魔の森脱出までの道のり
魔の森脱出ルート探索、再開。
……したはずだった。
「……同じ景色に見えるんだけど」
「気のせいじゃない」
「三回目だ、ここ」
目印に付けたはずの布切れが、視界の端に揺れている。
「……一周してる」
誰も口に出したくなかった結論が、静かに共有された。
「方向感覚、狂わされてるわね」
「森全体が迷路みたいなものかも」
「ってことは」
「普通に歩いても、出られない」
希望が、じわじわ削られていく。
その時。
「……あの」
遠慮がちに、誰かが手を挙げた。
「なに?」
「言いにくいんですけど」
少し間があって。
「……お腹、空きました」
沈黙。
「……あ」
「そういえば」
時間感覚を失っていたが、冷静に考えれば当然だった。
走って、緊張して、魔力を使って。
「……非常食」
「ない」
「遠足用のお弁当は」
「先生の手違いで忘れました」
全員が、同時にくっころ先生を見る。
「……ごめんなさい」
教師としての威厳が、音を立てて崩れた。
「水は?」
「水筒一本を回し飲みです」
「終わってない?」
空腹という、魔物より確実な敵が現れる。
そして。
「……もう一つ、大きな問題が」
さらに言いにくそうな声。
「……なに」
「トイレ」
空気が、完全に死んだ。
「……あ」
「……確かに」
誰もが目を逸らす。
「森だから、なんとかなるでしょ?」
「って言いたいけど」
「安全な場所が分からない」
「魔物、花粉、幻覚」
「……落ち着いてできる気がしない」
現実的すぎる問題が、次々と積み上がる。
「サバイバルって」
「もっとこう……格好良いものじゃなかった?」
「それは物語の中だけね」
くっころ先生が、深く息を吸う。
「……私の判断ミスよ」
「でも」
「ここからは、教師として立て直す」
表情が、引き締まる。
「食料は、調達する」
「森の中でも安全な植物はある」
「トイレ問題は」
「グループ分けして、結界を張る」
「……経験あるんですか」
「……教員研修で」
微妙に目を逸らした。
「そして脱出ルート」
先生は、森の奥を見る。
「歩いて出られないなら」
「別の方法を探す」
「上か」
「下か」
「……あるいは」
その先の言葉は、飲み込まれた。
風が、また吹く。
今度は、花粉ではない。
どこかで、森が――
こちらを試しているような気配がした。
脱出できない、食べ物がない、トイレもない。
だが。
「……やるしかないか」
ユウトが、苦笑いで言う。
全員が、ゆっくり頷いた。
魔の森脱出は、
戦闘よりも過酷な段階へ入っていた。
――
まず、食料問題から動き出した。
「安全な植物はある」
「理論上は、だけど」
くっころ先生の言葉に、全員が微妙な顔をする。
「理論上って言いましたよね」
「……実地は別」
「ですよね」
数人ずつの班に分かれ、森の浅いエリアで採取を始める。
見た目は普通の木の実。
匂いも問題なし。
「これ、いけそうじゃない?」
「先生、確認お願いします」
くっころ先生は慎重に魔力を流し、頷いた。
「毒性反応は……薄い」
「加熱すれば、たぶん大丈夫」
「たぶん!?」
だが背に腹は代えられない。
その時。
「……あれ?」
一人の生徒が、首をかしげる。
「さっきから、音しない?」
風でも、獣でもない。
ぬちゃり、とした、不快な音。
「後ろ!」
振り返った瞬間、
地面から“それ”が盛り上がった。
「うわっ!」
キノコ。
だが、明らかに普通じゃない。
採取した木の実に反応するように、
粘液を垂らしながら迫ってくる。
「食料に寄ってきてる!?」
「森の防衛機構か……!」
「食わせる気、ないってこと!?」
混乱する中、ユウトが前に出る。
「先生!」
「焼きます!」
火魔法が一閃。
キノコは一気に炭化し、霧のように消えた。
「……森、性格悪くない?」
「否定できないわね」
結果。
食料候補は半分ロスト。
残った分は、全員で慎重に分け合うことになった。
「……一口ずつだね」
「文明って偉大だな……」
そして、もう一つの問題。
「……限界です」
誰かの小さな声。
トイレ問題だった。
「無理」
「集中できない」
「魔物より緊張する」
全員が顔を見合わせる。
「……じゃあ」
「決めよう」
くっころ先生が、妙に真剣な表情で言った。
「ここから先」
「“トイレ警戒当番”を置く」
「名前がもう嫌です」
「二人一組」
「片方が結界」
「片方が見張り」
「……団結の仕方が違くない?」
だが、やってみると意外と効果的だった。
「……大丈夫?」
「風向き変わってない?」
「今のところ、異常なし」
小声でのやり取り。
妙な信頼感。
「……なんか」
「一気に仲良くなった気がする」
「分かる」
「この状況で助け合うと」
「変な連帯感生まれるよね」
極限状態は、人間関係を一気に進める。
食料調達は命がけ。
トイレはチーム戦。
誰も望んでいないが、
確実に“生き抜く力”は上がっていた。
その様子を、森の奥で――
何かが、面白そうに見ている気配があった。
次回予告
「ねえ」
「……お腹空かない?」
「それ、今言う?」
食料問題、
まだまだ深刻。
「誰よ、最後の一口食べたの」
「私じゃないわよ!」
「疑うなら証拠出しなさい!」
森が、ざわつく。
「……今、木がこっち見てなかった?」
「気のせいでしょ」
「いや、確実に見てた」
どうやら魔の森、食料を本気狙っている。。
「団結して乗り切ろうって話じゃなかったっけ?」
「うん」
「なのに何で揉めてるの?」
そんな中、始まる謎のイベント。
「……はい、二択です」
「え、森が出題してきた!?」
「仲間を守るか」
「食べ物を守るか」
「選択肢が重すぎない?」
「せめて三択にしてほしい!」
笑いながらも、ちゃんと手は繋いでいる。
次回、
団結テスト開始。
「これ、テスト内容おかしくない?」
「今さらよ!」
お楽しみに。




