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カステルモールは銃士隊に貴族のナリをさせ、劇場の至る所に配置した。
無論、不審者は取り締まり、銃士隊駐屯所まで連れ出す徹底ぶり。
「こちらカステルモール。銃士隊の配備、完了した。不審に思われた人物は全て取り締まっている。」
薄型通信機からサンソンの声が聞こえた。
「了解した。カステルモール殿、通信機には慣れましたか?」
「慣れぬ。だが、使わねば任務にならぬのであれば。」
「失敬。こちらサンソン。わたしの現状の上司、ナポレオン・ボナパルトから二人乗り時空転移装置を回収した。帰りが私と罪人になるかどうかは、あなた方次第だが。」
開幕の合図が鳴り響く。
指揮者が指揮し、演奏が始まった。
「……」
舞台袖、リュリはユスターシュに言い聞かせた。
「特訓通りに。焦るな。私がリードする、ついてこいむきたまご。今の自分は王だと思い込め。バレエに抜かりのない芸術の神、美しくて罪深い通り越して徳高い!……そうだ。」
リュリとユスターシュは舞台袖から踊りながら出て来た。
ユスターシュの見事なバレエに、誰もがルイでは無いと気づかずに、思わず見惚れて溜息を漏らした。
解毒したマリーテレーズも、特別席で見に来ていた。
(無事だったんだな……)
ユスターシュの胸に安堵が押し寄せた。
その時だった。
リュリが、アイトゥアイでユスターシュに異変を知らせる。
(気をつけろむきたまご!!)
(え?余のバレエにぬかりなど……)
舞台袖から誰か、踊りながら出て来たのだ。
黒い髪に、美しい顔立ち。見事なバレエ。
(だ、誰……!?)
リュリの演目に、この男の配役はいないはず。
サンソンはカステルモールの元に駆け寄った。
「フーケ一族の弟だ!大胆にも舞台の上に!!」
「銃士隊は動かせない。」
「何故です?」
「ルイの命令だ。銃士隊はルイのバレエ舞台のの妨害をしない。」
つまり、ユスターシュ対フーケ一族・弟!!
リュリは指揮者に合図。
演奏はアドリブで、激しいテイストに変わる。
バトル編に相応しいミュージック。
暗殺者は、踊りながらナイフを突き出した。
客席が異変に気づく。
「あの刃物、本物だぞ!?」
「暗殺だ!」
「陛下が死んだら、フランスは!?」
リュリはユスターシュを支え、合図した。
(ドゥヴァン!)
ユスターシュは身体を斜めにし、足を突き出し、蹴りを入れた。
暗殺者が一撃を受け、ナイフを落とす。
(プリエ!ドゥヴァン、プリエ!!)
ユスターシュは足を曲げて突き出し、蹴りで暗殺者にたたみかける!
フィリップ殿下はうっとりと見惚れた。
「なんて優雅な戦いかしら……お兄様にしか、とても出来ませんわ……」
「陛下がバレエで戦っている」
「あくまで舞台は陛下のもの……!」
(二人で行くぞむきたまご!!ロン・ド・ジャブ・アン・レール!!!)
リュリとユスターシュ、息のあった動きで、まっすぐ伸ばした足を空中で半円蹴りにして見せた!
挟み撃ちで二人の怪力男児から半円蹴りを食らった暗殺者は、脳震盪で倒れてしまった。
客席から拍手喝采の嵐が沸いた。
「陛下がバレエで撃退なさったぞ!!」
「太陽王万歳!!」
「フランス王に喝采を!!美しきルイ陛下に祝福あれ!!」
ユスターシュはリュリと舞いながら、感じていた。
(これが……王の撃退!これが、芸術か……!!)
ユスターシュ、リュリの助力により、暗殺者を撃破!!
刑期、残り115年ッ!!!
舞踏会は名を改め、国王夫妻結婚記念舞踏会に。
メニューはユスターシュの計らいで、多くがマリー・テレーズの好物であるチョコレート菓子が並んでいた。
舞踏会では、ユスターシュは意識的にマリー・テレーズの元に行く。
ルイーズのことも心配だが、ルイーズの側にはルイが必ず行くだろう。
「陛下……今宵は一段と勇敢なバレエでした。」
「余の敵は、余が決着をつけるのが当たり前のこと。リュリのおかげでもあるが……マリー・テレーズよ、身体は大事ないか?余が勧めたばかりに、毒の被害に遭わせてしまったからな。」
「わたくしも、ルイーズさんも、元気になりました。陛下がわたくし達を助けるために、二人一緒にとても腕の良いお医者様にみせてくださったからです。」
「……すまぬ。デリカシーの足らぬ人間だな。」
「いいえ。貴方様は人道をなさいました。命を、等価に見なされたのです。助けられて、誰が文句を言えましょう。わたくしは……わたくしの命は、ルイーズさんには到底及ばないと思っていました。ただスペインとの交渉材料に、淡々と日々が過ぎる。」
「マリー・テレーズ……。苦しかったろう。」
マリー・テレーズもまた、確信を抱いた。
「……貴方はだれ?陛下ではない人。貴方だけが、わたくしの日々を変えてくれました。」
「……余のことはルイ、と。」
「ルイ。1曲、踊ってください。」
「……そこまでは練習が……余は、ルイと違ってワルツは下手だぞ。」
「わたくしがリード致しますから。さぁ、貴方。手を、とってくださいまし……」
国王夫妻の為に、貴族達が自然と席につき、広々としたホールが譲られた。
「スペイン女、踊れたのか……」
「……そこまで悪くなくない?」
「笑うと、意外と愛想がある」
ユスターシュはマリー・テレーズのリードの元、ワルツを踊る。
初めてだ。
自分のしたことで、誰かがこんなに幸せそうに笑うことが。
その日は、ユスターシュにとっても、特別な記念日になった。
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