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シャルル・アンリ・サンソンは、妻から市場の収穫を得て、ついでに一人の時間はレオナルド・ダ・ヴィンチを調べた。
独自の調査でわかったことは、ダ・ヴィンチのろくでもなさから始まる。
かつてチェーザレ・ボルジアに雇われるまでのダ・ヴィンチは絵もスランプ、モナ・リザだけに集中し、溺愛していた美少年の弟子サライの食いぶちにすら困っていたか、前金を貰っては描かずに逃げ、自炊の食材はこまめにメモに書いて節約していたほど、生活は切迫していた。
元々、重ね塗りが大好きなダ・ヴィンチは、壁画の従来の画材を使わず、壁にテンペラ画を描いたりして、最初から修繕費で苦情ものであった。
チェーザレ・ボルジアによるフランス軍軍事兵器開発部門の雇用に余程助けられたのか、チェーザレが実権を失うと、彼の復権の為に様々な発明を大量に耳飾りにして生産している。
耳飾りにしたのは、チェーザレ・ボルジアにしかわからせないための、知恵なのかもしれないが。
しかし、ダ・ヴィンチからこれを捧げられたフランス王家は、正直バカだった。
ルイ16世のような聡明さは無く、仕組みに気づくことは無かった。
今は誰も知らないアンティークアクセサリーとはいえ、相当数が市場に出回ってしまっており、全回収は不可能だ。
しかも……ダ・ヴィンチならば卓上の空論も多々あるのだが、耳飾りの作品ばかりはよりによって本物しかない。空を飛ぶ一人乗り飛空挺や、粒子流動チェーンソーや、死人を再生する機械化人間装置、などなど。
頭の良いルイ16世は、この設計図を見て一目でわかっただろう。
その技術、その理論ならば、資金さえあれば、実現出来てしまうのだ。
また、一方でフランスは二千七百数十人を斬首刑に処した。すべて、ムッシュ・ド・パリであるサンソンがこなした数である。
過激なロベスピエールと、死天使サン・ジュストによる、大量殺人事件であった。
人々はようやくロベスピエールをギロチンにかけた。それにより、エジプト帰りの将軍ナポレオンの時代が幕を開けた。
ナポレオン・ボナパルトが皇帝となり、王妃ジョゼフィーヌのウェディング姿は美しく、知らない人はいないだろう。
戴冠式が終わると、実力で将軍をしていた負け知らずのナポレオンは、腑抜けた貴族将軍しかいない他国を圧倒し、ヨーロッパ全域に近い領土をフランスにしてしまった!
ナポレオンとサンソンは、ある日出会った。
二人はマドレーヌ寺院建設工事現場で遭遇し、ナポレオンは死刑執行人を恐れ、気味悪がって立ち退いた。
日を改めて、老齢期のサンソンは、広がったフランス領土の、とある場所へ確認に行った。
それにより、ルイ16世の耳飾りは、意図が明確となる。
サンソンが受け取った対となる耳飾りには、チェーザレ・ボルジアの父である、莫大な富を有してカトリックを腐敗させた教皇アレクサンデル6世の隠し財産の在り処が記載されていたのだ。スペインが南米を虐殺してまで得た金銀財宝までも、そこには含まれている。
ダ・ヴィンチとチェーザレ・ボルジアの耳飾りは、志し半ばに倒れた彼らからの、フランスへのメッセージだ。
チェーザレ・ボルジア起死回生の贈り物だった。
フランス王家に、アレクサンデル6世が独占してきた私財からの、大規模な産業革命を促していたのだ。
(国王陛下の願いを叶えるのは、今しかない。)
自身も死期が近づいている。
ナポレオンの活躍により、フランス国土となったアレクサンデル6世の財産は、今、フランスに打ち明けるべきだ。
例え、略奪と呼ばれようとも。
「陛下。ムッシュ・ド・パリが面会を求めています。」
「俺あいつ怖いんだよな……適当にあしらえ。」
「アレクサンデル6世の隠し財産を握っている、と……」
ナポレオンは飛び上がった。
「眉唾だが、イカれた爺さんという様子でも無かった……。話だけでも聞くものとする。通せ!」
皇帝の意思でサンソンが通されると、サンソンは一礼もせずに申し出た。
「わたしの死刑廃止の願いは却下して、富には目がないご様子ですね。」
「厳しい奴だな。なんでお前のような死刑執行人が、アレクサンデル6世の財産を知ってる?説教する為の口実か?」
サンソンは十字を切り、耳飾りを出した。
「今は亡き、わたしの殺したルイ16世陛下の遺言です。部屋を暗くして、こちらの機材でスクロール投影を!」
はじめ、ナポレオンは何が何だかわからずに影地図を見ていたが、やがて賢いナポレオンは気づいた。
「ダ・ヴィンチか。エジプトと同じだな、技術は古代から後退している。このMAPのこの印が、アレクサンデル6世の?」
「老人の身ながらつい先日まで働きっぱなしで、体力が衰えておりませんのでね。わたし自らが、確認して参りました。この隠し財産は、ルイ16世陛下からの、フランスへの最期の贈り物です……。」
そして、ナポレオンはサンソンを伴って大量の荷馬車に護衛兵を駆り立て、アレクサンデル6世の隠し財産を回収した。
耳飾りの発明品は、無事、皇帝ナポレオンに全回収された。
