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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第1話 快男児トロンプ・ルイユ
19/47

1-17

 二時間程、ぐうぐうと一眠りしてから、不意に起きてしまった。


「……メシ……」


 腹が減ったのだ。


 夕飯を食べれなかったし。


 見れば、サイドテーブルには、毎日入れ替えているのか、焼き菓子や葡萄が置いてある。


 ユスターシュは夢中で焼き菓子を頬張ったが、全然腹には足りず。


 その時、庭を誰かが通った。


 ユスターシュは慌てて剣を握り、しかし、ルイならば剣は使わないと、剣を手放してから、護身用に花瓶を持って、誰かを追いかけた。


 未来から来た暗殺者かも、しれないのだ。


「……起きて、しまわれたのですね。」


 その人の出で立ちを見て、ユスターシュは慌てて花瓶を隠した。


 ルイからかなりの寵愛を受けているのがわかる。慎ましいドレスには、品の良い高価なカメオのブローチだけ一つ付けて、それは恐らくルイの贈り物である。悲しそうだが、優しげな、聖母のような顔立ち。


 なんかを思い出す。ルネサンス期の、聖母子画みたいな、清らかで慎ましい人だ。


「……ルイーズ?」


「はい。避けてしまって、ごめんなさい……。」


 ユスターシュは今ばかりは色恋どころでは無く、腹が減って、匂いを嗅ぎつけた。


 ルイーズは、焼きたてのパイの入ったバスケットを持っていた。


「パイか!それをくれ!」


 ルイーズは必死にバスケットを守った。


「いけません!これには行き過ぎた眠剤が盛られてます!わたしが犯人で、わたしが悪いんです!!」


 ユスターシュは、ルイとラウルとルイーズの三角関係までは、わからない。


 何故にこのような健気然とした娘が、国王に毒紛いなパイを運ぼうとしたのか、さっぱりわからん。


 ユスターシュにわかるのは、自分を拉致監禁したルイの悪辣横暴さだけだ。


「なんで?あ、いや、なぜだ!たぶんに、俺、いや余が、めちゃめちゃ性格の悪いクズだからか!?」


「え。いえ、そこまでは……。わたしは、陛下を好意的にも思っております。ただ、落ち込んでいる中で、ずっと避けてしまい……銃士隊宿舎に招かれて、苦しむラウルのお父様に会いました。ラウルの死の悲しみから、逆恨みしてしまい……陛下との、心中をはかりました。それでパイを。これは、国家反逆罪ですし……わたしは途中で目が覚めました。陛下は、ラウルに自力で生きろと言いました。きっとラウルが敵前逃亡しても、責めなかった。わたしは馬鹿です。断罪を受け入れます。」


 ユスターシュは、ルイーズの優しさや苦しみはわかったが、話自体は半分くらいしかわからず、そもそも、ルイーズの愛情はルイに向けられたものだとは明らかだ。


 ここで手出しするような野暮はすまいし、そんな悪漢はユスターシュが許さない。


「ルイーズよ。そのパイの話は伏せたままに。今の余では無く、リュリの奴が小躍りして飛びつく余の時に、気持ちを伝えよ。今は、支えてやれなくてすまぬ。」


 ルイーズは不審に思ったか、夜の月明かりの中で目を凝らした。


「わかりました。でも、なんだか、声の調子が悪いです。……表情も、陛下じゃない人みたい。大丈夫ですか?お具合が優れませんか?」


 誤魔化しきれない。愛妾ルイーズだ。そりゃルイを内面までよく知っていよう。


 ユスターシュは必死に誤魔化した。


「な、なに。悲しみもあれば、愛するそなたに会えたら、余とて喜びもあろう!ルイーズよ。例えそなたのパイの毒で倒れても、余は死なぬ!バレエをこなしながらクルクル回ってそなたにパイが美味かったと囁くまでは死なぬから、安堵せよ!」


 ルイーズは苦笑した。


「……身体の到る穴から血を吹き出してバレエを?陛下のユーモアは初めて聞きましたが、だいぶ危険な悪ふざけですよ?」


 割とルイーズがパイに盛った薬は、眠剤なんかではなく、危険な代物だったらしい。


 ユスターシュは花瓶を差し出した。


「この花をそなたにやろう。余が本調子になるまで、揺らがず生きれるように。」


「……花なら中庭にあります。陛下とわたしの育てた花々では?」


「えっ。あぁ、そうだ。」


 ユスターシュは限界で、空回りの果てに、腹をぐうぐう鳴らした。


「陛下?もしかして、空腹であられましたか?」


「うむ。実は、夕飯を食べておらぬ。バレエ練習に打ち込むあまり、疲れて寝てしまったのでな。それで見るなりパイに釘付けになってしまった。」


 ルイーズは心配げにユスターシュを見て、辺りを探った。


「陛下はたくさんお食べになる方でしょう。シェフを起こすのに気が引けたのですか?このパイは捨てますが、あちらの窓に灯りがあります。まだ夜遅いサロンをしてる方がいるみたいです。わたしでは、貧相なパンしか出せませんから、あちらを訪問して、きちんと食事をなさってはいかがですか?」


「うむ……提案、感謝するぞルイーズ。行ってくるとしよう。そなたはくれぐれも悲しみに負けるでないぞ!ラウルのことで悲しくなったら、周囲にSOSを!よいな?」


「はい。陛下も、調子を取り戻されるまで、リュリさんやコルベールさんにSOSを。わたしはいつでも、アンリエット様のおそば仕えの時以外は、中庭で待っておりますから。」


 羨ましいヤツめ、ルイ!!


 こんなに慈愛に満ちたルイーズに愛されるとは!


 ますます憎い野郎だぜ!!

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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