能力
「時を超えるというのは大きく二つ。誰でもわかるだろう、過去にもどることと、未来にさかのぼることだ。でも方向は違ってもそれが及ぼす影響はいっしょだよ。リゼア人の持つ能力を衰退させることだ。」
― それが、もともとはアオのレベルを満たしていたあなたが、今極端にテレポートの力が低いという現状に現れているわけですね。
「そういうこと。テレポートは筐を使えるからなんとかなっていたけど、テレパシーとかが下がってくれる方がまだ僕としてはありがたかったね。」
― つまり、何が衰退していくのかは、自分では選べない、ということですね。あなたがさっき言った「ミトラ王には耐性がある」というのはどういうことですか。
「あの人は、元がトエラルカなんだろうと思うよ。アオである以前にね。だから時を越えるときに自分が元のまま戻って来られるとわかってるというか、自信があるんだ。」
ここで、今まで考え込んでいたライラーザが口をはさんだ。
― 待ってくれ。トエラルカの眠りも、「時を超える」ということに入るんだね。
ウロンドロスがそれを受けて質問しなおす。
― あなたの説明を聞くと、トエラルカの眠りも時を超えることになるわけですか。
「そうだ。多分にトエラルカというのは衰退分を「先払い」してるんだと思う。最初っから予知能力、まあそれが僕の言う時を超える力なんだけど、それ以外はほとんどの能力が発現しないだろう?」
皆がつかの間黙った、そこへ、
― 王、緊急事態!
突然、表の間にイクセザリアが飛び込んできた。
― エルデンシティの南に、カシャ系の古い人工衛星が墜落し、カシャ系は交易都市に宣戦布告しました。
全員に緊張が走った。
― ちょっと待って。どういうこと?
とアルシノエが尋ねた。
― もともと廃棄の予定になっていた古い人工衛星を、何者かが墜落させたようなのです。しかも場所は新エルデンの市街地をかすめるくらいな近さで。
― で、被害は?
ライラーザが聞く。
― 実質的にはゼロです。もともとが溶岩台地で荒野のようなところでしたから。ただあまりに建設中の新都市に近く、カシャ政府の反応は仕方ないところです。
― あ、待って。
トトラナが口をはさんだ。誰かと連絡を取り合っているようだ。
― テュアルズでも大騒ぎになっているようよ。宇宙船搭載のレーザー砲が一門、命令なしに使われた形跡があるって。でも誰がいつ使ったのかわからないと。宇宙船自体は定時の訓練飛行に出ていたそうだけど。
― やれやれ、開戦のきっかけは市長の死亡ではなかったのか? テュアルズ側は、カシャ政府に市長の無事を知らせたのだろう。
コーグレス王がため息交じりに言う。
― こうなったらテュアルズ側がなんと言い訳しようとも、先制攻撃のそしりは免れまい。
― わたしもヴァンセルガへ調査に出ます。
と、トトラナ王はテレポートした。
― どうしても戦争を始めないと気が済まないのがこいつの他にもいるらしいわね。ウロンドロス、こいつに仲間がどこに何人いるのか、聞きだしてちょうだい。
アルシノエが言うと、ライラーザは、
― わたしはとりあえず、カシャを見てきます。続きはまた報告をお願いしますよ。
と、テレポートした。会議はなし崩しに終わった。
― それで、この後はどのように、王?
アルシノエと影だけが、表の間に残された「黒の牢獄」の周りに集まった時、サグが尋ねた。
― とりあえず、ゼカイル・ナウト氏を開放して市庁舎に戻してあげましょう。毒物は使ってないというのは確かめられたことだし。サグ、お願いね。
― 誘拐されて、眠らされて、目が覚めたら戦争が始まってたなんて聞いたら、驚くでしょうね。
エルクリーズが苦笑する。
― たぶん彼は覚悟していたでしょう。これからできる限りの手を使って戦争終結に動くはずですよ。
ウロンドロスは冷静である。すでに市長の人となりは分析済みなのだ。
― エルクリーズは、シムオーベルの治療院に残された患者のお世話ができる人材をさがして、引き継がせて。イクセザリアはヴァンセルガ市庁舎とテュアルズの動きと連携を監視してて。アーセネイユはわたしと来て。相談したいことがある。ウロンドロスはこいつをお願い。
― 了解です、王。
皆がそれぞれ引き上げた後に、アーセネイユとアルシノエが残った。
― で、僕は何をすればいいですか。
― あなたの彼女を使わせてもらいたいの。ヴァンセルガの住民の一時避難のためにね。
― は?
― ヴァンセルガにはカシャ系以外の住民も多いし、この戦争に巻き込みたくはないの。かといって表立って私たちが一時避難をよびかけるのは、戦争を黙認しているようでよくないと思ってる。だからジュイ・エメロードを中心に大掛かりな音楽イベントを仕掛けてほしいの。開催地はグァダンよ。




