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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第2話 神の使徒マンソンジュ
38/47

2-11

 シラノは銃士隊に傷心ゆえの休暇という名目で休暇を取り、街中に手書きのポスターを貼って回った。


『子に恵まれない夫婦の情報求む。連絡はこちらまで。』


 クリスチャンはロクサーヌと掲示板を見かけ、瞬きした。


「シラノの奴、何事だ?」


 ロクサーヌがクリスチャンの足を踏みつけた。


「痛ってぇ!」


「詩のようにお話しなさい!全く、何度言ったらわかるの、クリスチャン?」


「悪かっ、わ、わ、悪いことをしたな。

 美しい我がロクサーヌ。

 君の眼差しに乾杯を。」


 ロクサーヌは失望。


「三流。スランプかしら、クリスチャンは……。それにしても、シラノさんのポスターを見て。なんて美しい筆記体なのかしら。……あら?見覚えがあるわね。」


 クリスチャンの代わりに、ロクサーヌに詩の手紙を書いているのはシラノだ。


 クリスチャンは慌てて誤魔化した。


「ロクサーヌ!当たり前さ!シラノは宇宙を題材とした小説を出した作家なんだ!」


「まぁ。だから筆記体が上手いのね。このポスター、子に恵まれない夫婦探しだわ。シラノさんはいつも人助けね。きっと孤児を抱えているのよ。優しい人。」


 ロクサーヌはシラノしか見ていない。クリスチャンは酷く気分を害したが、それでも自分だって、シラノに習うことは出来る。


「よし!ロクサーヌ、俺たちもシラノに協力して、聞き込みをしないか?」


 ロクサーヌは薔薇が花開くように微笑んだ。


「いい提案だわ。わたしもそうしたかったの。」



 シスターダニーは思い描いていた。


 あの方との幸せな日々。


 シスターダニーは貴婦人を愛し、貴婦人もまた彼女を愛した。


 シスターダニーが過激すぎて、あの方はヘトヘトにもなってはいたけれど。


 贅沢で、穏やかな日々と、苛烈な激しい愛の営み。


 その日々に思いを馳せていた。


 シスターダニーは他のことが手につかず、修道院の窓から外を見つめ、ただ空を見上げながら、思い出に浸っていたので、それを見つけた年長のシスターに叱責を受けてしまう。


「シスター・ダニー!ボーッとなさならないで、現実を見なさい!仕事すらろくにしていないのですから、せめて礼拝堂で神に祈られてはいかがです?貴方は幼いこともありますが、少々集中力にかけています。」


 年長のシスターの厳しい言葉に、シスターダニーは現実に帰り、幸せな空想との現実のギャップを感じ、酷く気分を害した。


 みぃんな、大っ嫌いだ。


 神様はみんなを愛してるもん。別に、祈らなくたって、神様は平等に愛してくれるもん。


 ふとまた窓を見ると、窓の下にこの前の仮面の人がいるではないか。


 彼女は窓を開けると、シラノは彼女に向けて謳った。


「貴方の在り方を守る為

 求める安らぎを守る為

 私は熱愛人になる事をせず

 貴方の足長おじさんであろうと決めました。

 シスター、貴方をここから出して差し上げよう。

 厳しい修道院の神の道もよろしいが、

 貴方に必要な愛のある場所も、いかがか?

 暖かい家庭と、暖かな暖炉。

 貴方が必要とする安らぎを、私は探して来ました。」


 シスターダニーは目をぱちぱちした。


 この前会ったばかりの、顔も素性も知らないこの仮面の人のふるまいに、シスターダニーはようやく彼を見つめる事になった。


 どうして、誰かの為に、そんな、自分の利益にもならないことを、この人はするのだろう?


「何故、私にそこまでして下さるのでしょうか。仮面のお方。」


「愛は見返りなど無くとも、この身を突き動かすのです。

 愛すればこそ、貴方の充足は私の心を満たし、貴方の悲しみは私の胸を掻きむしる。

 私の喜びは、貴方次第。

 貴方には幸せになって頂きたいのです。

 シスターダニー。」


 無償の愛だ。


 このおじ様は何者なの?


 聖人君子ではないか。


「仮面のお方、貴方の事を教えて下さる?私は、あのお方の事ばかりで、貴方の事を少しも知ろうとしなかったみたい。」


 シスターダニーは歩み寄った。


 シラノは、ただ、仮面の下で暖かく微笑む。


 控えめで優しく、見守る愛だ。


「貴方を想う、一介の足長おじさんです。

 貴方が笑えば私も笑い、

 貴方が涙すれば私も涙する。

 貴方の鏡と、お考え下さい。」


 優しい人なのだと、シスターダニーは理解した。


 包み込むような優しい言葉を、シラノはシスターダニーにかけてくれる。


「私が楽しいと感じることを、貴方も楽しいと感じて下さると言う事?」


「勿論です。

 その為なら如何なる事も致しましょう。

 私は今、その為にここにいると言っても過言では無いのですから。

 貴方の幸せが、私の幸せ。

 さぁ、安心しておやすみなさい。

 明日、再び私は貴方を訪ねるでしょう。

 その時、私は貴方を導きましょう。

 安息の幸せを、貴方に届ける鳩となって。」


 シスターダニーはその言葉を聞いて、心の扉が開いた気がした。


 優しく、自分からの愛を求める訳でもない、穏やかなこの足長おじさんに、何処からか沸き上がる親愛の感情。


 こんな愛情もあるのだと、シスターダニーは思った。


 そしてシラノは一礼して立ち去る。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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