火山
地上からの距離は相当あるはずだが、溶岩の熱気は直に伝わってくるようだった。みな視覚を研ぎ澄まして火口のあたりを見つめているせいもあるだろうが、テレキネシス全力で溶岩の流れる方向をコントロールしている状態だからである。
最初に到着したときは飛び交っていた大小の飛行機械は視界を遮るからという理由で移動してもらった。空中を歩き回ることができる人間に邪魔と言われたのだから、みな平伏して従う。天災の救助に来た僕たちリゼア人は、どんなに違うと言っても神様扱いなのだ。
― ちょっと、みんなちゃんと押してるぅ? 市街の方へ、流れてるんですけど。
6人組のチームのリーダー役があせっているが、大半は返事をする余裕すらない。
― 押してるよぉ、相手は惑星のエネルギーだよ。わたしたち、だけでなんと、かって…くっ。
― おい、あれ邪魔。リーダー、何とかならないの?
僕はいらだちを「ぶつけない」程度に伝える。火口を覗くための展望台として作られた建造物の土台部分が、溶岩流に押されて斜めに止まってしまった。もちろんその上の建物はとうに焼失しているが、土台だけ残ってしまったのだ。その角度によって溶岩流が一部曲がって市街に向かっているのだ。
― だって、こっちを離さないと、あれの破壊なんてできない。
― ちょっ、無理。いま君の分の力が抜けたら…
― 応援呼べよぉ!
6人が全力で、やっと市街への流れを無理に押しとどめている状態なのだ。応援は間違いなく必要だ。つまらない意地を張ってるひまはない、と考えた時。
ふっと、軽くなるのを感じた。
「邪魔」と言われていた土台部分を誰かが持ち上げている。横倒しにしたビルのようなサイズの人口岩石の塊が、マグマの川から持ち上げられているのだ。市街に向かっていた溶岩の流れが、まっすぐ山裾に向かうコースに変わっていく。
― セレタス王!
― いつの間に。
― ああ、間に合ったようですね。お仕事お疲れ様です。
いつものようにさわやかな笑顔であいさつしながら、持ち上げた土台を溶岩流の堤防になるような位置に下ろしている。今しがたまで6人がかりで必死に押していた地点に、大きな不動の塊がやってきたことで、惑星のエネルギーは扇状に広がるのをやめて、狭く真下に向かい始めた。これで市街地の破壊は食い止められるはずだ。災害救助チームのメンバーが息をつく。
― ありがとうございました、王。
― いいえ、じゃ、あとはお願いしますよ。
正味、どれだけの時間ここに存在していただろうか、というくらいごく短い時間で王はいなくなっていた。
― じゃあ、わたしのグループは、残って監視を続ける。キーシェルのグループは、避難民の方を見にいって。後は状況を見て動くってことで。報告は随時、じゃよろしく。
全員にほっとした表情が浮かんだ。3人がテレポートで移動する。瞬時に消えるような移動の仕方といい、この距離から物理的にあれだけの力をふるうことと言い、また僕たちは「神」と呼ばれることになるのだろう。
― あー、助かったわぁ。さすがは王よね。あれを軽々動かす力は、ほんと、いつ見ても惚れ惚れしちゃう。
― 君が惚れ惚れしちゃうのは彼の顔の方だろ?
― なによぅ、いいじゃない。リゼア随一のいい男よ。今日の藍色のキトンに早緑の飾り帯って着こなしも素敵。
僕のグループではおなじみになった、僕とシャムフィーのじゃれあいだ。シャムフィーはセレタス王に会うのを楽しみにこのチームにいるようなものなのだ。とうに二百歳をこえている彼女はそろそろ二人目の子どもを持とうかと考えているが、その第一条件としてゆずれないのが相手が彼女好みのイケメンであることなのである。
もともと同じ交易都市グァダンを拠点にして仕事をしているアオで臨時の災害救助チームを組んだことから生まれた関係だが、招集がかかるたびに王に助けられている。というか、こういう場合に3人の王のうち誰かが手助けに来るのは当然のことなのだ。リーダーのカルダレントが、さてこのあとはどうしよう、という顔をする。この人は最年少だけど、治安部門の人だからいわば体育会系。
― ねえ、このまま溶岩を冷やして固めちゃうってのはどうかな。
― あら、いい考え。さっさと終わって帰れるじゃない。
― だめですよ。噴火のエネルギーをある程度出しきってしまわないと、すぐに再噴火するだけです。
僕は真顔で止める。こういう時にまじめにやりきるのは大事だ。たとえ見せかけだけでも。
― うーん、やっぱりそうかぁ。…じゃ、しばらくは眺めているだけ?
他に何かできることはある?
― あの溶岩流の向かってる原野に穴を作るっていうのはどうですか。放っとくとあちらの川をせき止めかねないでしょう。
― 溶岩だまりをつくるわけね。掘った土とかは、どうするの?
― 見たところ、古い溶岩流の跡地みたいですから、さっきの王の真似をして反対側の堤防にしましょう。大部分が火山性の岩石のはずですから。
― よぉし、決まり。キーシェルさん、ここの人に爆薬の手配をしてもらってくれないかなあ。えーっと量はねぇ…
百以上の文明圏が加盟しているリゼア系なので、毎日のように災害救助や内戦・テロなどの被害に対する援助が要請されている。予言書に記載があるものについては事前に人員配置がなされるが、あとは要請が来た時点で、随時対応する王族が任命される仕組みだ。最低限やることは死者を出さないようにすることで、市街や施設、文明を担っていない生物については「できるのなら助ける」という考え方をする。だから、手際が悪ければ死者はいないけど町は全壊ということはありうるし、基幹産業の施設が津波でこわれたため、人は無事だった集落が後日ゴーストタウンになるということだってないとは言えない。そして、それを承知の上でなければリゼア連合に加盟できないし、救助要請もできない。宗教や信条を理由に交易はするけれど、連合には加盟しないという文明圏もあるのだ。




