触れたところが溶けてなくなり、棒の先端がポロリと地面に落ちた。


壊世生物は無反応でバリアの内側に逃げた二人を目で追いながらバリアに身体をこすりつけるのをやめない。



「門を強引に閉めてもきっと諦めない……」



僕は短くなった棒を投げつけた。


しかしそれもジュワジュワと音と煙を立てて溶けてしまう。



どうしたら……。



困り果てる僕の耳に、遠くからコツコツコツと固いもの同士がぶつかる音がする。



……ハイヒールの音。



振り返ると、ミトラが槍を構えて勢いよく走ってきていた。



紫色の槍の先端がじわじわと赤紫色に怪しく輝いている。



「―――ハァアアアッ」



口を開ける壊世生物に向かって、ミトラは口の中に槍先をねじ込んで突き上げた。



槍は壊世生物の喉、いや身体を貫通し、体内にあった赤紫色の宝石を貫いて砕いた。


生き物は甲高い悲鳴を上げた。



「……キィイイイイ!」



槍の反対側からシュワーと赤紫色の液体が吹き出し、壊世生物の巨体はぐらりとぐらつく。



ミトラが槍でぐらついた壊世生物の身体を、突き刺さった槍でバリアから押して離す。


壊世生物はバリアから離れて、たぽん!と音を立てて倒れた。



シューと音を立ててしぼみながら液状化していき、液は地面を溶かすがバリアにもぶつかってシューと煙を上げる。



「門をしめなさい!早く!」



ミトラがレバーのあった部屋のほうに向かってそう叫ぶ。


そちらを見ると、手ぶらになって呆然としていた男性がピクリと反応し、頷いて部屋に入っていくのが見えた。



そして門は上下にゆっくりと閉まっていく。



「……はぁ」



ミトラが長いため息をついてよろよろする。



「ミトラ!」



ミトラはふらりと後ろへ倒れそうになる。


僕はかけよって頭を受け止めた。



……が、小さい僕では一緒に転がってクッションになるぐらいが精一杯だった。


僕の膝の上にミトラが仰向けで寝転がる、そんな状態になる。



ミトラが額に右手を乗せているが、その手の色は黒く、手先は赤紫色。


ミトラの右手はまるで壊世雨の結晶と同じような雰囲気をまとっている。



「ミトラ!?さっきの生き物に汚染されたんじゃ……!」



僕は混乱し、不安になった。このままではミトラが死んでしまう!


