暗渠
さて、舞台はソル系第3惑星地球に戻りまして、いよいよあの都市伝説が登場します。探偵役は前作で無事潜入を果たしたアルシノエの親友、コスミアちゃんです。(ソル系での名前はマリハ)さて、あの駅は大災厄後どうなっているのかな。
新生命宮第2室、王の間。
皆、一度は読んだに違いない文面のタブレットを前にして、予測されている事象を確認、または推測していく作業が始まった。眠りに入っている凪の宮は今回欠席であり、緊急性もあって一般公開はされない。さっきまでとメンバーが変わらない、内輪の「三王会議」である。
まず、焦点となるゼカイル・ナウトは死ぬわけではないようだがいなくなるらしい。大怪我や病気で人事不詳となるのか、誘拐や行方不明となるのかはわからないが、サグや他の影たちが警護していることを考えれば、これは妥当な線だろう。
となると戦争はヴァンセルガ側から起こされると考えられる。ヴァンセルガの自警団こと総合警備会社テュアルズには、もう開戦を前提に相当な量の武器火器が準備されているらしい。もちろんそれを扱いなれた傭兵たちも司令官クラスから末端に至るまで組織済みだ。
― 逆に暗殺者や誘拐犯が出るとするなら、内部犯かもしれないな。
コーグレス王がつぶやく。
― だったらカシャ政府側が黙ってないでしょうね。自作自演で開戦に持ち込んだとなれば。
トトラナ王が眉をひそめる。
― どっちにしろ開戦を止めるには、どんな事故にせよ、起こったらすかさず「彼が死んでいない」ことを内外にアピールしないとね。
わたしが言うとすかさずあの人が尋ねる。
― で、そのあとは?
― 本物の敵さんに出てきてもらうのが一番楽だけど、とりあえず時間稼ぎに第3者をでっちあげないといけないかな。
― つまり、偽の犯人を?
― そう。できるなら、リゼアはその第3者を追っていたって立場にするのが理想なんだけど。そうすれば自然に戦争の仲介役になれるでしょ。
― では、行動を起こすのは、どちらかの内部にいるかどうかはともかく…
― そう、どこかにわたしたちの本当の敵が隠れてる。それを見つけてしまえればいいんだけど。そうして何とか情報操作でお互いの妥協点を見つけられれば、ね。
広い農地を風が吹き抜けていくのが見える。
ソル系第3惑星の、トウキョーシティから半日ばかりかけてたどりついた農業地帯にコスミアは立っていた。かつてはたくさんの町があった所も、今は大半が農業用地、工業用地になっており、陸路の移動は連結トレーラーが担っている。貨物輸送用の大型連結トラックにバスもつながっている、というものだ。
人口は今やかつての2割程度しかないのだ。ソル系の文明圏は、衛星軌道上に浮いているコロニーと、月やその他の惑星上にある基地に人口の半分以上が住んでいる。どうしてもコロニー内部では作れない農海産物と、一部の工業製品を作るためと、観光のために残りの人口が第3惑星に今も住んでいる状況なのだ。
廃墟のような都市部より、農村地帯の方が明るくて文明的に見えるのは、人の気配を感じやすいからだろう。ドローンを改造した一人乗りのオープンヘリが何機も低空を飛んでいる。大型農機が通るための道路は縦横に通っているが、車で走るより農地の上、空中を斜めに突っ切る方が速いからだ。もちろん土地の高低差があるのも理由になるだろう。そろそろお昼時だから、食事をとりに行く人たちなのかもしれない。
「マリハ、どうする、ここで泊っていくかい? ワーキングホリデーもやってるってさ。」
ここまで同行してくれた学生グループは農業関係のインターンたちで、受け入れ先の会社の施設に泊まるという。ここで昼食だけ取ったら徒歩で出発するらしい。
「じゃあ、今夜の宿、お願いしてもいいですか。明日はまた幹線道路に出て移動しますので。」
人口数十人の小さな農業共同体である。全員の食をまかなうこの建物が宿泊所を兼ねている。
「マリハちゃんだっけ? 今日一日だけでもいいからウエイトレスやらない? 皿洗いか掃除も手伝ってくれたら、バイト代としてただで泊めてあげるよ。」
キッチンにいるおばあさんがにこにこしながら言う。今までもさんざんこの手のオファーがあった。このあたりでは、思うほど危ない誘いではない。ただ外の人が珍しいだけなのだ。姿を見て話をしてみたいだけ。娯楽の一つだ。
「えー、いいんですか。」
見かけは申し訳なさそうに、でもここにいる人たちからの情報を取れるなら内心大歓迎で返事をした。
その日の深夜、住人に聞いておいた廃線の駅の跡地へ向かってテレポートした。ここからさらに線路沿いに北西へ向かう場合にしか、めざすところへは入れない。大災厄と呼ばれるパンデミックのあと、ほとんどの鉄道は人員不足で廃止になった。かつては、最終電車で眠ってしまうと入り込むことができたというが…。
線路上を歩いて移動する。思ったほど荒れてはいない。小さな鉄橋を渡ると、ふと空気が変わった。遠くに明かりがともっていて人家が並んでいるのがわかった。
入れたようだ。
アバター体で来て正解だった。誰かに会ったら見た目を変えてやり過ごすことができるだろう。家々は道路に沿って、十数軒がまばらに並んでいる。パンデミック前どころか百年くらいは昔の様式だろうと思われる家並みだった。しかも時間がずれているらしく、ここではまだ宵の口らしい。夕食を取っているらしい物音や話し声がする。窓を開け放していて、家の中が覗けてしまう家さえあるのだ。あるいは侵入者を誘い込むための仕掛けかもしれない。
一応家並みのはずれまで来てから、振り返って調査を始める。一人一人の脳にアクセスして、記憶を読んでいくのだ。大部分の人がここで生まれ育っているが、何人かは別の集落から仕事や結婚で入ってきた人だ。そして2人、明らかに迷い込んだ人がいる。彼らの意識を探って出口を捜さなければいけない。テレポートでは出られないのだ。
二人はいっしょにここへ迷い込んだようだ。パンデミックのごく初期に、感染から逃れようと山奥へ入りこんだ、キャンプや登山などのアウトドア活動が趣味の夫婦だった。食料が尽きて仕方なく下山した先がここだったのだ。
― ドコカラ ココニ 入ッテキタノ?
― ジンジャ…
農道のはずれに木立がある。あそこがそうらしい。二人は山の中で朽ちた社殿と倒れた鳥居を見つけ、そこで最後のキャンプを張った。翌朝目を覚ました時にはテントではなく、この集落の神社の前に寝ていたのだという。
わかったと同時にその神社の上空へテレポートした。高すぎないように、オープンヘリの飛行高度くらいを保つ。だがそれでも不十分だったようだ。いきなりそれは作動した。




