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ルイは政治話が終わると、銃士隊長カステルモールを呼びつけた。
「御用の程は?」
カステルモールがやって来るなり、いきなりルイは話し出した。
「カステルモールよ。余は、女中のルイーズ・ド・ラ・ヴァリエールを恋人に所望する。彼女を尊重したい。」
カステルモールは瞬きし、尋ねた。
「それで?何故、俺をお呼びに?」
「調べさせたところ、ルイーズはそなたの銃士隊の新米銃士ラウルの恋人だ。余はラウルに勝ちたいのだ。わかるな?カステルモールよ。」
ルイにカステルモールは怪訝な顔をした。
「例え陛下の見初めた女であろうと、決闘は八百長出来ませぬ!」
ルイはボヤいた。
「余も反省している。少しはお前から剣をきちんと習うべきであった。」
「ラウルに何をするおつもりであられるのか。ラウルは、俺の親友の息子です。例え陛下とて手出しはさせませんが?」
ルイは笑った。
「凄むな、カステルモールよ。そなたらのやり方は知っておる。決闘次第であろう?ラウルを連れて参れ!余が相手をする!」
カステルモールは、それはそれで制した。
ルイの向こう見ずさでは、ルイが死んでしまうからだ。
「まさか……!馬鹿なお考えはお捨て下さい!陛下は俺の教え子ではありますが、実際には剣術の練習を怠けてバレエばかりをなさってらしたのです!剣にはなんの興味も持たなかったはず!ラウルは強い、四銃士のダトスが剣術を仕込んできた剣士です!」
「勝てぬか?」
「勝てません。陛下が死にます。」
ルイは覚悟に情熱を燃やしていた。
「だが余は勝たねばならぬ。至急ラウルを呼んでまいれ!舞踏の間は人払いを!そこで、決闘を行うものとする!!」
カステルモールは銃士隊数名と、ラウルを引き連れて、舞踏の間へやって来た。
一方ルイは、血がついても構わない服に着替えており、ルイ側の応援係に仲良しの音楽作家ジャン・バティスト・リュリを。
いざ、どちらかが死に到る場合の為に、女装の聖職者、美しきアヴェ・ド・ショワジーを連れ、家族には知らせなかったようだ。
カステルモールは気がはやるラウルに、しっかりと言い聞かせた。
「いいか、ラウルよ。ルイーズのことで怒っていたら、お前の剣でフランス王が死ぬ。言いたくはないが、必ず負けたふりを。女はルイーズだけじゃない。陛下に勝ってもフランスが潰れ、お前が死んだら元も子もなくなる。怪我をしたフリで降参しなさい。」
ラウルは燃え盛る瞳で答えた。
「いいえ。僕は、こんな理不尽な真似をする王に仕える為に、剣術を磨いたのではありません、隊長!手加減はしますが必ず勝ちます。僕はルイーズだけに愛を誓いますよ。」
ルイ陣営では、リュリが全力で喧嘩の勝ち方を愛する陛下に教え込む。
「我が王!よろしいですね?剣術でかなわなければ、パンチにキックです!!危うくなれば、敵の脚を猛烈に蹴り飛ばすのです!!バレエの動きにもあります!バランスを崩させるには、狙いは脛の下ですよ!!ダウンした敵に馬乗りになったら、拳を叩き込み続けて終了!」
「うむ。見ておれ、リュリよ。脛の下を蹴り飛ばして馬乗りでパンチ……余は勝つぞ!」
ショワジーが告げた。
「それは危うくなればですわ、陛下。元々、陛下には銃士隊長カステルモール殿の教えた剣術がございますよ。」
いざ、ルイとラウルの決闘が始まると、ラウルは手加減どころか、いきなりルイに猛剣戟を開始した。
「ラウル!!」
カステルモールが怒鳴って制しても、ラウルの熱血はおさまりはしない。
ルイは剣で受け止めることしかかなわず、とても相手にならない。
カステルモールの教えを思い出して、素早く距離を置いて剣を構えた。
ようやく呼吸が出来る。
「貴方はルイーズを愛妾にしたいだけだ。」
「フランス王に恋愛が許されぬと?」
「ルイーズを不幸にはさせない!!」
ラウルは剣戟を再開した。
四銃士ダトスの教え子であり、今まで熱心に剣術を学んできたラウルだ。
ルイは四銃士カステルモールの教え子だが、剣術に本気になったことなど無くて。
何処からか、ラウルを探していたルイーズが駆けつけた。
