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Trompe-l'œil ー二人の太陽王ー  作者: 燎 空綺羅
第1話 快男児トロンプ・ルイユ
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1-16

 宮殿の外観にユスターシュは感動。


「すげぇー!!!なんちゅう美しい宮殿だッ!!!」


「言葉使いに気をつけろよ。優雅に話せ。それに、ヴェルサイユ宮殿が素晴らしいのは、外観だけだ。中はヴァスティーユの方が衛生的かもな。」


 見た目は美しく、中身は狭苦しい迷宮だ。


 延々と続く薄暗い細道。


 貴族が出てくる部屋など、ドアを開けて見えてくるのはベッドだけの狭苦しい部屋。


 階段下には、なんと汚物の嵐が。


 ユスターシュはカステルモールに耳打ちした。


「トイレ行きたい……。」


「トイレは王の部屋まで行かなければ無い。まだ歩くぞ。いや、正確には、貴族達のトイレは一つしか無く、奪い合いだ。入りようが無い。」


 ユスターシュはドン引き。


「何だ?宮殿なのに?イメージ違い過ぎだろ。ここは貴族の刑務所かぁ?や、刑務所の方がトイレあるわ。」


「あながち間違ってはいないな。ルイ陛下の狙いは貴族の弱体化にあるのだ。」


 ユスターシュがカステルモールに真っ先に連れてこられたのは、政治部屋でも自室でも無く。


 コルベールが話を通したらしく、彼のそばに控えている。


 そこは、ジャン・バティスト・リュリのいるバレエ練習部屋であった。


「……トイレは!?」


「後だ。陛下のスケジュールは詰め詰めです。」


 リュリは愛する人と微妙に違う、いや、違い過ぎる!品の無いユスターシュを見て、ほぼ罵倒してきた。


「カステルモール殿。何ですか、このむきたまごは?王の替え玉にしてはまるでセンスゼロ!品格無し!顔さえついてなけりゃただの街の荒くれ者ですよこんなん!!」


 ユスターシュは売られた喧嘩は買う男だ。


「あーん?てめぇがリュリ?」


「親愛を込めなさいッ!!我が王の寵愛、周り中知らぬ者無し!!」


「キンキン声がうるせえんだよ、この天パがよ!!」


 ユスターシュの拳は、なんとリュリが片手で受け止めてしまう。むしろ、握り返す力のなんと逞しい。


「……強ぇな、アンタ。」


 ユスターシュは強い奴にはきちんと敬意を払う。


「トスカーナの荒くれ者に力で叶うとは思わぬことですッ!とにかく我が王の窮地、この男を一人前のバレエダンサーに育てるしかないッ!!一秒すら惜しい……このクソダサをどこまで磨けるか!神よ、ご采配ください!始めるぞむきたまご!!アン・ドゥ・トロワ!アン・ドゥ・トロワ!!」


「は?始めるって、……俺が、バレエ……?」


 ユスターシュは意味がわからずに怯んだが、カステルモールが言い聞かせた。


「まずはリュリの言う通りに。王はバレエの達人だ、バレエが下手では敵も騙せぬどころか、宮廷人にバレてしまう。」


 コルベールもまた、挨拶と同時に告げた。


「わたしは財務大臣コルベールです。呼び捨てでコルベールと。バレエをクリアしてから、初めて宮殿内部をお教え致します。ただし、バレエをこなし、歩き方が美しくならねばなりません。わたしも全力で支援致しますので。」


「……バレエ?バレエね……。」


 ユスターシュは、リュリの真似をしているつもりで、バーを握り、バーによって違う力の回し方で足を伸ばしてしまう。


「ノン!駄目駄目駄目ッ!!バレエ講師、こちらへ!私の代わりに見本のバレエを。むきたまご!バーを握りしめるな!私の手をソフトに掴め。鏡を見て!講師と自身の動きを近づけろ!再開!!」


 今度はバーを使わずに、リュリの支援付きで開始した。


 さっぱりわからない。あやふやだ。


「ダメだ!駄目駄目駄目ッ!!音感が全く感じられない!ピアノからだ!連弾を覚えろ!!」


 ピアノなんて、習ってもわからない。


 リュリのようには弾けない。


「感情が無いのか貴様はッ!?音色にハートを映しだせッ!!」


 確かに、リュリの音色は情熱的だ。


 ユスターシュは悩んだ。


 身体能力優秀。


 今日だけで鍵盤を暗記。演奏まで可能なレベルに到達。


 素晴らしい技能のはず、だが……。


 俺に、何が足りない?


 このままでは、影武者どころではないのだ。



「今日はここまで!!今のままじゃ宮廷を歩くことすら出来ん……庭と王の自室だけ!それ以外は行くな!」


 ユスターシュはルイの真新しいブラウスを汗で黄ばませて、バレエとは?ピアノとは?情熱とはなんぞや、の板挟みである。


 芸術だの舞台だのに、こんなに体力を使うとは知らなかったのだ。


 そして、便意との耐久戦で、お腹が猛烈に痛い!


「トイレをッ!!誰でもいい、トイレに連れてってくれ!!」


「わたしが!よく頑張りましたね、陛下!こちらです!」


 優しいコルベールが、ユスターシュの手を掴み、王のトイレに案内してくれた。


 王のトイレはキラッキラ。眩しい。


 内股でなんとかトイレに座ったユスターシュは、コルベールに心配されている。


 ちなみに、この時代ではトイレに仕切りは無く、座したまま誰かと喋ることもマナー違反では無かった。


「大丈夫ですか?ヴェルサイユ宮殿では、朝と自由時間、寝る前しか、トイレのスケジュールは無く……さぞ苦しかったことでしょう。」


 優しいコルベールだが、ユスターシュも唸りながら、責務を果たした。


「ぅぅ……コルベール!持久戦になる!寝不足じゃあ、財務なんちゃらの仕事に差支えるぞ、先に戻って寝てくれ……!」


「それでは……お先に失礼します。ご健闘を!」


 ユスターシュが荒ぶる激痛、戦いのトイレから離れた頃には、もうヘトヘトで、豪華な天蓋付きのベッドに倒れ込んだ。


 垂れ幕を閉じる余力は無く、意識が遠ざかって行った。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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