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風の君臨Ⅱ タイムトラベル? 時間を超えた想い  作者: 竹宮 潤


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仁術

 僕の治療院には、密閉された生命維持カプセル型のベッドが何台も並んでいる。使っていないベッドは透明で中が見えるが、使っているベッドは中が見えないようにすりガラス状になる仕組みになっている。中にいる患者のプライバシーに対する配慮だ。もっともほとんどの患者は意識がないので、専ら外から来る業者や別口の軽い患者なんかを驚かせないようにするという配慮である。内臓が半分覗いている患者なんか、みんな見たくもないだろうし見せたくもないから。

 だから、一つくらい中の見えないカプセルが増えていても、誰もあまり気にしないだろう。そもそもカプセルごとやってくる患者もないわけではないのだから。

 ここの場所は誰も知らない。僕に患者を回してくれる病院の関係者も、もちろんモタイも。病院からの患者は僕がついてテレポートさせてしまうし、ふだんアパートから出勤するときもテレポートで来る。軽い患者や、薬品や医療器具などの業者は貨物用の筐で来る。彼らが知っているのはここの筐のナンバーだけで、具体的な場所はわからない。帰る時も筐を使わなければ、この部屋を出ることもできない。物理的な入り口出口はないのだ。いちおう感染症の予防のため、と言っている。出入りするのは部屋の上下に12か所ある換気装置の空気だけだ。

 さて、ここで寝泊まりするとなれば、どこがいいかな、と僕は考えた。「仕事」をする処置室は論外、カプセルベッドが並ぶ病室も、僕が入ったら新規の患者が受け入れられない。となると、倉庫しかない。

 倉庫には薬品や機材の棚のほかには、僕の飲み物用の小さい冷蔵庫があるだけ。もともとあまり広くはない。それでも仮眠用のカウチくらいおけるだろう。一瞬、ミトラへ戻るという選択肢も考えたが、僕の力では筐をいくつか乗り継がないといけない。何かあったときすぐに戻れないのは困る。

 グァダンでリゼア風の家具を扱う店をさがして、手ごろな物を買えばいいか、と考えていた時、それはやってきた。

医師せんせい医師せんせいっ、急患っす。お願いしやす。」

「うおぉー、痛え。…痛えよ、ちくしょー。」

 にわかに筐のあたりが騒がしくなった。倉庫の扉を開けるとベッドの並ぶ病室だが、そこに面してカーテンで仕切っただけの筐がある。そこから今しも患者が運び出されようとしていた。荷物を運ぶための台車に載せられているのは腕から棒のように骨を突き出している大きな男。台車を押しているのはこの辺りでは珍しい小柄な男二人。もう一人はだいぶ年配らしく台車を押すよりけが人が落ちないように支えているのに手いっぱいな様子だ。

― どうしたの? どこから来た?

 尋ねると同時に全身をざっと診る。患部は右腕だけのようだ。出血がひどくて顔が青ざめている。連れてきた男たちは応急処置さえしていないようだ。長年身体の中をテレパシーで透視し続けているから、僕は初診にはX線装置は使わない。

「えと、ディクラの60番倉庫街から来やした。」

「ここの医師せんせいならすぐ治してくれるからって、このおっさんが教えてくれて。ああ、大丈夫かよ、トリンス。」

 首筋に触れて、脈を確認すると同時に神経を遮断する。ついでに折れた骨が切断してしまった大きい動脈をさぐりあてて、止血処理をする。ここまででグァダンの10分の1単位時間とかかってない。救急医療は時間との勝負だが、僕の速さは設備の整った医療機関にも負けない。

― 君、名前は? もう口がきけるだろう。

「え、あれっ、いつの間に。…痛くねえ!」

 痛みを軽減させるだけでたいていの患者は素直になる。

― 名前と、なんでこんなケガをしたか、言ってみなよ?

「俺ぁ、トリンスっていうんで。倉庫街で荷運びするのが仕事なんだが、中コンテナがいきなり崩れてきたんだよ。とっさに腕でガードしたらこのざまだ。」

「悪ガキどもがリフトカーおもちゃにして乗り回しやがって、追いかけたらハンドル切り損ねて、中コンテナの積み上げてある角にぶつかったんだよ。リフトカーごとひっくり返っちまいやがって。」

「運悪く、そこへこのトリンスさんが通りかかったんすよ。たぶんこの人にしてみりゃ、いきなり崩れてきたコンテナに押しつぶされたんで。当の悪ガキどもは逃げちまいましたよ。」

「おかげで親方には怒鳴られるわ、警察はくるわで、今日の仕事はあがったりだし、大騒ぎさ。俺ら医療保険のない奴のけがを診てくれるような病院は遠いしってんで、ここを頼らせてもらったんで。」

 ふうん、事情はわかった。押しつぶされたわりには身体の他の部分は打ち身程度のけがしかない。もともとが頑丈な体の持ち主だったんだろう。

― まあ、5日だな。ここで5日寝てたら元の体に戻るよ。リハビリは必要だけどね。

「ありがとうございます、医師せんせい。恩にきます。」

 患者も付き添いたちも口々に礼を言った。

― 送ってきた君たちはもういいよ。筐のリターンボタン押して帰るといい。それから見舞いは受け付けないから、そう言っといて。

「わかりやした、医師せんせい。あざっす。」

「がんばれよぉ、トリンス。」

 付き添いがいなくなって静かになった。

― じゃ、手術をするよ。麻酔かけるからね。

 台車に座った状態のままの患者を、有無を言わせず全身麻酔状態にする。脳に直接働きかけるからあっという間だ。そのままゆっくりテレキネシスで持ち上げて、処置室のベッドに運んで下ろした。僕は助手だの看護師だのは使わない。

― さて、骨一本か腕一本まるごとか、どちらが安全かな?


― やっとわかりました、王。とんでもない場所です。グァダンの中じゃなかったんです。

 救急患者を装ってカプセルベッドに入れられたヴァンセルガ市長ゼカイル・ナウトを、シムオーベルが自身で治療院へ運んだのがわかったのは、コスミアからの連絡の少し前だった。ところが肝心の彼の治療院は交易都市グァダンを隅から隅まで捜索しても、どこにもなかったのである。アーセネイユが知人を介して仕掛けたテレポート感知装置にも、彼の治療院の荷物用の筐へ跳ぶための個人使用の筐への移動記録しか出なかったのだ。

 仕方なく、いくつかの交易都市の倉庫街を見張って、不謹慎にもけが人が出ないか捜し、偶然を装ってシムオーベルの治療院に運び込んだ。何せ荷物用の筐の識別番号しかわからない場所なのだ。付き添いに紛れ込んで行ったキッドマ、すなわちサグによって、やっと位置がわかったのである。

ー 修理工場街リペアヤードの中にあるんですよ。

 長距離宇宙航行に使われるゲートの近くには、巨大な宇宙船の修理工場が必ず作られている。小さな不具合でもゲートを通過するのに支障がないとはいえないからだ。また、ゲート自体のメンテナンスや通過料金の徴収などもそこで行っている。そういう場所に住み着いている人も当然いるわけで、必然的にそこは小さな町となるのだ。人口はせいぜい数千人程度だが、交易都市より万事の基準がゆるいので、不法に住み着くものも多い。

― グァダンに一番近いゲートの修理工場街リペアヤードの、表向きは倉庫となっている場所の中に治療院はあったんです。


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