ラウルの猛烈な剣の嵐に、ルイが息を切らしながら後ずさっている。
ラウルのやりすぎは、第三者からでも見てわかった。
「やめて、ラウル!!」
ルイーズが国王を庇って叫んだのが、逆にラウルの嫉妬の逆鱗に触れた。
「必ず貴方からルイーズを取り戻してみせる!!」
剣戟は激しさを増すばかり。
ついに、ルイは浅い傷を負い始め、ブラウスが血で赤く染まり出した。
カステルモールは真剣に決闘を見ていた。
ラウルは親友ダトスの息子だ。守らねばならない。
だが、ルイは。
ルイの父親は、未だに疑問なのだ。
本当は、ブルボン王朝は既に断絶していて、ルイの父親は自分かもしれない。
カステルモールは長年、ルイに仕えながら、父親としてルイを見てきた。
いざ、ルイが危うければ、助けなければ。
ラウルの剣でついにルイが尻もちをついた。
ラウルは更に剣を深追い。
トドメだ。
「やめて!!!」
「ラウル!よせ!!」
カステルモールが飛び出すが、ルイは流れるように尻もちから復帰し、屈んだまま脚を回し蹴りする。
バレエの応用だ。
「え!?」
脛の下を蹴られてバランスを崩したラウルは倒れ、リュリが愛の叫びを上げた。
「素晴らしいッ!!バレエを技に昇華しているッ!!!」
ルイは素早く馬乗りになって、剣先をラウルの首に当てて、止めた。
「余の勝ちだ。そなたに剣では勝てぬが、余にも磨いた技があった。」
ラウルはカッと頭に血が登った。
「蹴りなど認めない、馬乗りなんて不正だ!剣術への侮辱と見なします!!」
カステルモールがジャッジを決めた。
事実、ルイは奇跡的に生還したのだ。
「勝者、ルイ陛下!!決闘に縛りなど無い、下がりなさい、ラウル!」
「しかし!!僕の方が強い!!」
ルイーズは、初めて見たラウルの戦いに、ラウルの内面に、引いてしまった。
「ラウルよ!あくまで決闘次第なのは男側だけだ。ルイ陛下と君の自己満足の問題で、まだルイーズ殿の気持ちは、君にあるのだろう!?」
カステルモールが諭したが、ラウルはルイから離れても、カンカンに怒っていた。
頭に血が登っていて、話が通じない状態だ。
「剣なら負けてません!卑怯だ!!」
「ラウル。戦に卑怯も何も無い。それは、実戦を知らない君の理想論だ。」
ルイ陣営は奇跡の勝利に湧いた。
「我が王ッ!!あそこでバレエを使われるとは!!勝利は美と芸術にこそありッ!!!」
「死者も出なかったのです。慈悲こそが美徳ですわ、陛下。」
「うむ。余はなんとか、達成した。後は、ルイーズの気持ち次第である。行くぞ、リュリ、ショワジーよ。」
ルイ達が舞踏の間を立ち去ろうとすると、ラウルが動いた。
「!?」
リュリは気づくのが遅れた。
ラウルの凶刃は、ルイを背後から襲う。
「ラウル!!」
ルイーズが真っ青になった。
ラウルの剣は、カステルモールによって弾かれた。
剣が飛んでゆく。
「ラウル……ダトスは君に何を教えた?胸に手を当てて考えなさい。君は何故、騎士道精神を捨てたのだ……。」
カステルモールが悲しげにラウルに告げた。
ルイが振り向く。
「ラウルよ。……今のは国家反逆罪である。」
カステルモールも、これは庇いようが無い。
「愚かな真似を、ラウル……ルイーズ殿の心は、君にあったというのに。」
ルイが告げた。
「国王への凶刃は死罪。八つ裂きの刑である。異議はあるか?」
ルイーズが飛び出して、土下座して頼み込んだ。
「どうか、ラウルを処罰しないでください!わたしが陛下のものになりますから!!どうか、ラウルに慈悲を与えてください!!」
ルイはルイーズの意思を汲み、告げた。
「余は、ルイーズの意見を尊重する。刑罰は無し。だが、ラウル、そなたを次の戦争で前線に配備する。逃亡は自由。そなたの剣術で、生きるか死ぬかを、とく学ぶがよい。」
「そんな……!」
ラウルは真っ青になった。
ルイーズもラウルの前線行きに恐怖で震えながらも、自分が泣かないように、ラウルを励ます。
「拾った命だわ。その命を守って、生き残るのよ、ラウル。」
しかしラウルには、もう生きる活力が無い。ルイーズを失った。
カステルモールは、内面で苦しんだ。
ラウルのこの様子では、ラウルが危ない。
ラウルに何かあれば、ダトスはどうなる?
