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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第1話 快男児トロンプ・ルイユ
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1-5

 ルイはある日、財務長官である大貴族に招かれた。


 ベル島侯爵およびムラン子爵およびヴォー子爵、ニコラ・フーケである。


 フロンドの乱からマザランが政治に復帰出来たのは彼のおかげだが、お返しにマザランが彼を財務長官にすると、フーケは上手くいかず、国民徴税や国の借金を増やし、マザランの死後、彼は負の遺産でもあった。


 ルイは最初からフーケを先入観で毛嫌いし、彼をヴェルサイユには呼ばなかったが、フーケは根っからの王党派であり、自身もヴェルサイユ宮殿で王に仕えたいあまりに、自らのルイへの親愛の証を示そうと、大屋敷でルイをもてなしたのである。


 その豪華絢爛たる屋敷には、ルイは眉をしかめるばかりだ。


 フーケの傍らには、醜男の秘書ペリッソンが、肌身離れずついていた。


 食事席に着くと、見た事の無い美食三昧が、どんどん運ばれてくるではないか!


 ルイ14世は大食漢で、フランスきっての美食家である。死後解剖では、胃袋が普通の人間の二倍あったぐらいだ。


 当時、テーブルマナーが始まり、貴族達は率先してフォークとナイフを使用していたが、ルイは子供の頃からの癖が治らず、手掴みで食事をしていた。


「こんな美食は今まで食べたことが無い!フーケよ、シェフを呼べ!!」


 フーケはルイの喜びを、自分の喜びのように思い、幸せそうに微笑んで、告げた。


「身に余る光栄です、太陽王陛下。わたくしは幸運にも、良き料理人に出会えまして、陛下をもてなす幸せを与えられました。」


 フーケは使用人に合図した。


「ヴァテールをここへ。」


「かしこまりました。」


 しばしして、ルイはまだまだご馳走を食べていたが、シェフが忙しそうに早歩きでやって来た。


「フーケ様?このお方が、国王陛下であられますか?」


「礼儀正しくしなさい。わたくしの相手以上に、ルイ14世陛下に忠誠を。」


 ルイはこの男が料理長なのだと気づいて、食べる手を止めた。


「料理長よ。そなたの献立はどれも、一級品の素晴らしい美食だ。褒めてつかわすぞ。働き、大義である。」


 料理長は深々とお辞儀した。


「わたくしは一介の料理人、ヴァテールと申します。国王陛下より直々にお褒めにあやかり、身に余る光栄でございます。しかし、わたくしの主はフーケ様であられますから、もしわたくしの料理が国王陛下のお気に召しましたならば、どうか主をヴェルサイユ宮殿にお仕えさせてくださいますよう。」


「わたくしの世話はよいというのに。ルイ陛下、見ての通りわたくし共の忠道は貴方様の元にございます。財務官の仕事だけならず、ぜひ、ヴェルサイユ宮殿でも陛下のお役に立ちたく、願っております。神がお選びになった我らのフランス王に、祝福を。」


 ルイは、ヴァテールを好ましく思った。ヴァテールにはフランス一のシェフとしての価値がある。ヴァテールが欲しい。


 だが、フーケのことは脅威にしか感じられ無かった。これだけの財源を持ち、しかも人格者でカリスマ性もあるのだ。


 こんな大貴族を野放しにしては、フロンドの乱どころでは無い。


 ヴェルサイユ宮殿に帰ったルイは、直ちに銃士隊長カステルモールに命じた。


「カステルモール!財務官ニコラ・フーケを逮捕せよ。国家財産横領罪である。刑罰は終身刑とせよ。」


 カステルモールは驚き、ルイに再確認と意見をした。教育係を務めたカステルモールだからこそ、意見が許されるのである。


「死罪と?フーケ殿が一体何をしたと申すのです。陛下、短気で気がはやられてはなりませぬ。フーケ殿に失態など無く、彼は陛下の一言さえあれば、全ての財産を差し出します。人格者でありカリスマです。そもそも、国家財産横領など、財務官は代々やっております。今までそれが死罪になったことなど、1度とて無かったはず。お考え直し召されよ。」


