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守山一路はヒーローになれない  作者: 依近
第2章・ウィンドエッジ編
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第24話・砂漠の晴天


「うわっ……」


 守山は反射的に身を縮めるも、激しい風圧に押されて地面を転がった。

 なるべく離れないよう、転がる途中で大地に爪を立て、腹を地面に強く押し付ける。

 そのまま顔を伏せて、砂埃の爆発が過ぎ去るのを待った。

 やがて、音が止む。辺りにシンと満ちる静寂。

 守山はゆっくりと顔を上げ、砂埃が晴れた世界を見まわす。


「すっげ……」


 目にしたのは、黄土色の砂地に出現した円錐形のクレーター。

 中心に佇む少女と、地面に散らばる焼け焦げた残骸――竜巻型モンスターの本体らしい。


(本体が小さいってことにだけ同情しとくか)


 胸中でそっとをそう呟いて。柔らかな砂地に掌を着き、身体を起こす。吹き付ける風に、パラパラと粒子の細かい砂が散った。


「アウ――」


 呼びかけて、振り返る黒髪と潤んだ紅玉石の瞳。光を反射する白い砂に思わず目を細めた――一瞬。


「兄貴ィ!!!!」

「ふぐぉっ」


 横から現れた巨大な影に視界と身体を持っていかれる。

 まるで大型犬みたいに。ラゼルはその発育の良い長身の体躯で守山に圧し掛かり、容赦なく押し倒した。


「モリヤマ!?」


 アウロラの絶叫が響く。守山は片手を挙げて無事を示しつつ、じゃれついてくる男を心底鬱陶しげに見上げた。


「くっそ……オイ、退けっつの! あんたほどじゃねーけど俺も結構ケガ人だ!」

「あ、ごめん。大丈夫? 兄貴」


 ラゼルは擦り寄せていた身体をパッと跳ね上げ身を起こす。解放された身体は一気に軽くなり、守山は安堵の息を吐く。


「ちょっとあなた! 気をつけないさいよ!」


 駆け寄ったアウロラは守山の襟首を掴んで抱き起し、背中に庇うようにラゼルの前に立つ。

 逆立つ毛並みまで見えそう。警戒心の強い猫を思わせるアウロラに、守山とラゼルはほぼ同時に吹きだした。


「なんで笑うの」


 アウロラは肩越しに振り返りながら、プゥと白い頬を丸く膨らませる。


「ごめんって。まあそれより……よくやったな、あんたら」


 同時に目を丸くしたアウロラとラゼルは、無言でお互いを見交わす。

 アウロラの不満の色はなぜか濃くなったが、ラゼルはパァと華やいだ表情を浮かべる。


「へへ、うん。でも、ぜーんぶ兄貴のお陰だよ」


 褐色の肌をじわりと赤く染めて、鼻の下を擦りながら。

 守山は肩の力を抜いて、膝に手をついて立ち上がる。

 行方を追うアウロラの視線を感じつつ、ラゼルの前に立つ。

 ラゼルは口角を収めて、琥珀の瞳で守山を見上げた。


「そう言ってくれんのは正直嬉しいけど、でも、行動したのはあんただぜ」

「……まあ、ウィンドエッジに手を出した時点で詰んでたし。兄貴たちに任せて逃げるよりも、責任負って仲間たちんとこ行くのもありかなって」

「それは……」


 反論しかけた守山の口を、ラゼルは掌を振って制する。


「て、思ったのも本音だけどさ。でも、生まれて初めて逃げなくてよかったって思った……逃げなかったのも、生まれて初めてだけど」


 照れくさそうに笑って、ラゼルはアウロラへと視線を移す。


「お嬢ちゃん、すげーカッコよかった。俺、あんなふうに叫んだの初めてだよ。すげー高いとこにいんの見えたから、そこまで届くようにって。そしたらさ、俺の声が届いたからかは分かんないけど、応えてくれたじゃん」

「……ちゃんと、聞こえてたわ」

「マジ? やった」


 ラゼルの無垢な様子に、アウロラは白い頬を赤く染めて目を逸らした。


「なあ兄貴、ヒーローって、お嬢ちゃんのことだろ? 違う?」


 ラゼルは光の揺れる琥珀色の瞳で守山を見上げる。守山は大きく頷いた。


「そう、正解だ。ヒーローは、目線を上げさせる存在のことだからな!」

「まさしくじゃん!」


 突き立てた人差し指をアウロラへと向けるラゼル。アウロラはスカートの端をギュウと握りしめて、わずかに唇を尖らせた。

 予想外の反応に、ラゼルは不安げな目を守山に向ける。

 守山も小さく頷きを返しつつ、密かに息を呑んだ。

 砂混じりの風が吹き抜け、アウロラの唇がようやく開く。


「わたしは……ヒーローになる、けど……いつも目線を上げさせてくれるのはモリヤマなんだからね」


 アウロラの真摯な眼差しが向いた。ラゼルもつられるように守山へと視線を戻す。

 守山は数度瞬きしたあと、フンッと鼻息を吐いて答えた。


「おぅ! ヤラレの守山の演出は超一流だからな!」


 ピンッと張っていた空気が、プツンと切れて弛緩する。アウロラはガクリと首を垂れ、ラゼルは砂の上に身体を倒して腹を抱えて笑い転げた。


「んで、笑うんだよ」


 砂埃の晴れた青空に響く明るい笑い声。そこに重ねるように、誰のものかも分からない腹の虫がグゥと空虚な音で鳴いた。

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