死者から届いた手紙 ①
ようこそ、深夜喫茶ヨロへ。
この店では、珈琲を片手に少しだけ不思議な事件が起こります。
名探偵・黒瀬怜司と、語り手である「私」が出会うのは、密室や殺人だけではありません。
人の心が生み出す、小さな謎もまた事件なのです。
第二話となる今回は、「亡くなったはずの人物から手紙が届く」という不可解な出来事。
どうぞ最後まで、黒瀬と一緒に推理をお楽しみください。
深夜零時を回ると、喫茶ヨロは少しだけ世界から切り離される。
雨の日は特にそうだ。
店の窓を打つ雨音は街の喧騒を消し去り、店内には古いジャズレコードと珈琲の香りだけが残る。
私はいつもの席で万年筆を走らせていた。
向かいでは黒瀬怜司が新聞を広げている。
「先生」
彼は新聞から目を離さず言った。
「人は亡くなった人間を美化します」
「急に哲学か?」
「いいえ。事件の話です」
新聞を裏返すと、小さな記事が目に入った。
『地元資産家・神崎隆一氏、病死』
七十二歳。
心不全。
家族に看取られ、静かに息を引き取ったという。
「これが?」
「ええ」
「普通の記事じゃないか」
「普通なら」
黒瀬はコーヒーを口にした。
その時だった。
喫茶ヨロの扉が開いた。
入ってきたのは四十代半ばほどの女性だった。
雨で濡れたコートを脱ぎ、店内を見回す。
「……黒瀬さん、でしょうか」
「はい」
女性は安心したように息を吐いた。
「探していました」
「どうぞ」
マスターが席へ案内する。
女性は鞄から一通の封筒を取り出した。
黄ばんだ封筒だった。
しかし封は切られている。
「相談があります」
彼女は震える手で封筒を差し出した。
「主人から手紙が届いたんです」
私は思わず聞き返した。
「ご主人?」
「はい」
女性は静かに頷く。
「三日前に亡くなりました」
店内の空気が止まった。
「亡くなったご主人から?」
「昨日、郵便受けに入っていました」
黒瀬は封筒を受け取る。
差出人には確かにこう書かれていた。
神崎 隆一
消印は――昨日の日付だった。




