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風の君臨Ⅱ タイムトラベル? 時間を超えた想い  作者: 竹宮 潤


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 エルデンの凍結工事の具合を見に来てくれないか、とカルティバが言ってきたのは、停戦宣言から7日ほど後だった。朝からム星区へ津波避難の手伝いに行っていたわたしは、そのままエルデンに向かうから、と白砂宮に連絡を入れて、久しぶりにエルデンへ跳んだ。

 街は少し雑然としていたけれど、前に来た時とおおむね変わりなかった。人っ子一人いないという点を除けば。周囲の山々からは建設重機の音がかすかに聞こえて、巨大なドーム構造の基礎となる部分を作っているのがわかった。

― 来たわよ、カルティバ。

― ああ、来たんですね。街の西にある高速鉄道の駅前まで来てくれますか。

 話しかけたら、返事をしたのはあの人だった。わたしは一旦街の上空へ跳ぶと、呼ばれた方向を眺めた

― そういえば、カルティバ君は過去への時間旅行で何の力を失ったの?

― 共感応です。焦りましたよ、そんな副作用があるんなら安易に研究しにいけないじゃないですか。そういえばミトラ王は何の力も失わないって、ほんとですか?

― さあ、調べてないからわからないわ。

 街の外の砂漠にはもうドームの材料になる六角形の鋼材が大量に並んでいた。避難民を一旦受け入れていた亜空間都市も、そこへの連絡道路も、もう跡形もない。エルデンに住んでいた人々が新しい土地での暮らしに馴染むころには、もうここは凍結され、誰も出入りできなくなっているのだろう。誰ひとり勝者がいない戦争。当たり前といえば当たり前なんだけど。

 地上に降り立つと、なぜか大統領のカートス・ハミルトが来ていた。キナン勢がゲート前で足止めしていた4隻の宇宙艦隊も、昨日無事帰還している。終戦宣言も近いはずだが。

― ドームができる前に、エルデンの街を見てみたい、と彼が言うのでね。

「初めましてミトラ王。わたしは自分でエルデンを訪ねたことはなくてね。何せ反対勢力の本拠地だ。最後に一目、見ておきたいと思ったのですよ。ここに住んでいた人たちは、どんな景色を見ていたのだろうかとね。」

― まるで瓶の底に入っているような街だと話していたところなのですよ。まあ、実際のところはドームが出来上がった後の運用の仕方を話し合いに来てもらったのですけれど。

「大陸横断の高速鉄道は分断できないので、それを出入り口にするしかないと思っています。当然、エルデン駅は通過してしまいますが、後日開放できるようになったら、停車するということで。」

 大統領も交えて、共感応で穏やかに話し合っているように見えると同時に、王でなければ通じない帯域のテレパシーで、二人は話し合っていた。

― これでカシャ系の戦争騒ぎも終わりと見ていいですか、アルシノエ?

― 「兵たちは病で戦場に入れない。エルデンは無人の勝利を得る。」予言書通りにしましたものね。

― 予言書の読めるアオのウロンドロス君がいてくれるのがうらやましいね。うちは全部ミドリだから。

― 伝えておきます。あの、人が死なない程度の病気を起こすのは、なかなか手間がかかったと言ってたわ。

― しかしさすがにもうここで、お茶を飲むわけにはいかないね。腹痛を起こす病気で人を追い出した街だ。

ライラーザはわたしの方を向いて少し笑った。

 そして、わたしは大統領に向かって、ほほ笑んだ。

― ここにいた人々が作る、新しい街づくりも支援していかなければなりませんね。新しいエルデンの街で飲めるお茶は、どんな香りになるのか、楽しみにしてますわ。


 一晩、医療街全体で共同経営しているというホテルに泊まった。患者の付き添いや家族、通院で事足りる患者たちが泊まるのだという。食事は個別オーダーができるようになっていて、久しぶりに生まれ故郷の料理を食べた。慣れた食事というものは元気の源なのだそうだ。食事をするスペースもエレベーターさえもすべて一度に一組しか出入りできないシステムになっており、プライバシーの保護にものすごく注意が払われていることがわかった。

 病棟に当たる部分は医療街の地下に、やはり共有で持っており、そこはいわゆる「入院患者」だけしか入れないのだそうだ。普通の病院とどこが違うんだろうな、とちょっと興味があったのだけど、「見学はお断り」と言われた。一時期、シムオーベルはここの患者さんも引き受けていたことがあったのだと聞いた。だからこんなところを知ってたんだ。

 宿泊代を支払おうとしたら、もうもらっているから要らないと言われてしまった。経費は一切シムオーベルが先払いしているのだという。

「わたしが、ベビーなんかほしくないと言ったら、そのお金はどうなるの。」

と尋ねたら、ここの医療街の病院の資金として使うように指示されているのだそうだ。

 いつも通りだわ、と彼のことを思い出す。何でも先回りでやってしまう人だった。何をするにも準備万端。わたしのようにためらったり、迷ったりすることがなくて、わたしが困って立ち止まっても、決心して歩き出すまで、じっと待っててくれた人。意地悪して、わざと思い付きで予定を変更しても、絶対に怒らずにわたしの言うとおりにしてくれた。本当は二百歳以上だって言ってた。わたしより小さいのに、わたしよりずっと大人だった人。

 思い出すとまた涙が出てくる。もう会えないなんて信じられない…。シムオーベル、わたしの愛する人。

「どう? 一晩考えて決心はついたかい。」

「ええ。わたし、行きます。」

 茶色の肌の彼は、まっ白い歯を見せて、笑った。

「そうこなくっちゃ。」

 新しい書類が広げられた。

 出発だ。もう泣かないようにしなくちゃ。後戻りはできないのだもの。


第2部 終了です。興味を持って読んでくださった方 どうもありがとうございました。

今は第3部の構想を練っています。


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