2-17
ショワジーはダラメダ公爵の命令で修道院を訪ねたが、一番の目的は愛人との再会であった。
ダニーを訪ね、ロビーで待っていると、修道女達はダニーの部屋までショワジーを案内した。
「シスターダニーの一番会いたい方がいらしてくださるとは。不遇なあの子に、神のご采配があったのでしょう。」
不遇と聞いて、ショワジーは眉をひそめた。
「修道院で、あの子は馴染めておりませんか?ダニーは、立派にお勤め出来ておりまして?」
「たいそう、立派でしたよ。すぐにシスターの仲間入りして。多少のサボり癖はありましたが、主の万人へ対する愛を忘れず。逞しい子でした。やがて、大役を仰せつかる程に。それが、彼女の不遇なのです。」
ショワジーはダニーの部屋で、首を吊った彼女の遺体と対面した。
「あぁ……ダニー!!なんてこと!!あぁ!!」
ショワジーはショックで、両手で口を覆った。
「男手が無くて、わたし達では、彼女を降ろしてあげられませんでした。ショワジー様、手を貸してくださいますか?」
ショワジーはシスターと二人がかりで、なんとかダニーの遺体を降ろした。
「この子に何があったというのです!?平穏だからこそ預けましたのに!!」
「わたし達も抵抗したのですが……ここはイエズス会の修道院です。シスターダニーは美しさをダラメダ公爵に見込まれて、銃士隊随一の剣豪シラノ殿の暗殺任務に。ですが、シラノ殿の優しさに触れて……死ぬことなど、無かったのですよ。シラノ殿は彼女をイエズス会から解放し、家庭を与えたのです。もう、イエズス会の命令など無効。ですが、きっと、シスターダニーの死因は、ダラメダ公爵への激しい怒り。ダラメダ公爵を裁くため、彼女なりの戦いをしたんだわ。シラノ殿を守る為の、彼女の強い意思です。」
ショワジーはダニーの白い肌に顔を埋めて泣いた。
「あぁ、主よ……わたくしの罪を、この子に被らせないでくださいまし。愛するダニー、最期までなんて気が強いこと。勇ましくお前は散ったのですね。お前が従ったものが正義であるならば、わたくしは二度と道を違えはしません。ですが、わたくしは、お前の分も後始末をすることにしました。」
涙に濡れた目は、きっと虚空を睨みつけた。
この子の仇である、あの男に。
一矢報いてやろうではないか。
「神の子は悪魔の誘惑に打ち勝たれた。わたくしはひと時だけ、ダニー、貴方の為に人を超えましょう。」
法王選挙!!
ローマ教皇領ヴァチカン、システィーナ礼拝堂で行われる聖職者達の缶詰め式、次期法王選挙である!!!
法王が決定するまでは、聖職者達は礼拝堂を一歩たりとも出られない!
ルイの元にもヴァチカンからの速達の文は届き始めた!
文の執筆はショワジー、周りの状況や、枢機卿の意見を代筆する係である!
「既にスペインと神聖ローマが加担しただと?両ハプスブルク家を取り込むとは、ダラメダめ……根回しは得意らしいな。」
各国は王が代表し、それに加えて国民の信徒が投票する。それぞれの推し枢機卿を書いて手紙を速達しながら、ローマ教皇領バチカンのシスティーナ礼拝堂での票が競われる。
「ダラメダ公爵!!なぜ聖職者でもない奴がこんなに票を奪っているのだ!!」
「イエズス会はどうなっている!?」
ダラメダ公爵の根回しに聖職者達は憤慨するが、とうのダラメダ公爵は次々と各国を口説き落として行く。
「わたしが法王選挙に勝ち残った暁には、神聖ローマ帝国に有益な国交を行う。皇帝のお悩みであられる、カトリックとカルヴァン派の対立に、終止符を打つと誓おう。使徒パウロの名の元に。サインを。」
既に、スペインと神聖ローマ帝国の、両ハプスブルク家を掌中に納めていた。
ショワジーはこの時、スペイン、神聖ローマ代表となったダラメダ公爵の付き添いで、ダラメダ公爵や枢機卿達の口文を手紙にしたため、フランス王ルイに相次ぐ知らせを送ったのであった。
ルイは手紙の端に添えられたメッセージを見て、鼻に皺を寄せて笑った。
「ハッハッハッハッ、頼もしい味方がいたな。」
わたくしに委ねてくださったら、このコンクラーヴェを、めちゃくちゃにして差し上げますが?
アヴェ・ド・ショワジーより
親愛なる国王陛下へ
「フランスは全権を持って投票せよ。女装の聖職者、ショワジーにな!」
ルイは絶対王政を大いに使い、フランスの全票をまとめあげた。
「フランス王から投票!代表は……ショワジー!!アヴェ・ド・ショワジー!!!」
「ショワジー!?」
そこは復讐と権化の晴れ舞台だ。
ショワジーは念入りに着替えて現れた。
肌を飾る天然真珠のビスチェに、金縁に純白の白刺繍が入ったドレス。手には白い絹の手袋をし、指にはダイヤの数々が並ぶ。
ショワジーはダラメダ公爵に領収書を投げてウインクした。
「不思議なことに、わたくし、フランス王の支持を得てしまいました。ところでこちら、ダラメダ様名義のわたくしの装い一式の領収書になりますわ。」
ダラメダ公爵、いきなりの負債だ。
「……この金額を、ドレスで?国が傾くぞ。」
「女の身支度はお金がかかるものです。それに、わたくしのダイヤは可愛いダニーに差し上げました。ですから、わたくしは新しいダイヤをいただくことにしましたわ。今や、わたくしの身体をまとうものは王妃様すら体感した事の無い贅沢です。愛らしいリリアさん、今のわたくしはいかが?」
リリアは急展開に興奮気味だ。
「マダム、いえ、法王ショワジー様は今、世界で一番の大輪の白薔薇ですわ!!」
ダラメダ公爵はまだ余裕ぶっていた。
「苦肉の策だな。フランスひとつ君にかけたところで……」
枢機卿達が駆けてきた。
「緊急!雑多だった票が、ショワジー神父に集まっています!!」
「なに?」
「おそらく、反ダラメダ運動かと。自国の枢機卿を推すより、ショワジーについたほうが、フランスが全推ししている分、勝ち目があると察したのでしょう!」
ダラメダ公爵は憤り立ち上がった。
「これは無効票ではないかね!元々代表ですらない、ショワジー神父では!!」
「無効票なのは貴方もです、ダラメダ公爵。聖職者ですら無い、貴方では。」
ダラメダ公爵とショワジーの睨み合いは、どちらも一歩も引かぬ気概である。
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