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政治の間にやって来たルイを驚かせたのは、ルイの剣の師匠、銃士隊長カステルモールであった。
カステルモールは頭を垂れ、頭を上げて良いというルイの許可を待つ。
コルベールも訳知り顔だ。
「スペインは……口実か。どうしたというのだ?カステルモール。面を上げよ。」
カステルモールはようやく頭を上げた。
「お休み時間に失敬を。緊急事態につき、お知らせに上がりました。陛下、こちらをご覧下さい。銃士隊!」
「はっ!!」
何か棺桶のような物に布が被せてあり、カステルモールの指示で布が剥ぎ取られた。
中には、金属の箱があった。鋼の棺桶とでも言えばよいだろうか。様々な技術を用いた箱であり、蓋を開ければ、人が入れるスペースが見られた。
「……何だこれは。聖人の聖体でも入れるのか?」
「本日ヴェルサイユ近郊で発見されました。俺がある協力者から情報を得て捜索させていた……おそらく、これは時空転移装置です。」
「時空……?これは珍しい、カステルモールでもユーモアを?」
「王。私はルイーズの取り合いで王が前線に送った銃士ラウルの名付け親です。ラウルの父ダトスは今、心労から過呼吸、過呼吸から喘息に発展し、私の部屋で苦しんでおります。今の私が冗談を言うように?」
「……見えないな。ラウルのことはすまない。だが、なぜ時空などと。突飛ではないか、カステルモールよ。」
「この装置を学者にも触ってもらい、解析済です。協力者がいた、と言いましたが、発作を起こしたダトスを助けた医師が、未来から来たサンソン家の四代目死刑執行人でした。彼は王を守る側、その他の未来人は王を暗殺に来ると。今も彼は貴方の護衛をスカウトすべく、出回っております。サンソン殿から伝言が。安全確保の為、ヴァスティーユ監獄ですり変われ、と。」
ルイは察した。
ヴァスティーユ監獄でルイとユスターシュが入れ替わり、少なくとも、国王暗殺によるフランスの倒壊を防げ、ということだ。
「……!!不味い。それは恐らく、ヴェルサイユ宮殿にまで刺客がもう入り込んでいるのだ。……一時間後に舞台が。」
「代役を。リュリがフォローしながら踊ればそれなりに何とかなりましょう。」
「うむ。コルベール!カステルモール!そなたらは、余以外の誰かに話したか?」
「いいえ。陛下の信頼厚いコルベール殿以外の政務官には、スペインがらみとしか言ってはおりません。」
コルベールも告げた。
「わたくしも、カステルモール殿から聞いて、直ちに陛下の元へ。秘密は墓まで持って行きます。どうか、自衛なさってください。貴方様抜きには、フランスは両ハプスブルク家に支配されてしまいます。」
ルイは、ルイーズが脳裏に過ぎったが、ルイーズに知らせる余裕は無かった。
ルイーズか、フランスか。
愛か、国家か。
マリー・マンシーニとマリー・テレーズで、既に学んだ道である。
国家を、天秤にかけられようか?
「コルベールよ!余の不在を誤魔化し、影武者の支援を行え!政治の再開は、余が戻ってからとする!カステルモールよ!今すぐ余を護衛し、質素な馬車を出せ!ヴァスティーユ監獄へ向かう!銃士は少数精鋭だ、よいな?」
「かしこまりました、我が王」
「御意に!」
リュリが急な代役と踊る事になり、目を白黒させている頃、カステルモール率いる質素な馬車はヴァスティーユ監獄の橋を渡った。
銃士二名と、質素に変装したルイ、カステルモールは監獄に入り、ルイは王としてではなく罪人のフリをして、足掻く演技すらしてみせた。
「離せっ!!触るな!俺は無罪なんだ!!」
「銃士隊長さん。この男、罪状は?」
「刑期120年の終身刑、脱獄したユスターシュ・ドージエ・ド・カヴォワを収監に参った。中にいるのは、入れ替わった弟さんだ。参った家族愛だな。案内してもらえるか?」
「あぁ、アンタは仮面の紳士さんか!なるほどね。あんた仮面外しちゃダメでしょ、王の勅命なんだから。看守ー、鉄仮面持って来てー」
「あぁッ、やめろ!よくもこの美貌に鉄臭い仮面を!しかも溶接!熱い、熱いぞ!!……ちょ、おいっ!何も、仮面までは要らなかったのではないのか?」
ルイの本音が漏れて、カステルモールが返した。
「いざと言う時、身バレ防止になりますよ。」
看守はルイを連れて、カステルモールに振り向いた。
「銃士隊長さん、ここまででいいですよ。後は我々がやります。仕事なんでね。」
そうもいかない為、カステルモールはアドリブを効かせた。
「こちらも王の勅命だ。ユスターシュに条件付きの警告をしなければならない。人払いを頼めるか?」
「では、話の時だけ独房に。」
ルイ達がユスターシュの牢屋に案内されると、ユスターシュは飛び上がって檻にしがみついた。
「て、てめぇ……!?」
ルイは白々しくも、泣き声でユスターシュの向かいから檻にしがみついた。
「弟よ!すまねぇ、捕まってしまった!」
カステルモールは呆れ返り、この馬鹿芝居を辞めさせる為にも、淡々と職務についた。
「ユスターシュを牢屋に入れろ。弟さんは我々が引き取る。まずは、人払いを。」
「かしこまりました。独房には近づきませんので、終わったら看守室に呼びに来てくださいね。」
看守達が去ってから、間もなく銃士二名も立ち去った。
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