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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第2話 神の使徒マンソンジュ
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2-6

 17世紀、激動のフランス!


 その中心地、黄金のヴェルサイユ宮殿!!


 ……では、無い。


 フランスの片田舎に、皇妃ジョゼフィーヌは愛犬と佇んでいた。


 さる美形の公爵は、皇妃にお辞儀し、イエズス会士達が時空転移装置を預かった。


「ようこそ、未来よりいらしたレディ・ジョゼフィーヌ。よくぞ我々の願いに答えてくださった。主はお喜びになられる、福音は私たち同志の絆にこそもたらされよう。アーメン。」


「同志ですって?勘違いしないで。」


 ジョゼフィーヌは告げた。


「わたしは家出しただけだから。時空転移装置は、預けたっていいけど、わたしはイエズス会には縛られないわ。」


「なるほど。それではこちらもそれなりに対処させていただく。彼女を未来人の牽制に使う、丁重に連れて行きたまえ。」


「かしこまりました。正しいカトリックの在り方の為に。」


 修道士が二人、ジョゼフィーヌを捕まえた。


「なにするのよ!夫が黙ってないわよ!」


「おやおや。これでもマダムの扱いは自信があったのだがね。連れて行け、大切な未来の人質だ。」


「……アンタ、誰。何者なの?」


 美しい男は嗤いながら告げた。


「わたしはダラメダ公爵。この世に真なる神の御心をもたらす者、使徒パウロの後継にして支配者。貴方を過去から観測する、ラルヴでもなくルイの側でもない。わたし達は第三勢力、神の代理人です。」



 Trompe(トロンプ)|-l'œilルイユ

 ー二人の太陽王ー


 原作 燎 空綺羅

 シラノ・ド・ベルジュラック台詞 A:flow

 シスターダニー(※途中まで) A:flow


 第2話 神の使徒マンソンジュ


 その男、野心家につきーーー。



 イエズス会の女子修道院は、ヴェルサイユ近郊に静かに佇んでいた。


 緊急で現れたイエズス会士の枢機卿は、シスターを名指しで呼び出した。


「シスターダニーを。お話があります。少し、よろしいですか?」


 マザー率いるシスター達は、幼いシスターダニーを庇い、申し出た。


「シスターダニーはシスターになったばかり、未熟ゆえわたくし共が付き添いをします。でなければ、対面は許可出来ません。」


 マザー率いるシスター達は、何となく悪い予兆があったのだ。


 シスターダニーは幼くても、パリで一番美しい。美しさが悪用されるのは、世の常だ。


「構いません。わたしは大事な使命をシスターダニーに伝えなくてはなりませんから。」


 マザー達に呼ばれて、やって来たシスターダニーは、ただ空想にふけっているのを邪魔されて、機嫌が悪かった。


 シスターダニーを思ってシスター達が叱ることすら、うっとおしく、愛する貴婦人以外は皆敵と変わらない。


「シスターダニー。わたしはイエズス会の枢機卿を務めるロッソです。貴方に重大な言伝あって参りました。」


 ダニーは、はい、とか、ええ、とか、気のない返事をしていたような気がする。


 その時どんな反応をしたか、本人は覚えていない。


 だって、面白くないんだもん。


 顔の見えない貴婦人を想い一人でいる時は物思いにふけるのが日課のようなもので、今も、その空想にふけっていたのだ。


「イエズス会を統率せし次代の法王猊下、ダラメダ公爵から貴方に、大切な任務を仰せつかりました。フランス一の剣豪と名高い銃士、シラノ・ド・ベルジュラック殿を暗殺せよとのご命令です。貴方のその美しさであれば、隙だらけになろうことは、間違いないでしょう。我々はフランス王の力が必要です。ですから、手強いシラノ殿は、貴方が。」


 枢機卿には、シスター一同がざわつき、猛烈に反対した。


「なんてことをお命じになられるのですか!?貴方様は本当に枢機卿様なのでしょうか?殺人などと、聖職者の仕事ではありませんよ!幼いシスターダニーは、厳しい修練をこなし、ようやくシスターになりました。それは、このような罪深い仕事の為ではありません!!」


 老齢のマザーもまた、厳格に頷いた。


「枢機卿様。わたくし達にも、幼いシスターダニーを守る使命がございますよ。その任務が、イエズス会の総意ならば、その罪深い仕事は代表であるわたくしが務めます。」


 枢機卿は覚悟の決まった顔で告げた。


「マザー、シスター達よ。ダラメダ公爵こそは、神がおつかわしになられた方だ。彼が法王の座につけば、世界は救済されるでしょう。わたし達イエズス会士は、その為の前座である汚れ仕事を厭いません。わたし達が地獄に堕ちようと、多くの人々の救済が待っているからです。これは言わば聖戦……わたしは、大勢の人々の救いの為に犠牲になります。貴方がたに、この思いが伝わるだろうか?」


 マザーはその覚悟に揺らいだ。


「それ程の方なのですか。貴方は自己犠牲を捧げる覚悟なのですね。……ですが聖書にはこうもあります。幼子の魂はもっとも敬うべきだと。純粋な幼子は、神に一番近い人間なのです。シスターダニーの手を、汚す訳には参りません。」


 そんな事より、あの方との激しく甘い思い出に浸る時間に戻りたくて、シスター・ダニーは生返事をした。


「わかりました。お受けいたします。」


 マザーもシスター達も驚き、叱ったが、シスターダニーには届かない。


「なんという……わたくしからは言葉が出ません。シスター達、代弁をなさい。」


「なんて承諾をなさるのですか!?貴方は少しは夢から覚めて現実を見なさい!修練期間に、神から何を教わったのです!?」


「わたしの愛する貴婦人は、罪人をも神は愛しておられると言ってました。わたしはわたしの神に従います。枢機卿様、シラノさんとはどのような方ですか?」


 枢機卿は懐から、シラノの似顔絵を出して、シスターダニーに見せた。


「手渡しても構いませんが、一度見たら忘れないでしょう?」


 シラノは醜悪で、不細工な鼻など、見間違えようがない。


「はい。覚えました。これで、よろしい?」


 枢機卿はシスターダニーに、ロザリオに刃を仕込んだもの等、仕込み武器一式を取り扱い説明した。


「ナイフ……」


「我々にはあの大剣豪に、剣術ではかなうまい。油断させて、暗殺です。よろしいですね?」


「はい。」


「あぁ、なんてこと」


「主よ、彼女を憐れみください」


 これでこの位の高い枢機卿は修道院から出ていき、また1人の素敵な時間に戻れるだろう。


「頼みましたよ、シスター・ダニー。」


 枢機卿は思った通り修道院から出ていき、周りのシスター達の嘆きを無視して、シスター・ダニーはまた優しく愛しい貴婦人との妄想に戻れたのだった。


 わたしの魂の平和の在り処は、貴婦人の元にだけあるのだ。


 修道院なんかこれっぽっちも楽しくない。


 厳しいシスター達は、みんな嫌いだ。


 シラノ・ド・ベルジュラック。


 この時はまだ、シスター・ダニーの心にはこの名前は全く刻まれていなかったのだった。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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