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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第1話 快男児トロンプ・ルイユ
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サンソンはフーケ一族の弟を逮捕し、身柄を拘束して時空転移装置に詰めると、改めて17世紀の王政を振り返った。


皆が国王陛下を守ることに力を貸してくれた。


(もし、これがルイ16世陛下なら……。)


サンソンには、いずれ自身の陛下を助ける誘惑が湧いた。この時空転移装置ならば、可能なのだ。



一時の別れを告げに来ると、カステルモールが歩み寄って来た。


「四代目サンソン殿。帰られるのか?未来に。王がお帰りになられたら、数々の報酬を辞さぬと思うが……」


サンソンは、カステルモールに一礼した。


「はい。逮捕協力に感謝します。罪人は未来に連れ帰り、然るべき裁判のもと、刑が下されるでしょう。それにわたしには報酬など無くても、名誉ある仕事でしたから。」


カステルモールは苦笑した。


「微力ながら。力になれたのは、シラノやショワジー殿や、リュリ殿だけだったが。暗殺を防げたのは貴殿が来たおかげだ、この場を代表して感謝を。」


カステルモールとサンソンは、固く握手した。


ショワジーはそっけなく、踵を返して背を向けた。


「貴方の道行きに神の御加護があらんことを。そして出来れば、二度といらっしゃらないでくださいまし。わたくしは殺人なんて、金輪際お断りですわ。」


サンソンはショワジーに振り向いた。


帰還が若干遅れたのは、クロエが産気づいていたためである。


「ショワジー。クロエ君は先ほど、君の赤ん坊を生んだぞ。」


「養育費は送っています。ですけど、ドレスを着たわたくしが父になれるとお思いでしたら、多大な勘違いですわ。」


サンソンはショワジーを一瞥し、荷物を背負って歩きながら告げた。


「クロエ君は、赤ん坊には母親が二人と告げて育てるそうだ。私の住む未来よりも、遥か未来では……貴方が本当の女性になることも、女性同士の結婚も、あるのだろう。祝福してあげなさい。貴方は、神に仕える神父なのだから。」


ショワジーは意外なサンソンの理解に驚いた。


ちょっぴりズレてはいたが。


ショワジーは性自認が男の女装癖、とは、まだよくわかっていないらしい。


「祝福は当然ですわ。わたくしの子ですもの……あぁ、わたくしの旦那様のクロエは母になってしまいました。こうなったら、わたくしは新しい恋に猛ダッシュですわ。」


サンソンとカステルモールは目を合わせ、苦笑した。


「もっとも、一番働いたのはユスターシュだろうな。」


「同意見です。彼が影武者なら安心して任せられる。人命を尊重出来る人物だ。」


カステルモールは銃士隊少数精鋭を連れて、馬車の護衛に着いた。


馬車の中ではリュリとユスターシュが、賑やかに喋っている。


「監獄でもバレエの足を忘れるな!お前のようなむきたまごは、何年もレッスンして、ようやく我が王の不調な日に追いつくぐらいだ!芸術みな努力ッ!!石は磨けばなんでも光るッ!!」