時代は17世紀、ルイ14世は戦も心も、波乱の渦の中にあった。
19世紀、シャルル・アンリ・サンソンは時空転移装置から時空調査を行う。
機器と繋がったタイプライターを打ち、機器から情報が返される。
「革命派残党からしたら、フロンドが1番狙いやすいと思ったが、問題無し。成人、政権交代も問題無し。フーケの冤罪……恨みを買ったはずだが、ここも問題無し。……発見。この時代に時空転移装置の残骸だ。脅威レベル高数値を確認。誰か飛んだな……直ちに出立する!」
ソラニテ ソラニテ
魂転移 創世輪廻
救済衝動 精神汚染
リチュエル 時空 ソラニテ論
粒子 転移 粒子 再構築
一からわたしを作り直す
創造輪廻 荘厳論
時空から わたしが消えた
粒子分解 薔薇時計
時空 移動 粒子 再構築
線路を走る棺桶車輪
革命からの運命打破を
ソラニテ ソラニテ
粒子分解 創世輪廻
革命情熱 他力本願
アリュシナシオン ソラニテ論
再構築 再構築 再構築 再構築 再構築
わたしだけが知る 自我 スワンプマン
天よ わたしに与えたもうな 罪悪の存在を
主よ 御心の限りこの剣は邪悪を払拭す
時を 越えて
薔薇天使 薔薇時計 薔薇時空 ソラニテ
スワンプマン スワンプマン スワンプマン
私は時空転移装置の旅行先をタイプライターで打ち込んだ。
この時空転移装置は、私を箱ごと粒子転移させてゆく。
私は時空転移専用の棺桶に入り、多次元スキャナー、棺桶の車輪のスイッチを押して起動する。
薔薇の花びら時計を逆さにしてから、棺桶の蓋が閉まるのを待つ。
棺桶は、線路に従って走り出す。
蒸気を原動力に。
加速しなければならない。
多次元スキャナーを一気に通り抜けることが出来なければ、私の身体は半分失われることだろう。
棺桶は、大きな多次元スキャナーをくぐる。多次元スキャナーは、棺桶ごしに、私を観測した。
そして、棺桶ごと粒子分解が始まる。
多次元スキャナーの向こうは無。
現代、私はもう存在してはいないのだ。
指定時空、17世紀、ブルボン朝フランス、ヴェルサイユ宮殿付近へと、私は棺桶ごと再構築された。
現代、時空転移部屋では、薔薇の花びら時計の最後の一枚が、下の段へと舞い落ちた。
しばしの間があり、そして衝撃でエアクッションが広がり、私を守った。
この技術は未発達で、空高くに再構築されてしまう場合もある。着陸時に安全装置が内部で発動する仕組みだ。
ともあれ、棺桶を開ければ、ここは17世紀。
急がねば。
太陽王ルイ14世の生死は、私の手に委ねられているのだからーーー。
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