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ダトスは馬を駆け、ヴェルサイユ宮殿敷地内の銃士隊宿舎までやってくると、銃士隊長を呼びつける。
「ダルタニアン伯を!……シャルル・ド・バッツ=カステルモールを呼んでこい!」
平銃士はあわてふためきながらも、ダトスに対応した。
「隊長は激務につき、今お休みになられていて」
ダトスは自ら馬を降りて宿舎に乗り込む。
「今休みだと?冗談はよせ、寝首をかかれて死ぬぞ!バッツ!!友よ!!」
ダルタニアン伯こと、銃士隊長カステルモールは、ソファで座って寝ていたが、すぐに目を覚まし、急な友の来訪を迎える。
「ダトスか!どうした、二度とヴェルサイユに来ないとばかり」
「背に腹はかえられん!バッツ、寝ている場合じゃあない、王の警備でも固めたらどうだ? 我らがエセ神父が暗躍しているぞ。」
カステルモールは、ピンと来て尋ねた。
「ポルトスが話したのか?」
「あいつは話さん、友情の為なら死んでも口を割らんぞ。だが動いた。イエズス会にツテがあってな。我らの中で野心に燃えた男が帰ってくるぞ。」
「……よし。ルイの警備を固めよう。しかし、何故いま?」
「法王選挙が近いと踏んだのかもな。イエズス会は今やあいつの手の中だ。この前の未来の犯罪者と、無関係では無いかもしれん。」
シラノには春が訪れていた。
もっとも、ささやかで慎ましい春であった。
愛するロクサーヌにはクリスチャンの顔を立て、今、この悩める幼い修道女をシラノが励ます事が一体、誰の迷惑になるというのか。
その修道女は、法王選挙の噂と共にシラノの前に現れた。
日曜日のミサに彼女を見かけ、日が暮れるまで共に祈り続ける。
シラノは瞬きをするようにあっという間に恋に落ちた。
だけども、シラノは自身のこの不細工な鼻をどうしてくれようかと、彼女に近づく事すら思い悩む。
愛して欲しいのでは無い。
ただ、嫌われることだけは、恐ろしいのだ。
ある日、運命はシラノのベッドに窓から飛び込んで来た。
仮面であった。
シラノの目の前がパッと光り輝いた。
この仮面を着ければ、彼女と話す事が出来る。
めくるめく期待と不安を胸に、シラノは仮面を恐る恐る顔に嵌めた。
「郵便の奴め!俺の仮面舞踏会用の仮面、どこ置きやがった!?」
クリスチャンの前に颯爽と現れた仮面の紳士。
「吾輩がこの仮面を買い取ろう。
仮面も吾輩を呼んでいる。
君の顔には既に美しい仮面があるじゃないか。
それ以上何の不自由がある?
吾輩とこの仮面の相思相愛をクリスチャン、君は引き裂くのか?」
「シラノか……浮かれているな。まぁ、だったらいいよ。お前には返しても返しきれない借りがあるからな。」
シラノはクリスチャンに顔を近づけ、嬉しそうに尋ねる。
「ちなみに今の吾輩、どう見える?
鼻が見えなくなって、中々の紳士なのではないかね?
仮面が吾輩を素敵なおじ様にしてくれているのではないか?」
「驕るなよシラノ!紳士的に見えても仮面は仮面だ。お前には詩と言う売りがあるが、それさえなければただの不審者!浮かれ過ぎだ!」
シラノは跳ねるように颯爽とその場を後にしようとしていた。
「忠告をどうも。
肝に銘じよう、美しい我が友よ。
それでは参るとするか、大切な私の天使様の元へ。」
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