するとミトラは荒れた呼吸をしながらアハハと笑った。



「壊世生物の汚染じゃないから軽い物よ、これくらいは」



目は笑っているが、瞳の色が元の鶯色から濁って赤みを帯びている。



僕は猛烈な不安に駆られた。


そしてさっきの赤紫色に輝いた槍のことを思い出す。



……イディオの兵器はリスクがある、という言葉とともに。



「ミトラ、もしかして、さっき使った槍ってイディオの兵器ってやつじゃ……」



イディオの兵器は壊世エネルギーで出来ていて汚染のリスクがあると言っていた。


槍で生き物を倒したミトラは壊世エネルギーに汚染されたのかもしれない。



「そうね、でもこのくらいならまだ大丈夫よ」



「……な、治す方法は……?」



ミトラは特に何も言わず、黙って起き上がった。


僕は不安になった。



……汚染されたら治す方法はないと言われたような気がして。



そうだとしたら死ぬ以外の道がない。



「……とにかく、大ごとにならなくてよかったわ」



ミトラはぱっぱとラボコートの砂をはらい、僕の手を握って引き上げた。


僕はバランスを取ってミトラと一緒に立ち上がった。


僕は不安になりながらミトラを見上げて、黙っていた。



ミトラは何事もなかったかのように、いつもの明るさを取り戻した。



「ミトラ様!」



男性が装甲をカチャカチャ鳴らしながら走ってきた。


するとミトラが苦笑いを浮かべる。



「ごめんなさい、さっきは強引に槍を奪って悪かったわね

槍は門の向こうにやってしまったわ」



「こちらこそ申し訳ない!門番でありながら役目を果たせず……!」



門番の男性はミトラの右手を見ていた。



「気にしないで、生きてる限りは研究員として頑張るわ」



ミトラは微笑し、門番は無力だったことを謝罪していた。



その隅では門の外で助けを求めていた二人の男がそろりそろりとどこかへ去ろうとしていた。



「お前たち!!!外で何をやっていた!!」



門番がすかさず捕らえ、二人の肩を掴んで僕とミトラの前に連れてこられた。


二人の男はミトラに「すみません、すみません!」と手を合わせて謝罪していた。



二人の男は僕たち3人に囲まれる。



「上部に上って門の外へ出たら戻れなくなりましてェ……ヘヘ」



上に上ることは僕とミトラもやったが、外に出ることはしていない。


一体どうやって降りたというのだろうか、あんなに高いのに。



ミトラは隣でジトっとした目で二人を見ていた。



「……上から下まですごく高いけど、飛び降りたら死んじゃうよ?」



僕がそう聞くと、二人はピクリと反応してお互いに顔を見合わせていた。



「……あなたたち、シティの外の廃墟を漁って物資を高値で売ってる廃墟ハンターよね

もちろんレヴェリーシティでの規則も守らずにやってるし、勝手に外に出てるわよね」



二人の男は「ハ、ハハハ」といった感じで笑う。



廃墟ハンター、僕は初めて聞いた。


門番が怒り出し、ミトラは呆れながら二人を見つめ、説教が始まった。



「なんだと!?物資はどこへやった!シティの管理者が預かることになっているはずだろう!」



「許してください!もうしませんから!!」



「そもそもお前たちのせいで市民の命が危なかったのだぞ!

ミトラ様は武器で汚染されてしまって……どうするつもりだ!!」



「ヒィイ……」



廃墟ハンターは門番にコテンパンに叱られていた。


夜の街に門番の怒鳴り声がキンキンと響く。



それは当たり前だろう、勝手に外に出た果てに勝手に壊世生物を連れてきて門を開けろと言った挙句、ミトラが汚染されて、街は危険にさらされたのだ。



もしミトラがあの生き物を倒していなかったら、バリアが割れて生き物が侵攻してきていただろう。



そうなればミトラだけでなく中にいる人全員が危険な目に遭うことになる。



「……でも本当によかったわ、あなたたちが生きてて

目の前で人が死ぬのは苦しいもの」



小さくなっている廃墟ハンターの二人にミトラは困ったように笑い、安堵したように息をつく。


門番は固まり、廃墟ハンターたちはそれを聞いてぐっと口元をかみしめていた。



僕は考えた。



「(”目の前で人が死ぬのは”か……)」



それを聞いてこの二人の廃墟ハンターが壊世生物に食べられるところや壊世エネルギーに汚染されるところを想像しようとしたが、そんなのは予想もつかなかった。



「(もしかするとミトラは誰かがそうなったのを見たことがあるのかな

だから自分が危険な目に遭ってでも人を助けようとするし、研究にも熱心なのかな)」



彼女のあらゆる熱意は人の死によるものなのかもしれない、そう思った。



「ほんとに……すいやせんでした……」



元気だった廃墟ハンターたちはしょんぼりして活気を失い、おとなしく門番に捕まっていた。



「研究の結果も見れたし、二人の処分はあなたに任せるわ」



ミトラが門番にそう言うと、門番はミトラに敬礼をして、僕に手を振ってくれた。



「リアン、家に帰りましょう、もう夜も遅いわ」



「……うん」



ミトラが僕の右側へ歩み寄ってきて、背中を押す。


僕は背中を押されて歩き、ミトラの家へ向かう。



隣を歩くミトラの右手を見ると、黒くて先は赤紫色……。


ミトラが突然死んでしまうのではないかと僕は不安で胸が苦しくなった。



夜遅く、住宅の明かりは消え始め、街灯がうっすらと夜道を照らしていた。

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