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かつて、偉大なる四銃士がイギリスまでの冒険活劇をこなし、アンヌ王妃を救った。
イギリスのバッキンガム公は、カトリック強化の為のイギリス王太子の縁談に、カトリック国であるスペイン王家との交渉に出向いたが、これは失敗に終わっている。
バッキンガム公の次の狙いは、アンリ4世の娘である、アンリエット・マリー・ド・フランス。カトリック国のフランス王女と、自国の王太子を婚姻させる為に、フランスまでやって来た。
しかし、そこでバッキンガム公は思わぬ事態に遭遇した。
ルイ13世の后である、麗しのアンヌ王妃を知り、恋に落ちたのである。
美しく若きアンヌ王妃も、同性愛者の夫とは相容れず。
それでも。
バッキンガム公とは、互いの恋など叶わぬ身分だから。
心の証にと、アンヌ王妃から自身のネックレスをバッキンガム公に渡し、2人は愛を押し殺して別れたのだった。
だが、問題はゲイの夫、ルイ13世の要求である。リシュリュー枢機卿側のスパイから、事情を知っていたルイ13世は、わざわざ、自身が贈呈したネックレスをつけて舞踏会に出る事をアンヌ王妃に要求した。
嫌がらせと、カトリック上で正式に別れる為だ。カトリックには離婚は無い。別れはつまり、不貞の断罪、王妃の死である。
アンヌ王妃の不実を言い訳に、断罪すればいいではないか。という魂胆だ。
ここで、アンヌ王妃が呼び出したのが、巷で評判の四銃士。カステルモール、ダトス、ダラミツ、ポルトスである。
イギリスまで旅をして、ネックレスをバッキンガム公から受け取り、舞踏会までに帰還すること。
そこには、国王の味方のリシュリュー枢機卿のスパイ達など、様々な敵が待ち受ける。
四銃士の剣は多くの敵に打ち勝ちながら、馬を走らせ、冒険活劇をこなすのだ。
四銃士は、無事にバッキンガム公からネックレスを預かり、アンヌ王妃の元に帰還した。
アンヌ王妃は晴れてネックレスを着けて舞踏会に現れ、夫から身を守ったのだった。
ダトスは、息子のラウルの初出勤に向けて、税金の厳しい中なりに、厚切りベーコンとキノコをバターソテーしたものと、目玉焼きをパンに乗せて、たっぷりのチーズをのせて、またパンで挟んで焼いた物を出し、ラウルの特別な朝を祝った。
「すごいや、父さん!ラクレット?わからないけど、贅沢だし美味しいよ!」
ダトスは優しく微笑みながら、告げる。
「あぁ、名前はわからんが、旨いのは知っている。ラウル、今日はお前の特別な日だ。ヴェルサイユ宮殿についたら、銃士隊宿舎へ。道はわかるな?」
「はい、父さん!」
「銃士隊宿舎についたら、バッツに……銃士隊長カステルモール殿に挨拶。そこまで行けば、後はバッツがお前に色々教えてくれるだろう。」
ラウルは心を踊らせた。
「銃士隊長ダルタニアン伯こと、シャルル・ド・バッツ=カステルモールさん……!!ついに、僕は夢を叶えて、銃士隊になったんだ……ダルタニアン伯に会える!!」
ちなみに有名な「ダルタニアン」伯は、カステルモールの祖父であり、名を聞かせた銃士であったため、カステルモールは祖父の名を名乗っていた。まさに虎の威を借る狐だが、それをしたのはまだ16歳かそこらのやんちゃな盛りであった。
ダトスは有頂天のラウルに助言した。
「浮かれ過ぎてやらかすなよ、ラウル。ほら、マスケット銃。襟が乱れてるぞ。レイピアを忘れるな?いいか、ラウルよ。いざ決闘に負けたら、必ず引き下がる事。道は強者に譲る覚悟を。例え色恋であっても、剣士の志を違えるなよ。」
ラウルは瞬きした。
「父さん。僕は決闘に負けません。僕の剣術は、父さんの教えた無敵の剣ですよ?」
「……まぁな。さぁ、行きなさいラウル。初日から遅刻ではバッツに顔向け出来ん。一時間早く着いても損は無し、だ。」
