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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第2話 神の使徒マンソンジュ
30/47

2-3

 かつて、フランスに四銃士がいた。


 無敵の銃士四人組である、ド・アトスこと、ダトス。ド・アラミツこと、ダラミツ。ポルトス。そして、1番幼いダルタニアン伯こと、シャルル・ド・バッツ=カステルモールである。


 カステルモールはみんなより年下で、ダルタニアン、またはバッツと呼ばれて愛された。


 カステルモールは戦の前日に武者震いし、猛者であろうがまだ幼く、落ち着かない。


 スペイン国境辺り、ピレネー山脈方面の地方、ぶどうが名産のガスコーニュの生まれは、血気盛んで英雄を多く輩出し、ガスコン生まれは一目置かれるが、このカステルモールもまた、ガスコン生まれだ。


 ガスコンの熱血が滾っていたのである。


「たぎるなよ、バッツ。戦の前に消耗しては危ない。ワインの水割りでも飲め。落ち着け。」


 父性溢れるダトスがカステルモールを世話していたが、カステルモールとてまだまだ未熟者だ。ワインの水割りを飲み干したら、血気盛んに武者震いするばかり。


「ダメだ、ダトス!逆に身体が燃え盛るようだ!血がたぎって興奮がおさまらない!!」


 ダトスは仕方なく、カステルモールの従者プランシェに命じた。


「こりゃダメだな。プランシェ、ポルトスとダラミツを呼んでこい。大人組が勢揃いして落ち着けなくてはならん。」


「かしこまりました、ダトスの旦那!そいじゃあ行ってきますんで、うちの旦那をよろしくお願いしますよ!」


 プランシェはまずは最もわかりやすいポルトス探しを始めた。


「ポルトスの旦那は年増の大金持ちの老夫人にモテモテ。金が無かったら、頼りに行くはず。」


 プランシェはポルトスのことが大好きな金持ち老夫人の屋敷へ突入した。


 プランシェと同じような立場の従者が、プランシェと老夫人の伝言役になり、情報を橋渡し。


「プランシェさん。残念ながら、ポルトス様は奥様から新しいジュストコールを新調なされて、お小遣いを渡され、オシャレのお披露目に遊びに行ってしまわれたばかり。」


 プランシェはそれでピンときて、頭を下げた。


「ならば居場所がわかりましたな。ご協力に感謝しますよ。」


 プランシェはまっすぐ裁縫仕事場へ。


 女だらけの場所、オシャレがわかる審美眼。


 案の定、寝床を探せば、ポルトスは三人の女を囲んでまとめてベッド・インしようとしていた。


「愛する女たちよ!残念ながら男前の俺様はひとり!だが、まとめて楽しませてやるからな!」


「きゃー♡」


「ポルトス様抱いてぇ♡」


「早く早く♡」


 プランシェは慌てて駆けつけて食い止めた。


「ダメですぜ、ポルトスの旦那!いまはうちの旦那がはやっちゃって、ダトスの旦那からSOSが!」


 ポルトスは気分を害した。


「あーん?俺様はお楽しみの最中だぞ!子守りじゃねぇんだ!」


「ポルトスの旦那〜ッ!うちの旦那を助けてくださいよっ!!」


 ポルトスは考えた。女も大事だし、友情も大事だ。


「よし、わかった!バッツは助けに行く!!」


「それでこそポルトスの旦那だァ!」


「ただしプランシェ、お前は先に行け!」


「えぇ?」


「俺は一ラウンド済ませてから行く!あばよ!!」


 寝室のカーテンを閉められてしまった。


 まぁ、ポルトスの旦那だしな。


 プランシェは次に、難解な方、ダラミツを探しに行った。


 あのエセ神父は実は教会には通わない。


 聖書を暗記するぐらい頭が良いのに、あんまり正しいことには知識を使わないのだ。


 地位の高い貴族の夫人を、パリで聞いて回るしか無い。


「夫に不満がある貴族夫人?そんなの、パリ中がそうだろ。」


「家柄だけの結婚なんだぜ?貴婦人はみんな銃士を本命の愛人にしてるよ。」


 プランシェは、プランBに変更。


「特別信心深い貴婦人は、パリにどれくらいで?」


「うーん。ミサでずーっと祈ってるのは、アルマニャック夫人や、モンフォール夫人、ベロニド夫人だ。」


「お住いは?」

「待ってろ、パンを買うついでだ。」


 パリ市民は近くのパン屋でペンとインクを借りて、紙きれにMAPを描いてくれた。


「ありがてえ〜ッ!!」


 プランシェは今度はMAPを頼りに、三つの屋敷に聞き込みに入った。


「すみません、ご主人のアルマニャック様はいらっしゃいますか?」


 アルマニャック家の従者が対応した。


「主人はいま、奥方と食事中ですので」


「失礼しました、出直して参ります。」


 アルマニャック夫人、×。


「すみません、ご主人のモンフォール様はいらっしゃいますか?」


「主人は奥方と演劇の鑑賞に出かけておりますが。」


「はいはい、出直します。」


 モンフォール夫人、✕。


「すみません、ご主人のベロニド様は、いませんよね?」


「え?はい、不在ですが。」


 プランシェは迫った。


「ベロニド夫人のお客人に、緊急のお知らせがございます!」


 従者は苦い顔をした。


「それが、奥方は、人払いを命じておりまして……。」


 一方、ベロニド夫人の寝室では、ベロニド夫人とダラミツはベッドに座り、ダラミツが聖書も持たずに聖書の中身を語っていた。


「主は言われた、愛とは最も崇高な感情であると。また、こうも言われた。家族のように隣人を愛しなさい。神の子が我々を愛するように、我々も愛を知らねばならないのです。」


