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風の君臨Ⅱ タイムトラベル? 時間を超えた想い  作者: 竹宮 潤


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遺言

 僕の愛するモタイへ。

 最初に謝らなければならない。僕はもうここには戻れない。僕の命は終わろうとしているんだ。本当はもっと生きて、君が死ぬのを見送ってから最期を迎えるつもりでいたんだ。なのにリゼアに戻ってきたら、もうカウントダウンが始まってる始末だ。

 君の名義の口座に入金しておいた。このあとの君の人生は君の思うままでいいよ。ただ、もう一つ贈り物がある。同封のアクセス(キー)を使って、僕の部屋の端末をあけて、その指示を見てほしい。その後どうするかは君の自由だ。無理に指示に従う必要はないよ。

 愛してるよ、モタイ。君と一緒に生きられて、僕はとても幸せだった。

                          シムオーベル


 帰ったら、あれもこれも話さなくっちゃって思っていたのに、「ただいま!」と元気に入った家には誰もいなくて、テーブルにこのメッセージカードが入った封筒だけが置いてあった。

「うそ…。」

 2回読み返してから大声で呼んだ。

「シムオーベル、どこなの。こんなのいやよ。帰ってきて!」

「ねえ、シムオーベル!」

 いつも、声を上げて呼べばテレパシーで返してくれたのに、どんなに遠くにいて、何をしていようと答えてくれたのに、何度呼んでも返事は返ってこなかった。

「うそでしょ…。これは罰なの? わたしだけ楽しいことをしてたから?」

 感情の落差が事実について行けなかった。信じられない、ということだけが頭の中をぐるぐるめぐっている。封筒の中にあったアクセス(キー)は自動翻訳機のピンのように細くて、うまく摘まみ上げるのにさえ時間がかかった。落とさないように注意して持つと、彼の部屋に入る。出ていく前に片づけたのだろう、いつもは仕事用の資料とかが置かれていた机は、情報端末が一つ、見捨てられたように置いてあるだけだった。

 やっと涙があふれてきた。

 わたしも、この情報端末も、もうあの人には触れてもらえない。彼の体温に合わせて温度設定が高めな部屋にいるのは、少し不快だったが、それでも、その部屋にいれば少しでも彼を感じられた。モタイは端末を抱いたまま、その部屋に一晩中すわりこんでいた。

 翌日、アクセス(キー)が開けたのは、交易都市の区画番号が書きこまれた案内図だった。他には何も入っていない。

「ここへ行けってことかな。」

 急いで自分の端末で検索をかけたらエラーが出た。グァダンではない。区画割がグァダンより細かくて、番号の数字がグァダンではありえないほど大きすぎるのだ。ここじゃないなら、どこの交易都市だろう? もう一度元の案内図を見て、都市の記号が違うところを見つけた。

「ディクラ、なんだ。」

 一度も行ったことはない場所だけど、ここに何があるのだろう。解いていなかった旅行用の荷物をそのまま持って、モタイは移動区画へ急いだ。自分の通勤に便利なように貨物宙港の近くにある家からは、交易都市間の移動区画は遠い。昨日高揚した気分で帰ってきたのと同じルートを、今日は消沈して反対に進んでいく。

「ディクラまで、一人。」

 そのかさばる荷物を持って乗るなら、一番値段の安い席では乗れない、と言われ、普段ならとても払いたくない値段の席をすすめられても、もういちいち驚いていられなかった。言われるままに支払って、筐に入る。入口が閉まって、ちょっとゆれて、また開くとそこは目的地だった。筐での移動は魔法のようなものだな、といつも思う。外へ歩きだし、鉄道の路線図をさがして目的の区画番号へ向かう。

 探し当てた区画で、モタイは愕然とした。そこは医療街だったのだ。

 タトゥーや、毛髪の色や質を変化させるといったお手軽なものから、欠損した体の一部を復活させたり、逆に尾やウロコなどをわざと増やしたりする身体の改造、母星では禁止されている手術で治療をするなど、多種多様の医療技術を売り物にしているところだったのだ。区画割が細かいのは、どこも専門が細分化されていて、自分の「売り物」に合う客をほんのわずかしか取らないからだった。

 シムオーベルが残した案内図に記されていたのは、知らない文字で小さな看板が出ているだけの、小さなクリニックだった。誰もいない受付で呼び出しボタンを押すと、

「はぁい。」

と気の抜けた返事がして、茶色の肌、茶色の短髪の男が現れた。しばし、こちらをじっと眺めている。

「で、ご用件は?」

と言われるまで、自分も相手をじろじろ見ていたことに気づき、モタイは恥ずかしくなった。

「あっ、あの…、シムオーベルに紹介されて来ました。」

「シムの旦那に?」

 すると、男はにわかに口を押さえてあわて始めた。

「うわっ、ごめん。えーっと、モタイさん、だよな?」

「はい、そうです。」

「悪い、シムの旦那は小さい人だったから、勝手に小柄な女性が来るもんだと思いこんじまってて…。あ、失礼、その…。まあ、入ってくれ。中で話しをしよう。」

 男はソファーの置かれた部屋へ、モタイを案内した。

「まず、何を預かってるかを、話すよ。」

 目の前に置かれたのは普段自分がよく使っている、実験結果の証明書に似た書類だった。読んでいい、と言われ、モタイは自分の端末のカメラを通してその書類を読んだ。こうするとどの文明圏の文字でも、自分の読める文字に翻訳されるのだ。

「凍結保存した受精卵!?」

 遺伝上の父親の欄にはシムオーベルの、母親の欄には自分の名前がある。

「そう、お決まりの不法キメラ受精卵だけど、シムの旦那が丹精こめて作ったから、たぶん生まれるやつ。」

「そんな、いつの間に。わたし、そんなことした憶え、ないのに。」

「リゼア人だぜ、体内から卵子を取り出すくらいは、奥さんの知らない間にやれるよ。というか、現にやったんだ。旦那が言うには、失礼だけど奥さんはもう自分で産める年齢じゃないから、人工子宮に着床させたほうが間違いないって。」

「でも、生まれたって、交易都市じゃ育てられないわ。わたしの故郷にだって連れて帰れない。」

 毛並みの色で差別されるところだ。キメラの子なんて最初から受け入れられないに決まってる。だいたいキメラの子なんてどこで育てられるの?

「そこはちゃんと考えられてる。ただし、奥さんが嫌ならこの話はチャラだ。受精卵はこっちで処分するよ。」


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