旅行
先日入ったのと同じ入り口を使い、同じ時間帯にあの百年くらい前に見える集落に入った。この入れる時間というのがポイントで、昼間は同じところを通っても入り込むことはできないのがわかっている。この前と同じ、夕飯時の家々が並ぶ街道から農地を横切るようにして神社に向かう道に来て、コスミアは二人に警告した。
― この先は重力に従って地面を歩いてちょうだい。大丈夫、足音くらいでは村の人に気づかれないから。身体を浮かせちゃだめよ。もちろんテレポートも。
― 了解です。
神社の鳥居をくぐって、社殿の前で立ち止まる。
― もう少しくっついて。
コスミアに促され、3人が互いに触れ合うほど近寄ったとたん、強制的に跳ばされた。
― これ、どういうしくみですか?
― ここは? 現実空間に戻っている?
ウロンドロスとカルティバが口々に質問する。あの集落に迷い込んだ夫婦がテントを張ったという朽ちた神社跡だった。
― たぶん、これはあの空間の中から外へ出るしくみなんだろうと思う。テレポートできない人用に作られたものね。ここが脱出路だよ。憶えといて。
カルティバが経過した時間が戻っていることを確かめた後、3人はもう一度廃線路のところへ跳んだ。再び歩いて例の空間の集落まで入りなおす。
― じゃ、今度はさっきの神社までテレポートするよ。社殿の屋根のすぐ上くらいの感じで。
― また寄っている方がいいですね。
3人はまた互いに近寄ってコスミアがテレポートをかけた。ところが、ついたはずの空間で、3人はまた強制的に跳ばされたのである。気がついたとき、3人は見覚えがある場所にいた。
― ! これ、亜空間都市の移動管理室?
― 私も初めて見たときはそう思った。
ウロンドロスは並んでいる制御システムを調べ始めた。カルティバはこの場所の位置情報を、自分の持ってきた端末で確認する。
― ここはさっきの空間ともちがいますね。いや質的には同じなのかな。えっ、惑星外?
― そうなの。ここはソル系第4惑星の衛星に固定されてる、リゼア人にはおなじみの亜空間都市。ただとても小さくてせいぜい百人くらいしか住めないんだけど。たぶんこれが社会構築実験チームの本拠地だったんだろうね。
― それじゃ、あの建物が筐なんですか?
― 厳密には建物の上の空間がこことつながってる。筐としての形じゃないのは、ソル系人は誰もテレポートができないから、何もない空間を囲う必要がないからだと思う。つまりここは社会構築実験チームの専用。
社会構築実験チームと聞いて、カルティバは急にあわてた顔になる。
― 大丈夫だよ、カルティバさん。ここはもうからっぽだから。誰もいない。確かめたよ。今はどっちかというと中継所みたいに使われているところらしい。
― 中継って、何と何をつなぐんですか。
― たぶん今と過去を。
― つまり、ここから過去へ跳べる、ということですか。
― まだ試したことはないから、これからやってみようと思って。
カルティバとウロンドロスは、驚いた様子で顔を見合わせた。
― 難しいことじゃないの。なんなら今、簡単にできるほうを試してみようか。これはわたしが前回やってみたことなの。かなりびっくりしたけど仕組みはこれでわかったんだ。
3人はその「簡単な方」を試した。そこから直に、つまり筐を使わないで、交易都市グァダンへ跳んだのだ。用心のため、跳んだ後は使われていない筐から出る。移動用の区域から出てしばらく行くと、2人は気づいた。
― ここ、さっきと何だか変わっていませんか。
コスミアは笑って
― 気づいたでしょ。ここの公共映像メディアで日付を確かめてみて。
と言った。手近な広場でニュース映像を見たウロンドロスとカルティバは愕然とした。
― 128年前って、どういうことですか!!
― セレタス王はわたしのお母様だったし、リゼア連邦大公は前キナン王だったよ。この前わたしが来た時も同じだった。
― な、なんで…、どういうしくみなんですか?
― ソル系第3惑星のあちこちに、ああいう空間が、さっきいた村みたいなところがあるんだと思う。そして場所によって違う時代に固定されているんじゃないかな。たぶん、社会構築実験チームが干渉した時代なんだよ。その空間からあの亜空間都市に跳ばされると、その時代の亜空間都市へ行ける、というしくみだろうと思う。
― そして、ここからリゼアに戻ると、128年前のリゼアに行けるんですか?
― 行ってみる? わたしもさすがにそこまでは行かなかったんだけど。
カルティバは少しためらっている。ウロンドロスが聞いた。
― わたしたちが元いた時代に戻るには、どうすればいいんですか?
― 今来た方法を、全部逆にたどるだけ。面倒だけどね。
― 確かに帰れるんですね。
― 当然よ、やってみたもの。まあ、少し時間が戻ってるけどね。それは体験したでしょ。
結局3人は挑戦することにした。リゼアへ戻ってみたのだ。外宇宙の観光客に混じって128年前の新生命宮へ降り立った。
― さて、どこに証拠を残しますかねえ?
― アバター体では自由に動けないでしょう。わたしたちはここの王の影ではないのだし。
―いや、逆に王宮に入らなければいいだけなので、好都合かもしれません。だいたいみんな影が誰かなんて知らないわけですから。
カルティバは勝手がわかった所へ戻ってきて少し大胆になってきたようだ。アバター体の外見を自分の元の成人体と同じように見せかけて、ずんずん第2室へ入っていく。
― ちょっとカルティバ、ここって銀海の宮の?
銀海の宮は運よく眠っておられたようだ。あたりには誰もいない。カルティバはさっきグァダンの広場で拾ってきた日付入りの割引チラシを折り畳むと、部屋の入口の額の裏に留めた。
― 誰も銀海の宮の物にいたずらなんかしませんからね。これで128年後まで残ってるといいんですけどねえ。さ、帰りましょうか。