 女のように美しい顔立ち。


 鐘の鳴るような声。


 賢く信心深く、蠱惑的なダラミツに、ベロニド夫人はもう我慢出来ない。


 自らドレスの胸元をはだけさせた。


「マダム。如何なさいました。」


 ダラミツはわざと真面目なふり。


「神が遣わされた方。迷えるわたくしに、本当の愛を教えてくださいまし。」


 ダラミツは十字を切り、クロスのネックレスにキスした。


「……主はお赦しになられる。マダム、貴女を導きましょう、すべては主の御心のままに。」


 ダラミツはベロニド夫人に覆いかぶさった。


 ベロニド夫人の従者とプランシェはドアの向こうで鍵穴から覗いて盗み聞きし、呆れ返っていた。


「なんてとんでもない方だ……。」


「ダメだこりゃ。どうせ、終わるまで出てきやしませんよ。言伝を頼めますかね?」


 ダトスとカステルモールの待つ安酒場に、一番乗りはポルトス。


「ようやく来たか」


 ポルトスはハラハラと、別の悩みを抱えたようだ。


「早過ぎた……早漏かな。クソ!歳を重ねる程、満足に女も抱けやしねぇ!」


 ダトスは呆れて、ポルトスの頭が大丈夫かどうか尋ねた。


「お前、なんで呼ばれたかは理解はしているのか?バッツが極度の武者震いだ、助けてやらねば。」


 ポルトスはカステルモールの隣に座って豪快に肩を組んだ。


「武者震い!上等だ!それでこそ男だろ!!明日からは血湧き肉躍る戦場だぞ!!バッツよ、大いに猛り大いに燃えておけよ!!」


 カステルモールは納得しかけた。


「そうか!?これは俺が勇敢な証か!?」


 ダトスがため息をついた。


「真に受けるなバッツ。今猛ったところで明日には力尽きるだけだ。」


「それは不味い!落ち着かねばーっ!!」


 プランシェがヘトヘトになって帰って来た。


「プランシェ!ダラミツはどうした!?」


「それがちょっと、間に合わなくて。」


 夜になって、ようやくダラミツが安酒場にやって来た。


「遅くなった。崇高なる神の意思を語っていた為にな。店主、何か食べるものを。ブリーチーズが食べたいが。」


 一同はダラミツを睨んだ。


「どうせマダムと神のボディトークだろ?知ってる。」


 ダラミツは知らん顔でカステルモールの隣に座った。


 真摯な眼差しで、若きカステルモールを諭す。


「武者震いでは無い。私たちは明日たくさんの命を殺め、罪を重ねるだろう。ダルタニアン、君の震えは良心だよ。主は人間を善として作られたが、人間は悪を犯してしまうのだ。君は、猛々しい剣士でありながらも、正義の人だ。王妃様を守る特別な任務には筋があるが、戦争にはあまり意味が無い。あるのは、国家の利益と、人の犠牲や勝者の重ねた罪の重さだけだ。それは、享受してはならない。君の動揺は、正しい。」


 今だけは、ダラミツは頼もしいと言えよう。


「確かに、国の為ではあっても、犠牲の多い戦は、何かが違うな……ただの弱肉強食だ。そんなのに勝っても、誉れじゃあない。」


 カステルモールは武勲よりも犠牲に気づき、震えが収まった。


