襲撃
もう一度アバター体の外見を、ソル系人に戻し、3人は一般観光客に混じってグァダンまで帰ってきた。さっき新生命宮に仕込んできたものと同じチラシをもう一枚手に入れてから、人気のない倉庫地区で先ほどの小さな亜空間都市までテレポートした。そのとたん。
― 危ない!
とっさにウロンドロスはコスミアを突き飛ばした。腕の長さほどの、先が鋭い細身の剣が空を切った。
「くそっ、このタイミングをよけるかよ!」
厚ぼったい、生成りの毛織物でできた服に革のベルトをつけた男がいきなり襲い掛かって来たのだ。突き飛ばされたコスミアは、よろけた先に待ち構えていた、似たような恰好の男に腕をつかまれた。
「いいぞ、カスパル。この女は捕まえた。」
「やっちまえ。みんな丸腰だ。」
男は3人いた。最初に切りかかった男ともう一人が細身の剣を、コスミアの腕を捕まえている男は大ぶりのナイフを持っている。さっきここを離れるときには誰もいなかったはずなのに、とウロンドロスはあたりを走査する。だが、いるのはこの3人だけだ。
― 物騒な人たちですねえ、どこから来たんです?
次々と繰り出される剣をよけながらカルティバが聞いた。
「うっせいよ。おまえらをやっつけたら、俺たちゃうちに帰れるんだ。さっさとくたばりやがれ。」
「そうだ。この、男みたいな恰好の姉ちゃんの命が惜しかったら,おとなしく捕まりな。」
ナイフをコスミアののど元にかざした男がすごむと、
「なるほどね。どうせあなたがたは、ハーメルンの悪魔だとでも名乗った奴に連れて来られたんでしょう。」
と、コスミアはいとも冷静に言い放った。
「なにっ!」
「お、おまえ、女のくせに何を…」
― ウロンドロスさん、今のうちに移動地点の照準をあわせて。N35 E138あたりで固定点があるはず。カルティバさん、この都市のどこかにさらにテレポートで送り込まれてくる新手があるはずだから、見つけて阻止して。その間、わたしは時間稼いでおくから。
男たちには聞こえない帯域のテレパシーでコスミアが指示を出した。
― 了解。
3人の男たちが戸惑っているのは、コスミアが少しも怖がっていないからだ。彼らの時代、彼らが知っている女性というもののステレオタイプと、コスミアがかけ離れていることに驚きを隠せない。彼らはおそらく中世ヨーロッパの庶民なのだろう。女とは弱き者、愚かな者だと思い込んでいる。
「あなた方をだまして、ここへ連れてきたのが悪魔なら、わたしはさしずめ大天使様ってとこかしら。さあ、相手をしてあげるわ。」
ふいに男たちの手から剣とナイフが生き物のように飛び去り、3人の顔や身体すれすれのところを飛び回り始めた。その隙にコスミアは短いテレポートでウロンドロスのそばへ寄る。
「おわっ」
「ぎゃっ」
ナイフの柄を捕まえようとした一人が、手のひらを大きく切り裂かれて悲鳴を上げる。別の一人もわき腹を剣でえぐられ、服の切れ目から出血が見える。
― おや、本当に来ましたね。
居室の一つにふいに人影がいくつも現れた。すかさずカルティバがその居室のドアを閉める。非常用の気密ロックで、簡単には開かないドアだ。外から鍵をかけるのも忘れない。
逃げようとした最後の男のふくらはぎが後ろから剣で切りつけられたとき、ウロンドロスが言った。
― 見つけました。行きますよ。
戦意を喪失した男たちの前から、3人はテレポートした。
― ざーんねん、見抜かれてたね。
気密ロックのドアを激しくたたく音を横目に、誰かがつぶやいた。
― とまあ、こんな次第です。
コスミアの素性はミトラ王の配下のおひとり、とごまかして、カルティバは報告を終えた。先ごろ亡くなった銀海の宮の部屋の入口を飾っていた額の裏から回収された、色あせた割引チラシと、全く同じ新品同様のそれを並べられては、過去に行ってきたという話は信じるよりなかった。
― どのくらい前までさかのぼれる?
セレタス王ライラーザが尋ねる。
― あの小さな亜空間都市の移動管理室には、数十個の固定地点が登録されていました。ソル系の暦で百年に一回ずつ登録地点を変えるとしても、数千年前までさかのぼれるとみていいかと。
ウロンドロスが答えた。コスミアが指示した短い時間にそれを調べたのだ。
― ソル系は一つの大きなタイムマシンというわけね。
アルシノエがうなずいた。
― まあ、過去にしか行けないですけどね。それもこれもソル系の空間特性のおかげでできたしくみですよ。
とカルティバは興奮して話す。そのうち王の影を辞して、これを専門に研究すると言い始めそうな勢いだ。ライラーザは続ける。
― では、この前の交易都市ディクラへの宇宙船衝突事故は、もしかして…?
― ソル系第4惑星の衛星に位置付けられた亜空間都市の領域に突っ込んだのでしょうね。あの時の乗組員たちの証言とも一致します。
アルシノエが答えた。
― では、その亜空間都市の位置の特定ができるのでは…
そうコーグレス王が言いかけたとき、
― いいえ、ダメです。できてもしちゃいけません。
― 絶対だめです。
と、カルティバとアルシノエが同時に答えた。
― 相手はもう、我々が潜入したことを知っています。これ以上あそこに関われば破壊されるおそれがあります。そんなことされたら、もうあの空間の研究ができなくなってしまうじゃないですか。
― わたしたち王の一挙手一投足を追いかける趣味の人々がいることはご存じでしょう。彼らがもしこの情報に触れてしまったらどうなるか考えてみてください。
それぞれの立場からすごい剣幕で反対意見を出されて、コーグレス王はひきさがる。
― でも、とりあえず、その空間を使って、ヴァンセルガの市長が拉致されたということはないのですね。
― それはないです。
ウロンドロスが即答した。
― ゼカイル・ナウトはグァダンにいることがわかっています。必要とあらば奪還できるほど確実な情報です。