 ルイは怒りに燃えて振り返った。


「だから申しておるのだ、カステルモールよ!あの人間性にあの財力は危険分子でしかあるまいよ!第二のフロンドは防がねばならぬし、余の絶対王政に王は二人もいらぬ!!直ちに銃士隊を率いて、逮捕し、軟禁して参れ!!二度は言わぬぞ!!!」


 銃士隊長カステルモールは、仕方無しに銃士隊を率いて馬を出し、ニコラ・フーケの屋敷に逮捕状を持っておもむいた。


「フーケ殿。残念ですが、貴殿の誠意は伝わらず、貴殿の脅威だけがルイ陛下を脅かしてしまいました。国家財産横領罪で貴殿を逮捕する。お許し召されよ、我が愚行、我が忠道を。」


 フーケと秘書ペリッソンはショックを受け、フーケの家族達がフーケにしがみついた。


「……そうか。わたくしはもてなすどころか、国王陛下の恐れた、フロンドのトラウマを再起させてしまったのだな……。カステルモール殿。わたくしを捕らえなさい。わたくしは最期まで、ルイ陛下のご命令を受け入れるつもりだ。陛下こそは、亡きマザラン枢機卿のもっとも大切なフランス王。わたくしの幸せは、王家から与えられた財源や仕事からなるもの。その恩義に我が命でお返し致そう。」


 フーケの家族が首を振った。


「駄目よ!国王に殺されてしまうわ!!銃士隊長さん、こんなの冤罪です!!捕まえないでください!!」


 料理長ヴァテールも駆けつけた。


「国王陛下はどういうおつもりなのですか!?フーケ様は忠義を誓い、おもてなしをなされたというのに!!これでは、あんまりではありませんか!!!」


 カステルモールは心底苦しげに、フーケを捕らえた。


「皆の衆よ!憎むならば、ルイ陛下では無く、この俺の歪んだ忠道を憎むがいい!銃士隊!馬車をもて!フーケ殿を連行する!!」


 フーケは銃士隊に捕らわれて、馬車に乗せられた。

 いざ、刑場までの出立の際、馬を鞭打つ御者に、カステルモールが命じた。


「馬を走らせるな!馬は、ゆっくりと歩かせてやれ!」


「え?は、はい!」


 すぐに、屋敷からフーケの家族達が追いかけて来た。

 カステルモールは馬車のドアを開け、フーケに促した。


「フーケ殿。馬車はゆっくりと進む。せめて、家族と充分なお別れをしてください。」


「カステルモール殿……!!感謝致します!!」


「貴方ーッ!!」

「妻よ。子供たちを連れて、わたくしの親元を頼りなさい。」


「いやだ!」

「死なないで、父さん!!」


 フーケは慈愛の眼差しで家族らを見た。


「愛しいお前達よ。わたくしを幸せにしてくれて、感謝している。妻よ、わたくしが死んだ後は別の人を愛してよろしい。幸せに生きなさい。子供たちよ。修道院は嫌だろうし、この件では銃士隊も複雑だろう。学問の徒になりなさい。各自、道が決まるまでは、わたくしの親元で甘えさせて貰うといい。」


 妻は首を振り、子供たちは泣いた。


「幸せだったのは、私たちのほうよ、貴方……。今は、別の人だなんて、話さないでちょうだい。」


「父さん!父さんを殺されてまで、国王の力になれと、学問の徒になれと、俺たちに言うのか!?その遺言は、あまりにも過酷過ぎるッ!!!」


 フーケはカステルモールに合図し、最期の別れを告げた。


「それでも王を憎むべからず。お前達よ、刑場には来るんじゃあ無い。わたくしの刑罰は、お前達に傷を与えるだけだ。さらば。さらばだ、愛しい家族達よ!」


 カステルモールは馬車のドアを閉め、御者に馬を走らせた。


「貴方は、ルイ陛下を罵倒してもよかったはずだ。」


「王家がいたから、わたくしには幸せがあった。それで、良いのです。」


 馬車がピエモンテのピニュロル城塞に着くと、ニコラ・フーケの終身刑は決行された。


 フーケは幽閉中に孤独な最期を迎えたという。



 ちなみに醜男の秘書ペリッソンは、四年間もヴァスティーユ監獄に投獄された後、アカデミーフランセーズ会員の空席待ちとなり、教養あるスキュデリー嬢のサロンで彼女にプラトニックな愛を捧げるのは、また別の話である。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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