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風の君臨Ⅱ タイムトラベル? 時間を超えた想い  作者: 竹宮 潤


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不明

― どこにもいないって? どういうこと!

 シムオーベルを新生命宮に送り届けた後、彼が配偶者と目していたモタイを捜させたアルシノエは、彼女が行方不明になっていることに驚いた。彼女にだけはシムオーベルが亡くなったことを伝えなければと考えたのだ。

― 例の音楽イベントが終わって、自宅へ戻った所までは確認していますが、家には誰もいませんでした。彼女の楽器を返却しに行ったアオのひとりが、家がきれいに片づいていて誰もいなかったと報告しています。報告者は彼女がまだ帰っていないのだと思ったと言ってました。

と、アーセネイユが言う。グァダン行きの筐に乗るところまでは、イベントの関係者が見ているのだ。

― 職場はまだ休暇中のままで、彼女が来た様子はないそうですわ。でも、彼女の生活者口座には莫大な額の入金がありました。イベント出演者の報酬はまだ支払われていないので、おそらくシムオーベルが入金したものかと。

 生活者口座というのは、交易都市で職を持って住み着いている人用の支払いと給与の入金用の口座だ。各文明圏の惑星から、交易都市に商売や観光のために来ている人では作ることができないものだ。いろいろな端末と連動していて、普段の買い物に使う。通貨は交易都市に最も近い文明圏に合わせられている。他の文明圏の通貨は入出金の時点の時価換算だ。

― 今、計算が合いましたわ、王。アオのリング1個分の入金です。シムオーベルに間違いないと思いますわ。

― ほぉ、一生遊んで暮らせる金額だぞ。

サグが目を細める。リゼアで暮らしている分には自分のエネルギーが通貨代わりなので、リゼア人には他の星系でいう「お金持ち」だの「お金に困る」だのという感覚には今一つ実感がない。

― 使った形跡、あった。ディクラ行きの筐に乗ってる。

― ディクラに何しに行ったの?

― その先はわからない。ほかに使った形跡はない。

― たぶん、鉄道じゃないかな。交易都市の区画縦断鉄道は、プリペイドカードがあって、それはどこの交易都市でも共用なんです。あらかじめカードを持っていたとすれば、生活口座を使わなくても移動できます。

 アーセネイユが言った。イクセザリアがすぐに鉄道の監視カメラの映像を調べ始める。

― いた。ナ0番街で降りてる。

― じゃ、今度は周回線だ。

 交易都市はどこも胸の骨格のような鉄道網がある。背骨に当たるのが区画縦断線、肋骨に当たるのが周回線だ。重力の向きによっては区画縦断線がエレベーターになっているところや、周回線が「動く歩道」のようなもので代用されているところもある。

 そのいたるところに監視カメラがついているのは、窃盗万引きなどの軽犯罪の抑止や、誘拐などの捜査のためだ。

― いない。

 周回線の列車のすべての出入り口を見ても、彼女は映っていない。時間をおいた後の便まで見ても同じだ。

― ここで駅を出たのでは?

 その時ディクラの区画街図を見ていたサグが気づいた。

― 医療街だ。あそこに向かうなら縦断線の駅の地下街から入れる通路がある。

― え、じゃ、きっと整形です! 彼女、自分の毛並みの色が嫌だと、ずっとコンプレックスだって思ってたらしくて…。

― 確かめられる?

― それは無理。医療街は個人情報にうるさい。カメラは置かない代わり、入口に警備員がいる。だいたいこういう正規の医療街に犯罪者は来ない。


「ねー、アーセネイユ、わたしよ。今着いたとこ。」

 人通りの多いグァダンの観光客用のショッピング街で、カフェのテーブルについてから、フレミーは電話をかけているふりをして、アーセネイユに呼びかけた。声に出さずに呼んでも聞こえるって彼は言うけど、何となく声に出して呼ばないと、会話をしてる気がしない。

― はい、わかった。今から行くよ。待ってて。

 普通だったら「今から出かける」なんて言ったら、大喧嘩だよね、とフレミーは一人笑いをした。しばらくして通りを渡って歩いて来るアーセネイユの姿を見つけた。今日はいったいどこから来たんだろう。

― お待たせ。今までディクラにいたんだ。

「そう、お仕事ご苦労様。」

― まだグァダンにいたんだね。あれからずっとこっちだったの?

「うん、新曲のリリース発表もあったから。あのイベントで知り合った舞台効果の人に手伝ってもらって、ここでもう一回ビデオ撮り直したんだよ。」

― ごめんよ、せっかくできあがってたのに、トカのシーン、なしにしてくれなんて頼んで。

「ううん、仕方ないよ。モタイさんが行方不明なんて予想もしてなかったし。」

 ジュイ・エメロードの舞台で共演した珍しい楽器の演奏者は誰なのか、ともう話題になってるという。あれだけの大きなイベントをやった僕たちのせいでもあるから、仕方ないのだけれど、なるべくなら早く忘れられてほしいのだ。彼女のことをマスコミが調査し始めれば、シムオーベルのことが表に出ないとも限らない。一応対策はしてある、とウロンドロスは言っていたけれど。

― で、イベントの共感応球、売れ行きはどう?

「おかげさまで絶好調です。本当に戦争が始まってたら避難民支援に使おうと思っていた分が浮いちゃったしね。その分スタッフと出演者に上乗せする?って、マイシーさんと話してるとこ。」

― おっ、じゃあこのカフェの分はおごってもらおうかな。

「あら、まだ何も注文してないのに?」

 僕たちはお互いを見つめて笑った。楽しそうな恋人同士に見えるかな? モタイとシムオーベルのように。


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