2-14
ヴァスティーユ監獄では、ひと騒動起こっていた。
フランス王ルイ14世が罪人ユスターシュ・ドージエ・ド・カヴォワとして、処刑に引っ張りだされたのである。
「不敬な!離せ、痴れ者が!!」
「神父様、被告はとても落ち着きそうにない」
イエズス会士の神父はため息をつき、命じた。
「慈悲を持って押さえつけなさい。秘跡の油が無いまま死ぬ方が彼の魂は辛いのですから。わたし達にできることは、せめて彼の御魂を神のおわす天に届けることです。」
暗殺任務であっても、カトリックの良心イエズス会士である。
せめて天国に送る為に、秘跡の油を塗ろうとしていたのだ。
デオンが駆けつけた時には、ルイこと、仮面の紳士は、処刑場に送られる馬車に乗る一歩手前であった。
秘跡の油の儀に来た神父、ルイを押さえつける看守達、死刑執行場行きの馬車。
デオンは割行って入った。
「何事です!被告ユスターシュ・ドージエ・ド・カヴォワをお離しなさい!」
「そうは言っても、国王陛下から処刑のお達しですよ。」
デオンは一際大袈裟にふるまい、自身の書状を見せた。
「惑わされてはなりませんよ。120年も刑期があるのに、何故いきなり処刑などと、虚偽を信じたのです?その書状は国王陛下を名乗るダラメダ公爵の偽文書です。本物の王家の書状ならば、紋章はこうあるはず!」
「シュヴァリエの……!!」
デオンはさらにキッパリ告げた。
「何より死刑執行人が来ていないのです。サンソン家には、偽物の書状などすぐに見抜けますからね。」
「じゃ、じゃあこっちの書状は、テロリストが?」
ルイはなんとか看守達の手を逃れ、デオンに背を預けた。
「状況だけ話せ。」
「貴方様の命が危うくございます。」
「ダラメダとやらか。余を敵に回したな、許さぬ!」
神父は伏せていたイエズス会士達に合図した。
「秘跡は失敗!我々はこれから罪深き任務を遂行する!!我らの犠牲の先に、ダラメダ公爵の救済があらんことを!!」
イエズス会の修道士達が回り込み、デオンとルイを囲んだ。
「人々の救済の為に!」
「地獄で会おう、同士たちよ!!」
デオンは予備のレイピアをルイに投げた。
「何をする!」
「ご自身の身はご自身でお守りください。わたくしには貴方様の背後を守る使命が。聖職者とてメイスの使い手は厄介、わたくしが引き受けます。なので、死角は見えかねます。」
「そなた、この人数を相手に、余に剣をふるえと?」
「何のことは無いでしょう。相手は剣を知らぬ修道士、貴方様の剣の師はダルタニアン伯。これは、熱したナイフでバターを削ぐようなものですよ。」
修道士達はダラメダの野心に操られようと、根は聖職者。
剣を持たず、デオンが相手をするメイスの使い手こそ厄介だが、丸腰の者はルイでも翻弄できた。
いや。
ルイの繰り出す、カステルモール直伝の剣術が、優れているのだ。
怠けていようが、師が最強だ。
「これは……いま、余はまるで無敵だ!カステルモールには恩賞を与えねばなるまい。そして、余を助けたそなたに。そなたの名は?」
デオンは淡々と屈強なメイス使いの相手を引き受けながら、剣戟の合間に一礼した。
「わたくしはデオンでございます。未来から来たシュヴァリエのデオンと。報酬ならば年金を。老齢のわたくしに、気楽な暮らしをお与えくださいませ。」
ルイは修道士を一網打尽にし、頷いた。
「良かろう!だが、全てはダラメダを打倒してからのものとする!!」
サンソンはカステルモールを訪ね、ヴェルサイユ宮殿に入り込んでいた。
「カステルモール殿!」
「……四代目サンソン殿か!また未来人が事件を?ともあれ、息災で何よりだ。」
「カステルモール殿も。ところで、此度は貴方に助太刀に参ったが……既に相手の顔まで知っているようだな。ヴェルサイユ宮殿に入る時に、私も入念な検査を受けたよ。」
「いいや。あの男が動いては、正直俺たちの脳では追いつかないような作戦を見せるだろうよ。ダトスにも駐屯してもらったが、こういう時の対策は理解者でしか打てない。」
サンソンが尋ねた。
「ダラメダ公爵……イエズス会の総督だとか。貴方と同じ、銃士だったのか?」
「イエズス会の総督?もはや、エセ神父とは呼べまいな。あいつの名はド・アラミツ、通称ダラミツだ。女ったらしで聖典好きの、俺たちの仲間だよ。」
「仲間……なら、この警戒態勢は?」
「言い損ねた。いまは危険なお友達だ。あいつの野心と真っ向から立ち向かうならば、命懸けになる。」
「シラノ殿は何処に?銃士隊随一の剣豪のはずだ。配属していないのですか?」
「シラノは今はダメだな。あいつは惚れっぽいが相手がシスターだ。傷心か何か知らんが、休暇の申請を出されたよ。」
そこに、青ざめた王弟妃殿下アンリエットが現れた。
「アンリエット様?」
アンリエットは告げた。
「カステルモール!ルイを助けて!!いえ……ユスターシュも危ういわ!」
カステルモールは真剣に向き合った。
「お話を聞きましょう。」
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