「はい!勤勉こそが近衛の務め、ですね!行ってきます!」
ラウルが家から飛び出して階段を降りて行くと、お隣さんちの美しい娘、慎ましいドレスに身を包んだ、幼なじみのルイーズが家を出るところだった。
「やぁ、おはようルイーズ!今日は綺麗なドレスを着ているんだね。」
「ラウル!貴方が家から出てく音がしたから、わたしも出ることにしたの。」
ラウルとルイーズは恋仲で、もう長く付き合っており、結婚を誓いあっていた。
「ルイーズは、何処へ行くんだい?」
「新しい奉公先が決まって、女中の仕事をするのよ。」
「えっ……貴族の屋敷?しばらく、会えないのか?」
顔を曇らせたラウルに、ルイーズは笑った。
「ラウル、忘れたの?貴族達はヴェルサイユ宮殿に集められてるわ。そうそう離れ離れにはならないわよ。国王陛下のおかげね。わたしは、名誉ある仕事に選ばれたわ。王弟妃殿下のアンリエット・ダングルテール様にお仕えするのよ。ラウルが銃士隊宿舎の勤務と聞いて、志願したの。ヴェルサイユで会えるわ。」
ラウルが嬉しげに返した。
「それって最高だ!愛してるよルイーズ!一緒にヴェルサイユで働けるなんて!」
ルイーズは太陽の動きを見ながら、ラウルに告げた。
「わたしも愛してる。でもラウルは喋ってる暇はないわよ。初日なんだから早く着かないと。わたしは馬車が来るのを待つから、先に行って。」
ラウルは馬に跨り、ルイーズに話しかけてから、馬を走らせた。
「それじゃ、ルイーズ。ヴェルサイユで会おう!行ってくる!」
ヴェルサイユ宮殿の銃士隊宿舎に着くと、ラウルは約束の時間を待ち、ヴェルサイユ宮殿を眺めた。
噂以上の荘厳華美な、素晴らしい宮殿だ。
神様に選ばれた王が、ここには住んでいる。
自身は、その王の直属の、近衛銃士隊なのだ。
なんという栄誉であろう。
自身にも、冒険が待っているだろうか?
父、ダトスの語ってきた寝物語。
四銃士の冒険活劇。
ラウルは逆に眠れなくなって、興奮してしまう。
自身は今、夢見た舞台に上がっているのだ。
ラウルが一時間も早く来たにも関わらず、銃士隊宿舎からは、父の親友のカステルモール隊長が出てきて、ラウルに真っ先に歩み寄った。
「バッツさ……カステルモール隊長!何故こんなに早く?」
カステルモールは微笑した。
「ラウル。ダトスの事だ、一時間前行動だろ?彼は礼儀に叶った男だ、俺の父親代わりのような友だからな。よく来たな、ラウル。」
ラウルは慌てて背筋を正し、敬礼した。
「本日付けで近衛銃士隊に配属されました!ラ・フェール伯爵ダトスの息子、ブラジュロンヌ子爵ラウルと申します!カステルモール隊長にお会い出来るこの時を、ずっと夢見ておりました!」
カステルモールは微笑しながらラウルの肩に手を置いた。
「俺は、嬉しいやら心配やら、複雑だがな、ラウルよ。銃士隊は戦いの世界だ、戦場こそが我らの在り処。ダトスの息子の君には、なるべく安全地帯にいて欲しい気持ちがある。それに、そもそも銃士隊は、行き場の無い貴族の次男や三男達の集まりだ。君の父ダトスは、ラ・フェール伯爵として自身の領地を所有しているし、君は長男で跡継ぎ息子だ。わざわざ、危険に飛び込むような身分では、無いだろう?引き返すならば、今のうちだぞ、ラウルよ。」
ラウルは敬礼したまま、誇らしげに答えた。
「我が父ラ・フェール伯爵は賢く、領地の民から税を取り上げたりは致しません。父は自ら働いた年金で生きていますし、僕も父の領民の自由を侵害は致しません。貴族とて働き、戦うもの。父の教えです。」
「やはりダトスの息子だ。立派に育ったな、ラウル。大きくなった……銃士隊の入隊を認める。宿舎に入りなさい、俺自らが案内をしよう。」
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