気づいたらそこは魔の森
遠征当日・朝。
学園正門前。
「えー、本日は!」
くっころ先生が、
無駄に胸を張って宣言する。
「親睦を深めるための
遠足を実施する!」
「目的地は、
自然豊かな森林地帯!」
「お弁当持参!
危険なし!
魔物なし!」
その言葉に、
生徒たちがざわめく。
「遠足だって!」
「久々に平和回じゃない?」
「やっと命の危険がない!」
ユウトも、
少しだけ肩の力を抜いた。
(……やっと普通だ)
⸻
移動開始。
道中は、
本当に“遠足”だった。
ミアはテンション高め。
「ねぇねぇ、
誰のお弁当が一番かな!」
フィオナは、
しっかり準備派。
「水分、
ちゃんと持った?」
セリナは、
地図を見ている……が。
「……この地形、
理論上は――」
「理論はいいから
前見て歩いて」
ユウトが言う。
⸻
問題は、
引率のくっころ先生だった。
「……あれ?」
立ち止まる。
「……地図が」
「上下逆?」
生徒一同、
嫌な予感。
「だ、大丈夫だ!」
「こっちで合っている!」
自信満々に、
違う方向へ進む。
⸻
しばらく歩いて。
木々が、
やけに濃くなる。
空気が、
ひんやりする。
「……ねぇ」
ミアが、
小声で。
「さっきより、
暗くなってない?」
「……気のせいよ」
フィオナが言うが、
声が少し硬い。
セリナが、
立ち止まった。
「……先生」
「はい?」
「この辺り、
魔力濃度が
平均値の三倍です」
「……え?」
くっころ先生、固まる。
⸻
さらに進むと、
立て札が現れた。
『立入注意 魔の森』
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「……あ」
くっころ先生が、
乾いた声を出す。
「えっと」
「し、親睦は、深まったかな?」
「いや、森が深まっただけです!!」
ミアが即ツッコミ。
「魔の森って
言ってるじゃん!」
「魔って!」
⸻
ユウトは、
額を押さえた。
「先生」
「はい!」
「方向、
どれくらい
間違えました?」
「……三回ほど」
「多い!!」
⸻
周囲を見渡す。
木は不自然に捻じれ、
風が止まり、
鳥の声もしない。
完全に、
魔の森だった。
フィオナが、
静かに言う。
「……でも」
「ここまで来たなら、
戻るのも危険かも」
セリナが、
頷く。
「魔力の流れ的に、
引き返すより
進んだ方が安全」
「……遠足って
なんだったんだろう」
ユウトの呟きが、
全員の心を代弁した。
⸻
くっころ先生は、
咳払いを一つ。
「よし!」
「これは
想定外の実地訓練だ!」
「学園に戻ったら
報告は……
私が責任を取る!」
(後で)
(めっちゃ怒られるやつだ)
全員が、
そう思った。
⸻
こうして。
親睦を深めるはずの遠足は、
なぜか魔の森サバイバルへと
進化した。
次に起きるのは、
魔物か、
事件か、
それとも――
先生のさらなるミスか。
誰にも、
分からない。
ただ一つ確かなのは。
(……今日は、
お弁当どころじゃない)
ユウトは、
そう思いながら
森の奥を見つめていた。
不自然な静けさの中、
一行は足を止めていた。
「……」
くっころ先生が、
深く、深く息を吸う。
そして――
一歩前に出た。
「皆!」
やけに力強い声。
「今回の件は、
完全に私の責任だ!」
生徒たちの視線が集まる。
「道を誤り、
君たちを危険な場所に
連れてきてしまった!」
(珍しくまともだ)
ユウトは、
一瞬だけそう思った。
⸻
だが。
「よって!」
くっころ先生は、
胸を張った。
「この先は――
私が単独で偵察する!」
「……え?」
「先生!?」
「ちょっと待って!」
一斉に止めに入る。
フィオナが、
真っ先に声を上げた。
「それ、
一番危険じゃないですか!」
「問題ない!」
くっころ先生は、
無駄に爽やか。
「教師とは、
生徒を守る存在!」
「私が囮になれば、
君たちは安全だ!」
(発想が極端すぎる)
ユウトが、
即座に突っ込む。
「先生」
「囮って言いました?」
「言った!」
「言わないで!」
⸻
セリナが、
冷静に分析する。
「単独行動は
生存率を
著しく下げます」
「特に、
方向音痴の場合」
「……」
くっころ先生、
一瞬だけ目を逸らす。
「だ、大丈夫だ!」
「今回は
直感が冴えている!」
その直感を、
誰も信用していなかった。
⸻
しかし。
くっころ先生は、
本気だった。
「もしもの時は!」
「これを使え!」
懐から取り出したのは、
煙玉×大量。
「逃走用です!」
「完全に
逃げる前提じゃないですか!」
ミアが叫ぶ。
⸻
さらに。
「それと!」
「非常食も置いていく!」
差し出されたのは、
謎の硬い保存食。
「あ……それ」
ユウトが察する。
(セシリア由来だ)
「栄養満点だ!」
「噛み切れない!」
「精神も鍛えられる!」
「何の訓練!?」
⸻
ついに。
くっころ先生は、
決意の表情で言った。
「では!」
「私は
森の奥へ行く!」
「戻ってこなかったら、
先に学園へ――」
「戻る前提を
作ってください!!」
全員で、
全力ツッコミ。
⸻
ユウトは、
深くため息をついて
一歩前に出た。
「先生」
「責任を取る方向、
間違ってます」
「……?」
「今やるべきなのは」
「一人で突っ走ることじゃなくて」
「全員で安全に
戻ることです」
くっころ先生は、
しばらく黙った。
「……」
「……そうか」
肩の力が、
少し抜ける。
「私は」
「“守る”ことと
“犠牲になる”ことを
混同していたな……」
(急に
いいこと言った)
一瞬、
空気が和らぐ。
――が。
「よし!」
「では全員で
前進だ!」
「そっち!?」
「戻るって話は!?」
結局、
方向はまた怪しかった。
⸻
こうして。
くっころ先生は
責任を取ろうとして、
さらに事態をややこしくする
という安定の結果を残した。
ただ一つだけ
救いがあるとすれば。
「……でも」
フィオナが、
小さく言う。
「先生が
本気で私たちを
守ろうとしてるのは、
分かるよね」
「……うん」
ユウトは、
苦笑して頷いた。
(方向さえ
合っていればな……)
魔の森遠足は、
まだまだ続く。