「私たちが明日犯すであろう罪に向けて。この戦はどちらが善でも無く、対等なる命のぶつかり合いだ。正しい剣など何も無い。それはそれとして、大いに剣を繰り出しなさい、ダルタニアン。生き残った者だけが後の歴史を語るだろう。」


「うん!」


 ダトスは感心する。


「やはり言葉の上手いヤツだ。見事だよダラミツ。」


 ポルトスは反抗した。


「はぁー?戦争がなけりゃ、俺達銃士は飯にすらありつけんぞ?」


「主が与えたもうた命の尊さを説いているのだよ、ポルトス。主は万人を等しく愛しておられる。」


 ダトスが告げた。


「バッツに必要だったのは、お前の知恵らしい。おかげでバッツはもう大丈夫そうだな。」


 落ち着いたカステルモールは尋ねた。


「お前は立派なヤツだよ、ダラミツ。何故神父にならない?銃士でいては、人殺しを重ねるだけなんじゃないのか?」


 ダラミツは微笑む。


「迷いはあるがな。いずれ、私の道も定まろう。」


 ポルトスがボヤいた。


「迷える人妻を虎視眈々と口説く神父か?確かに頭はいいがな、ダラミツはマトモなことには知識を使わんぞ?」


 カステルモールとダトスが笑った。


「一理ある」


「そりゃそうだ。」


 ダラミツはムスッと不機嫌になった。


「神学の教授による、ただの流れだ。わたしへの侮辱はよしていただきたい。」


 カステルモールがダラミツを宥めた。


「まあまあ。俺たちはわかってるよ。それより、ダラミツも集まった。そろそろ飯にしようか。」


 ダトスが頷いた。


「格安定食をいただくか。」


 ポルトスが懐から金貨の束を出した。老夫人からのお小遣いだ。


「格安定食だぁ?今夜は戦の前夜だぜ?店主、ありったけの酒とご馳走を出せ!お前らも遠慮なく食え!!金入りがあれば大盤振る舞いがポルトス様の美学だからな!!」


 店主が思わぬ大金に大喜び。


「かしこまりました!雑用君、食材買ってきなさい!!ソムリエはワインセラー解放!あぁ、雑用君、ブリーチーズを忘れずにな!」


 カステルモールは喜んだ。


「ご馳走とマトモな酒か!」


 ダトスはポルトスの為に注意した。


「ポルトス、浪費癖はよせ。為にならんぞ。」


 ダラミツがダトスの肩を叩いた。


「今宵ばかりは主も赦されよう。私たちは戦の後、生きて会えるかもわからない。私はポルトスの恩恵にあやかってご馳走をいただくぞ。」


 苦笑いし、ダトスは見逃すことにした。


「まぁ、確かに。だが、食前に誓えよ!今夜の晩餐の後、戦が終わってここに戻る、生きて帰るのだと!」


「助け合いだ」


「銃士隊の信念だな」


 四銃士はレイピアを抜き、剣を重ねた。


一人は皆の為に(アン・プー・トゥス)皆は一人の為に(トゥ・プー・アン)!」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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