第17話・罪
高い塀をぐるりと回って、入口から集落に入る。境界に踏み込んだ時点で、異様な空気を察した。
入口から真っすぐ伸びる通りの中央に人が集まっている。慎重に歩みを進めながら、人だまりに近づいた。
「アウロラ」
群衆の中にいた黒髪の後ろ姿に呼びかける。アウロラはパッと振り返り、ふっくらした唇を小さく噛み締めた。
「なんだ、どうした?」
「村の人が……」
アウロラは半身を開いて守山の視界を開く。背筋がゾクリと震えて、呼吸が詰まった。
「なん……っ、どうした、いったい……」
元の形が分からないほど腫れあがった顔。いくつもの痣が青黒く浮いた手足。微かに上下する胸の動きで、辛うじて息があることが知れる。
同じような重傷を負った男が三人。老人と、中年と、まだ若い青年。周囲の人の話では、彼らは家族であるようだった。
守山はサッと割れた人群れの間を縫って、地面に膝をついて若い男の口元に耳を寄せた。
「なにがあった?」
震えるうめき声の隙間に、意味を成す音を拾って繋ぎ合わせる。
「モンスターの、腹の中で拾った財宝……金になりそうなやつ、集めて……隣の集落に売りに、行ったんだ……そしたら、そいつら、これは盗まれたもんだ、って……言って」
「盗まれたもの……?」
若い男は激しく咳き込む。吐き出された体液に血が混じるのを見て、守山は男の背を撫でて吐いた血を飲まないよう身体を起こしてやった。
男は守山が差し出した水を飲み、呼吸を整えてから口を開く。
「俺らが、これはモンスターの腹の中から見つけたって言っても、聞きやしない……売りに行ったもん全部取られて、親父も、祖父さんも、すげえ痛めつけられて……あいつら、盗賊に襲われた鬱憤を、俺らで晴らしやがって……」
ギッと奥歯の擦れる鈍い音が立つ。男は深く項垂れて、強く握った拳で地面を叩いた。
「モンスターなんて、やっぱり災厄でしかない。なにひとつ良いことなんて起きやしない。たまの稼ぎだって、全部奪われて、おまけにこんな怪我まで負わされて……親父も、祖父さんももう立てねえよ……母さんや嫁さんに世話ばっかかけて、ひとつも楽させてやれない……なんなんだよ、もう……もう……!」
男は咳き込むのも構わずに、呪詛のように恨み言を吐き続ける。遠巻きに見ていた人々が、聞くに堪えなくなったように駆け寄って男を宥めた。
男の慟哭が、晴れた空を痛く染めていく。
守山はそっと息を吐いて、男の傍を離れた。
取り囲む人群れを見回し、集落のリーダーの顔を見つけて近寄る。
「モンスターの腹の中にあった財宝って、どこかに保管してんのか?」
「個人で持ち去ったものは分からないが、気味悪がって返してきたやつの分は、死骸の傍に積んである」
「……分かった。なあそれ、いったん俺に預からせてもらえないか?」
「……っ、ちょっと守山! どういうつもり?」
人群れを押し分けで前に出たアウロラが声を上げた。守山はアウロラに力の抜けた笑みを向けて、安心させるようにヒラと掌を振る。
「盗ったりはしねーって。ただちょっと、確かめたいことがあんだよ」
「盗る、なんて心配はしてないけど……そんなもの預かって、また隣の集落の人が無理やり取返しにきたらどうするのよ! 危ないよ……」
眉尻を下げて、唇を噛み締めながら。本気の心配を滲ませるアウロラに、守山はふっと苦笑した。
「取返しにきたとしたら、そん時はちゃんと話して交渉する。もめ事にするつもりはないから心配すんな」
「うっ……でも……」
「信じろって、な?」
アウロラは一度プゥと頬を膨らませ、萎ませながら言う。
「その顔、やめてよ」
潤んだ目を伏せ、溜息を吐いた。守山は苦笑して立ち上がり、アウロラの背中をポンッと軽く叩く。
「っし! 仕事しようぜ!」