「忘れねぇよ!俺、芸術ってもんをはじめてすげぇと思ったぜ……!!今まで舐めてたがよ、昔の自分は蹴飛ばしてやらぁ、バレエでな!!」


カステルモールは中の二人に声がけした。


「静かに。ヴァスティーユ監獄に出発する。この旅はあくまで秘密裏な……」


「あぁぁぁぁぁ!王……おぉぉぉうッ!!このリュリ、貴方様をお迎えにあがります故、今暫く!!お待ちくだされ、おぉぉぉうッ!!!」



サンソンと別れてからの、ヴァスティーユ監獄までの道のりは、静かなものである。


リュリとユスターシュは口にガムテープを貼られて、パントマイム状態で意気投合している。


銃士の一人が尋ねた。


「隊長、あれは、よろしいのですか?」


「秘密裏に連れていくのは国王の勅命だ。サンソン殿は、俺に未来のお役立ちアイテムを残したよ……」


カステルモールはガムテープを示した。


銃士は瞬きし、言った。


「使い方は違うのでは?」


「今くらい静かにさせてくれ。頭痛がする。ヴァスティーユ監獄についたら、また騒がしくなるぞ。」


つかの間の休息、つかの間の静けさであった。



ルイがリュリを伴って、ヴェルサイユ宮殿に帰還すると、ルイはリュリを連れたまま中庭に急いだ。


中庭で待っていたルイーズは、遠目でも気づいた。


余がリュリを伴って来た時。


あれを言った陛下と、今のルイは、全く違う気がする。


ルイは真っ青な顔で、ルイーズを悲しませたラウルの死を、ずっと背負ったまま、時が止まっていたかのようだ。


あぁ。


わたしは今まで、誰と話していたんだろう。


ルイ陛下の代わりの人だ。


良い人で良かった。


生きて、ルイ陛下に、会えて良かった。


「ルイーズ!そなたに危険が及んだらしいが!」


ルイーズは、ルイを安堵させるような、温かな笑顔で迎えた。


「わたしは、陛下を待てましたよ。陛下の代わりの人が、助けてくれましたから。だから、陛下にわたしの気持ちをお伝えします。聞いて、いただけますか?」


リュリが飛び出して妨害した。


「なりませんよ我が王ッ!!こんな公然の中庭で愛を語るだとか、しかも女ッ!!クキィィィッ!!!」


「リュリ。席を外し、デザイナーとバレエ衣装の打ち合わせを。余もこの後は政治でスケジュールが詰まっている。そう長くはかからぬ。」


リュリはハンカチを噛み締めながら激怒を抑える。


「お短く!なさってください!!では、わたしは王のご命を果たしに、デザイナーとバレエ衣装の打ち合わせに参ります!」


リュリが去ると、ルイはルイーズの隣に座り込んだ。


ルイーズと共に植えた花々が、芽吹いている。


「そなたが、水やりをしてくれたのか?」


「はい。陛下の大事な花々ですし。あちらの陛下は、お花には関与なさらないので。」


「やはり、アレが余では無いとわかるのか。……ヴェルサイユ宮殿には?伝わっておらぬか?」


「大丈夫ですよ。身近な人にしかわからない誤差でしたから。」


ルイはルイーズの笑顔を見て、心から安堵した。


「余を待っていたのか。……ラウルのことは?」


「ラウルの死は、陛下のせいではありませんでした。避けてしまって、ごめんなさい。ラウルには逃亡の道がありました。彼がわたしを、戦死を選んだことは、わたしが原因であり、ラウルの意地です。そして、わたしにも選択権がある。」


「……謝るな。ルイーズよ、選択権、とは?」


ルイーズは意を決した。


「わたしはラウルを好きでしたし、わたしへの愛で生涯を閉じたラウルへの、裏切りには値しますが。……わたしは、陛下とラウルの決闘沙汰を見ていました。そこで、すでにわかっていました。わたしは陛下の人間性が好きです。国王でありながら、人間らしく悩み、人並みの優しさが持てる貴方が。わたしが陛下を選ぶ、という、選択権ですよ。」


ルイは感極まって、ルイーズを抱きしめた。


「愛している。仮に、彷徨う余の一時の感情だとしても。今は本当だ。愛している、ルイーズよ。」


ルイーズもまた、幸せを感じていた。


「わたしも愛してます。貴方を支えられる喜びを、わたしにください。例え、一時的だとしても。わたしは幸せです。」


こうして、ルイーズは、恋多きルイ14世の初の公式寵姫となったのである。



未来に帰ったサンソンは、さっそくフーケ一族・弟を刑務所に連行し、高等法院で罪状を報告し、裁判の手続きを済ませた。


それだけ全部やって、疲れているし、家で休みたい。


だと言うのに、皇帝ナポレオン・ボナパルトに呼び出された。


サンソンは、不機嫌に現れた。


一日の締めくくりに、フルチンの皇帝には、誰だって会いたくは無いだろう。


「なんのご用です?フーケの裁判は明日のはずだ。」


ナポレオンは帰ろうとするサンソンを引き止めた。


「待て待て!機械化料理人ヴァテールに差し込まれた命令カートリッジだが、出処が判明したぞ。」


「……なに?」


ナポレオン・ボナパルトは得意げに鼻の下を擦った。


「世は情報化社会!皇帝の依頼に応えぬ企業無し!こんな時ぐらい俺の権力を役立てろ、サンソンよ!」


「それはどうでもいい。解析結果を。」


ナポレオンは報告書を読みながら答えた。


「パピヨン・ド・ニュイ社製、死人オートマタ用命令書カートリッジだそうだ。俺が派遣した密偵の話では、次々に墓荒らしが起きて、死体を機械化している。フランス国民もまだまだ王家を嫌悪していたらしい。確かに演説で公開するには早過ぎた。死体の機械化は兵力、国民が兵力集めを始めたということだな。」


サンソンは「言わんこっちゃない」とばかりに苦渋のため息をついた。


「そして、パピヨン・ド・ニュイ社も調査済だ。この企業の裏には、自らを革命の士と呼ぶ秘密結社ラルヴが関わっている。俺よりお前が詳しいんじゃあないのか?いや、俺も革命のシトワイヤンだけれども。お前は死刑執行人だ、二千七百数十回の死刑を成しただろ?」


サンソンはラルヴと聞いて怯んだ。


「ラルヴ。現存する革命の士……よもや、ロベスピエールやサン=ジュストが機械化で蘇生していたら、指導者になりかねない!革命の地獄の再開だな。」


「うむ。ラルヴにとってフーケ一族は序の口だ。カートリッジ自体の生産数は100を超える。」


「100……ルイ14世陛下を守る側の未来人も、私だけでは追いつかない。陛下。シュヴァリエ・デオンを召喚してください。」


ナポレオンは嫌がって怯んだ。


「えぇ〜!デオン!?あの剣豪の婆さんか?しかも、また王党派じゃねーか!」


「彼女ならば必ずや力になってくれるでしょう。王家に仕えた忠実な僕、竜騎士デオンであれば。」



とある大富豪の屋敷の広間にて。


毎日のように、見世物の決闘が行われた。


「ブラボー!おぉ、ブラボー!!素晴らしい剣術だったな!!」


若き血潮たける決闘広間には、アンティーク品のようなレイピアを下げた老婦人が、厳しいまなこで剣を繰り出す勇姿達を見ていた。


「なんだ?何故決闘広間のエントリー側に、おばあちゃんがいる?死んでしまうぞ、追い返してやれ。」


「よせ!あの老婦人は俺たちが束になってもかなわねぇよ!!知らねぇのか?」


老婦人は立ち上がり、慄いた剣士がボヤいた。


「深紅のレイピアは返り血がこびりついてもう取れねぇって噂だ。あの老婦人こそは竜騎士デオン、まだまだ現役の剣士だぜ。」


デオンのまなこは何を映すのか。


今は亡きアントワネットとルイ16世の残像か。


王家に捧げた白百合の剣、昔の面影いまいずこ。


「……わたくしの剣が、()いていますね。予兆でしょうか。大任が来るならば、よろしいのですが。」


そして。


ルイ16世からいただけるはずであった、昔の年金、いまいずこ。



……コンティニュエ!!!

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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