事実
王たちに招集がかけられ、会議の場は内院から白砂宮の表の間に移った。灰色がかった薄青色の壁に合わせた内装がやっと完成し、お披露目を兼ねての会議である。わたしも瑠璃色の上着にエメラルドの留め具をつけた装いに着替えている。
ウロンドロスが先にカルティバと話をし、血相を変えたカルティバがバタバタと退出したあとで、会議は始められた。カルティバは急いで自分の能力値に変化を確認していることだろう。他に先ほどまでと違うのは、部屋の中に「黒の牢獄」が置かれていることである。
今まで内院で話されていた内容を、ざっとエルクリーズが説明する。皆の視線が「黒の牢獄」に集まる。この中にシムオーベルはとらわれているのだ。
― あと、社会構築実験チームについてわかっていることは?
コーグレス王がウロンドロスに続きを促す。
― 残っているメンバーは皆、一番古い時代に固定された例の亜空間都市で暮らしているそうです。もはやメンバー全員が一度はソル系人を介して生まれ変わりをしており、残り少なくなった能力と筐を通じてリゼア系より供給されているエネルギーを使って生活しているようです。
― 彼らは何のために過去から私たちの時代に干渉し続けているのでしょう。
トトラナが尋ねた。
― その点についてはまだ…。しかし、ソル系で起こった大災厄と呼ばれるパンデミックは、彼らのしたことであり、目的は彼らの実験もろともソル系の文明を滅亡させることだった、と言っていました。リゼア連合の接触が彼らの予測より早かったので、ソル系を滅ぼしきれなかったのだと。
そこへ、ライラーザ王が口をはさんだ。
― それよりも、今はカシャとヴァンセルガの問題でしょう。何のために彼らの戦争をあおっているのか。その点についてはどうなのですか?
― 聞いてみますか。
ウロンドロスは歩いて行って、「黒の牢獄」の操作パネルに手を置いた。
― シムオーベル、聞こえますか。
「ああ、君か。聞こえてるよ。なあ、僕が捕まってからどれだけ経った? モタイに連絡が取りたい。きっと心配しているはずだ。」
― 残念ながらご期待には沿えませんよ。あなたは未決囚とはいえ、囚人なのですからね。
「じゃあ、僕の患者たちは? 放っておけば命に関わる患者もいる。」
― そちらはご心配なく。代わりの形成医を手配しておきます。
「おきますって? じゃ、まだそれほど時間は経ってないんだな。」
― 眠らせていないのか?
とライラーザ王がつぶやく。
― 申し訳ありません、この「黒の牢獄」の出力がアオには弱すぎるのですよ。閉じ込めておくのがせいぜいの所で。
ウロンドロスが弁解した。
― 仕方ないでしょ。だいたい、アオほどの能力がある者を捕まえておくという前提で作ってないものなのよ、これは。
アルシノエが援護する。
― あなたが拉致したゼカイル・ナウトについては、今精密検査中ですが、彼を捕まえた時の状況を話してください。
「もう一回同じことを言わせるのか。他に誰かが聞いているんだな。いいだろう。パーティ会場のトイレに仕掛けをして、ゼカイル・ナウトが入った瞬間、僕の待っている倉庫街へ跳ばす仕組みにしておいたのさ。そうしていつも僕の患者にしているように脳神経を遮断してカプセルベッドに寝かせた。それを僕の治療院へ運んだんだよ。」
― で、彼に毒物を注射したと。
「してないって。殺すつもりは始めからない。2、3日したらエルデンシティへ運ぶつもりだったんだ。」
― そうやって開戦の糸口にするつもりだったわけですね。
「その程度の火花で爆発するならね。」
― よっぽどこいつは爆弾が好きなのね!
アルシノエはまだ怒っている。だが、今のところシムオーベルにはウロンドロス以外の者のテレパシーは聞こえない。
― 何のためにカシャ系と交易都市ヴァンセルガを対戦させようと思ったのですか。
「いや、僕がやろうと思ったわけじゃない。僕も上からの指示で動いてるだけだ。」
― 上、というのは社会構築実験チームということですね。
「そういうこと。」
― では、なぜ戦争をさせようとしているのだと思いますか?
あなたの意見を教えてください。
「たぶんに、時間稼ぎなんだと思うよ。」
― 時間稼ぎ、とは?
「いや、そこはよくわからない。僕は子どものころはいろんなことを十分教えられてきたわけじゃないから。ただ、彼らというか、僕たちは、かな? 機が熟すのを待ってる、という感じがする。その前に勝手に君たちが先に行っては困るんだよ。その足止めのための戦争を起こしたいんだと思う。マティの時と同じようにね。」
― 足止め、機が熟す、か。…待っているのはハーミオン王の即位かな?
ライラーザが独り言のようにつぶやいた。
― 若き4人の王、ですか。
コーグレス王も言う。トトラナは黙っている。何か大きな試練が、災厄が起きるならば、わざわざ我が子には背負わせたくはないのだ。たとえ予言書にはっきりと書かれた運命であったとしても。
― では、マティの失敗が、この事件を引き起こしたのだということですか。
「いやあ、マティは一応計画が出来上がっていたからその通り進めたけど、失敗するだろうなあとはわかってたよ。」
― ほう、それはどうしてです。
「そりゃあ、ミトラ王の即位式を見たからさ。あの王は時を超えることに耐性がある。現に僕もあと一歩で捕まりそうだったから。あそこまで追って来られるとは思ってなかった。」
― だからって、ダイナマイトで爆殺ってのはないわよ。
アルシノエはまだ愚痴っている。だが、ライラーザは別の言葉を捕らえていた。
― 「時を超える耐性」ということをもっと説明させてみてくれ。