ナポレオンは、安全な物だけは国民に公開し、フランスはイギリスを超える大規模産業革命を迎えて発展した。
スチームパンクの到来であった。
何せ、金があれば、工場は要らない個人技術であり、民の個人個人が職人となるのだ。
サンソンはボナパルトに苦言を呈した。
「あなたに知らせた私が愚かだった。耳飾りの設計図を公開しては、フランス国民はいずれ時空転移装置にもたどり着くだろう。まだまだ、ジャコバン派の悲劇は終わってはいないし、残党がいるというのに。あなたは、ご自身がギロチンにかけられたいのか?」
「よせ、気味が悪い話を。確かに、俺の浅はかな判断だったやもしれん。だが、これらの発明兵器があれば、フランスは世界一の科学国家となろう!ロシアなど敵ではない!ヨーロッパ統一どころか、アレクサンドロス大王のような東方遠征すら!」
「あなたは勘違いなさっているが、わたしはロシアやアレクサンドロス大王の話をしているのでは無い。フランス国内の話をしている。革命派がタイムスリップして王家自体を揉み消したら?」
「……なるほど。今が、消えてしまうな。」
革命側であったナポレオンからしても、これ以上の改革は悪手であった。
それほどに、ロベスピエールとサン・ジュストは、人々を殺した。この、サンソンの手でだ。
ある日、ナポレオン・ボナパルトは演説台に立った。
上半身に軍服、下半身はフルチンというスタイルだ。
ナポレオンなりの、皇帝的ファッションリーダーを目指した姿である。
「人よ!絶対王政は我らが断罪し、ブルボン王朝の時は去れり!我々は、教皇アレクサンデル6世の独占してきた私財を回収し、我らの科学を発展させた!フランスはいま世界一の産業革命のただ中にある!だが、それを悪用せんとする輩も現れるだろう!ルイ・カペーは死に際にレオナルド・ダ・ヴィンチの設計図、時空転移装置をしのばせた。今のフランスならば、誰でも時空を越えられる。故に、禁ず!前国王ならびにマリー・アントワネットは既に処刑され、それを皮切りにロベスピエールとサン・ジュストらの過激な殺戮はフランスを苦しめるばかりだった。民よ!これ以上の王家の深追いは加害者側に刑罰を与えることを告げる。あるいは死罪をも免れんと思え!ならびに、許可の無い時空移動も法律違反とする!」
ナポレオンの演説に、フランスの民は逆に沸き立った。皆が皆技術者であり、皆が時空移動可能な立場なのである。
「時空転移ッ!!」
「皇帝陛下は逆に今、火蓋を切ったんだッ!!」
「科学万歳!ナポレオン・ボナパルト万歳!!」
サンソンは怒りから、演説から帰ったナポレオンの胸ぐらを掴みあげた。
「おい!よせサンソン」
「なんという馬鹿な真似を!民に真相を知らせるのが最善だとでも思ったのか!?民衆がどれだけ心が移ろいやすいかもわからないのか!無垢だった民に対し、無闇にテロリストの芽を生んだだけだ、愚かな!」
「だが、革命期に共に戦った戦友達だぞ!?俺たちは、マルセイユ義勇軍とラ・マルセイエーズを歌いながら進軍したシトワイヤンだ!話せばわかる!!だいたい、時空移動は法律違反で刑罰もんだ。それに、そこまでして昔の王様を殺したい奴なんか……」
王党派のサンソンには、いくらでも心当たりは見つかった。
「いる。」
「ん……?」
「フランスを変えたルイ14世、絶対王政の始まりの王ならば、革命派は何がなんでも殺したいだろう。財産難の最初の王でありながら、ハプスブルク家を打ち破った偉大なる太陽王。彼が生きるか死ぬかで、今のフランスを決定的に改変してしまえる!自国の革命家崩れのテロリスト然り、敵国の政治家然り!これは……タイムリープ戦争の始まりだ……!!」
「太陽王か!万が一ルイ14世が死んだら?」
サンソンはナポレオンをどやした。
「賢明な皇帝陛下にはお解りだろうが、ルイ14世が死ねば、フランスは今頃スペインか神聖ローマの一部だ。国家はハプスブルク家に支配されて消え去るだろう。または、イギリスの領地かもな。」
ナポレオンは冷や汗を流した。
「そりゃ不味い……近衛よ!変装し、ルイ14世を話題に出した者は徹底的に密偵して参れ!技術者!二人用時空移動装置をただちに組み立てよ!一人はサンソン、もう一人は捕えた暗殺者が乗る!サンソンよ!三日で仕上げを約束する、三日で身支度と仕事を片付けて来い。死刑執行人自ら、過去に飛び、罪人を捕まえて戻ることを任ず!!」
「わたしは既に仕事を息子のアンリに代替わりしています。しかし、我が王ルイ16世の為に働こう……三日の猶予は太陽王には無い。狙われるのは、未熟だった若かりし時期のルイ14世だ。まず私は一人で先行し、17世紀の環境を整える。その間にあなた方は二人用時空移動装置を組み立てなさい。」
「でも、時空移動装置は」
「一人用は持ち合わせている。助太刀は結構。アディオス。」
ナポレオン・ボナパルトはサンソンと別れてから、ふと言った。
「あいつ……法律違反じゃね?」
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