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風の君臨Ⅱ タイムトラベル? 時間を超えた想い  作者: 竹宮 潤


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30/35

両損

― エルデンシティは、当面凍結します。

「は? どういうことですか。凍結とは。」

― 誰も住めない、入れないようにする、という意味です。もちろん町を破壊したりはしません。

「そんなことをしたら、エルデン教は聖地を失ってしまう。不可能ですよ。」

 ゼカイルは声を張り上げた。彼は商売人として優秀ではあるのだろうが、こと自分の家や故郷に対しては、思いこみが強いようだ。

― ゼカイル・ナウト、あなた、最新のお告げはお聞きになりました?

「あったのですか! おお、エルデンの神は我らをお見捨てにはならなかったのですね。いったい何と…?」

いきなり空中から取り出された情報端末に驚きながら、ゼカイルはそこに表示されたお告げの内容を読んだ。

『偉大なるエルデンの神のもとに集えし兄弟姉妹たちよ。これより最後の言葉を伝えます。人工衛星が落ちた町で災厄の病が起こりました。それこそが我らへの攻撃です。皆、このエルデンを捨てて北へ逃げなさい。一人もこの地に残ってはなりません。幼子の手を引き、老いたる者を背負って、みな北へ去るのです。』

「そんなぁ…。」

 ゼカイルは泣きださんばかりだった。

「あの病気はそんなに危険なものなんですか?」

― さあ、どうでしょう。でも避難はもう始まっていますのよ。

「避難って、エルデン教徒たちが、ですか?」

― エルデン教徒に限らず、住民のほとんどが避難しています。すでにリゼアのほうで移住の準備を進めています。

 ゼカイルは絶句した。もう事は動き出しているのだ。またも自分があずかり知らぬところで。

「みんなは、エルデンシティの市民たちは無事なのですね。」

― ええ、もちろん。大陸の南東、ウェインスル廃銅山の近くに古いリゾート地がありますね、湖のほとりに。あそこを移住先にしているそうですわ。住民の安全な移動はリゼアが保証します。

「そうか、それなら…。だけど、ああ、神よ。」

― ゼカイル、エルデンシティを失うことはつらいですが、これがあなたがたエルデン教徒が大切に守ってきたお告げに従うことなのです。みなきっと後悔はしていないでしょう。

「凍結って、具体的にはどのように?」

― エルデンシティを囲む山々を利用して、強固なハニカム構造のドームを作るつもりです。人や機械は入れないけれど、小さな生き物や気象をさえぎることはないものを。

「二度とエルデンに戻ることはできない、と?」

― 少なくともあそこで過ごした記憶のある子どもたちが、親になるまでは。

「そんなに!…。でも、いつかはもどれるのですね。」

アルシノエは否定の仕草をした。エルデンはもう、誰かの住む街にはなれないだろう。


― 問題の焦点となったエルデンを凍結させることで、エルデン市民はいやおうなく新しい生活を送らなければならなくなった。もう古い教会もお告げもない。もちろんこんなことでエルデン教自体がなくなったりはしませんよ。今でも、エルデンシティ以外の土地でもエルデン教徒はいますし、教会も存在しているのですからね。

「彼らは、住民たちは、それで納得してくれるだろうか。」

― 当然ですよ。自分たちの元からの行動様式に、つまり、お告げに従って行動したのですからね。

「だが、あの病気は? あれはいったい…」

― あれが大きな脅威ではないことくらい、もうおわかりでしょう? すぐにおさまります。ただ、カシャ政府には、あの病気をばらまいたという疑惑を否定しないでいてもらわなければいけません。

「なんだと!!」

― こう考えていただきたい。カシャ政府は疑惑を否定しない代わりにエルデンシティを放棄させることができた。エルデン教徒はお告げに従う代わりに、彼らの聖都を失った。双方が犠牲を払うことでこの戦争を回避できたのですよ。

「ヴァンセルガはどうなるのだ?」

― ヴァンセルガには開戦の口火を切った責任を取って、エルデン凍結の実費を負担してもらうことでどうです? これで皆が痛みを分け合うことになります。それとも本当にあの貧弱な宇宙船団で、百戦錬磨の傭兵軍と戦争をするつもりでいたんですか?

 カートス・ハミルトは考えた。いかにヴァンセルガの若造市長めがと内心バカにしていても、あの交易都市の莫大な収入をつぎ込んで攻め込まれたらカシャの勝利は難しい。ちょっと追い込んでやれ、くらいのつもりで始めた対立が抜き差しならない状態になってしまったのだ。予算を食い荒らしていたエルデンがなくなり、エルデン教徒がおとなしくなれば、それはそれで見つけ物ではないか。軍の広報を黙らせておくことくらいは大統領の権限内で何とでもできる…。

「…承知した、セレタス王。あなたの言う貧弱な宇宙船団を呼び戻さなくてはなるまい。」

― すみません、王。お話中ですが、ミトラ王から伝言が来てますよ。

 大統領執務室のドアのところに立っているローエンジュが呼びかけてきた。もちろんカートス・ハミルトには聞こえていないし、ライラーザも会話しているそぶりは見せない。

― 何て?

― 会談が終わったら、予言書通り停戦発表をするので、大統領を連れてグァダンまで来てくださいと。あちらももう終わるそうです。

― グァダンのどこへ?

― それは行きゃわかるんじゃないんですか? わかんなきゃご自身で聞かれたらいいじゃないですか。カルティバが言ってましたよ、仲直りしたんでしょ? 


― エルデンはカシャの大きな遺産になるのですよ。たくさんの悲しみと培った伝統が込められた、それ故に誰の物にもなってはいけない遺産に。凍結が解除されれば、研究者や観光客が最初に入ることになるでしょう。エルデンシティはエルデン教の故郷として、歴史の中に生きる街になるのです。

 ゼカイルは考え込んだ。繰り返す天災とエルデン教徒であるという差別に過敏なほどおびえて暮らした町の思い出。もっと強固で心豊かな街にしたいという思いは、今なら新しい技術でさびれた街を再生させることで叶えられる。僕のヴァンセルガで作った財産とカシャを越えた人脈は、全く新しいエルデンを作りだすだろう。

「わかりました、ミトラ王。これで手を打ちましょう。」



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