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風の君臨Ⅱ タイムトラベル? 時間を超えた想い  作者: 竹宮 潤


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逃避行

― 最大で3千人しか乗れない航空機だよ。何往復するんですか。操縦したことない者も大勢いるのに。

― まあ、やりながら慣れてもらうしかないさ。俺、やったことあるけど、垂直離着陸だから、平衡を保つことだけ気を付けてれば、難しくない。3人一組で1人は経験者を入れれば問題ないさ。

 エルデンシティの北の砂漠の中に、昨日設置された亜空間都市の中ではセレタスのアオたちとセレタス王の影たちのやり取りが続いていた。亜空間都市は事故や劣化による破損に備えて、常にいくつかの予備がある。どこにでも移動できる空っぽの町は、災害救助用にも使われるのだ。

 セレタス王の不在により命令系統がよくわかってないため、みな共感応域で呼びかけあっていた。おかげで当面の人手がほしい箇所が共有できて、手の空いたものから自分のできる仕事に向かうことができる。

― あとでキナン籍の大型機があと4機届きます。着陸は都市の東側でいいですね? 20単位時間後には来ます。誰か誘導をお願い。

― いや、機体だけじゃなく操縦者か操縦の指導者もぜひ来てほしいな。

 カルティバとよくつるんでいるローエンジュがぼやいた。

― 大丈夫です、ちゃんと熟練の操縦者付きですから。

― おお、そりゃ有難い。ところでカルティバは?

 暗いオレンジ色の髪をしたジノフィーニャは、セレタス王の影の中では対外折衝の役割を担っている。共感応域を飛び交う質問や要求の半分は彼女がこなす仕事だった。

― ああ、彼は道路の方に。

 砂漠を横切る高速鉄道と道路は、砂の侵入を防ぐためにそれぞれ半透明のチューブの中を走っているのだが、その途中に穴をあけてこの都市へ続く臨時の誘導道路を作る現場に、カルティバはいるはずだった。

― カルティバ、道路の開通はいつ頃になる?

― 一本はできてますよ。つまり亜空間都市に向かう側は。今は戻る側を急ピッチで作ってるところで。

― 何で戻る必要があるんだよ。

― 取りこぼしはどうしたってできるんですよ。車を戻さないと乗せて来れないでしょうに。

― 王は市内にいるんだろう? テレポートして連れてきてもらえばいいのに。

― なるべくそういう介入をしない、という方針らしいです。

―? なんでまた…

― 予知らしいです。

 これを言われたらお手上げだな、と二人はお互いに聞こえないため息で意気投合した。二人ともミドリなのだ。

― それより駐車場は作ったんでしょうね? たぶん後で車も運べと言われますよ。まさか、砂漠の真ん中にさらしておくつもりだったんですか。車の持ち主が怒りますよ。

― おおっと、それがあった! みんな、都市の地下に埋まってる資材庫に外側へ出る口開けて、地上までの通路作ってくれ。砂で埋まらないようにしてくれよ。カシャの標準サイズの車が通れる大きさで頼む。

― わかった。わたしやるわ。そういうの得意よ。金属の加工も。

― ああ、おれも手伝えるよ。地下基底部だな。いまそっちに行く。

― やれやれ、間に合うようにお願いしますよ、ローエンジュ。もうそろそろ最初の車がやってくる頃です。

 着々とエルデンシティ避難準備が進んでいるそのころ、エルデン市内は騒然とした夜明けを迎えていた。


「もう取り調べなら終わっただろ? 何でまた拘束されなきゃいけないんだよ。」

「この前も言ったろうが、俺は何にも知らないって。」

「お静かに願いますよ、みなさん。」

 わざとらしくマスクで顔を覆ったサグが、音声で呼びかけた。テュアルズ本部の大会議室に集められたのは、開戦のきっかけになった人工衛星を撃ち落としたと思われる宇宙戦艦の乗員たちである。

「えー、先日は皆さんを疑うような取り調べをしたことを、まずお詫びいたします。みなさんの潔白は立証されました。」

「まさか、それを言うためだけに俺らを集めたわけじゃないだろうな、え?」

「いやいや、そう怒らないで下さいよ、ねっ。」

 大男の傭兵に迫られて、サグはたじろいで見せる。

「例の犯人は、外から乗り込んできた者であると判明したんです。ですが、その、犯人がですね、ついでに困ったことをしでかしてくれまして…。」

「何でぇ、はっきり言えよ、おっさん。」

「実は、病原菌を撒いて行ったんです。」

「なんだってぇ!!」

 会場は一層騒然となった。

「お、おい、俺ぁ昨日から腹下してんだけど、それってもしかして…。」

「そういやリュウの野郎も、昨夜(ゆうべ)、飯食った後気持ち悪い、吐きそうだって言ってなかったか。」

「そいつぁ、どうせ酒の飲みすぎだろう。」

「リュウは種族の体質で、酒飲めねえんだよっ。」

 騒ぐ声がだんだん小さくなってきた。みな自分や仲間の体調を気にし始めているのだ。

「黙れ、おめぇら。最後まで話を聞くんだ。」

 一人、サグの隣に出てきた男が、毅然として命令した。一瞬で場が静まる。私服のままだが階級が高いのだろう。

 サグが話を続ける。

「人工衛星が墜落したあたりから、カシャでは病気が広まっているようで、エルデンじゃ避難命令が出ました。みなさんはともかく、カシャ人には致命的らしいです。申し訳ないですが、みなさんには例の飛行から帰還して以来の行動と、接触した人の名前を書いていただきたいんで。今お元気な皆さんもどうかご協力をお願いしますよ。」

 ここから始まった隔離は、住民が半分以下に減ったヴァンセルガを大騒ぎに陥らせた。カシャ系の住人の大部分はヴァンセルガに居残っていたからである。傭兵たちがひいきにしていた食事や酒の店も臨時休業になってしまった。ただでさえ宣戦布告でスタートラインについたところで、次の号令がかかるのを待ちくたびれていたところなのだ。思うように「仕事」ができずにイラついていた傭兵たちは、次々と「ショバ替え」をし始めた。イクセザリアの言う「違約金を払ってでも逃げ出す」という行為に出たのである。テュアルズ側は前金の追加で食い止めようとしたが、無駄なあがきだった。ウロンドロスが食べ物に混ぜた偽薬で本当に発病したものが出たことが追い風となったのだ。



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