第六百七十九話 子犬眷族
「ハハハハハッ!! 流石は比奈! 流石はシャドウだ!! イハル師匠とレグルスもそうだったけど、魔王相手に完勝だったんじゃないか? てこずってはいたけど苦戦はしてなかっただろ!!」
いやぁ強い! 俺の仲間はみんな強いな! でも、強くなったのは俺も同じだ。ほとんどオート操作ではあるが、鯨の魔王は倒せると確信している。
鯨の魔王はその図体があるからか動きがやはり遅い。氷の礫や氷の竜巻なんかを時折放ったり、ヒレ何かを使って攻撃はしてくるが、グラシャラボラスはその程度なら簡単に避けてしまう。
その体に氷のモンスターを生やして攻撃なんかもしてくるが、それだって眷族達の敵ではない。俺はこのまま押し切れると考え始めていた。
そして、鯨の魔王の上でシャルアを相手にしているメテオラとて、負ける事は無いだろう。
下から見てても、撃たれる魔法がメチャクチャだからな。あんな雑な攻撃では、『明けの明星』たる『ルシファー』の力を使うメテオラを止められない。
残る問題は、どう倒すかだ。この鯨の魔王というかシャルアの中には、三つの『エンブレム』と、シャルアの核である『アマリリスの指』がある。
こうなって来ると、経験上だが倒す為には『同時破壊』が必要だと思われる。
…………やはり出し惜しみは無しだ。ここで再びシャルアを逃がす訳にはいかない。よし、となればだ。
俺は眷族を一体だけ、新たに生み出した。ただし、他の眷族とは違い、ミニチュアサイズの眷族だ。それは手の平サイズのグラシャラボラスで、丸っこい、子犬の様な姿をしていた。
『ヒャンッ!』
「…………うん。鳴き声も可愛い。…………って、そうじゃなくて!」
手の平に乗っかるサイズの、カワイイ子犬のグラシャラボラスを見てついついホッコリしてしまったが、今はそんな場合ではなかった。
俺はグラシャラボラスの中から、その子犬眷族に命令を伝える。眷族達は言葉は話せないが、意思を伝える事は出来る。要は上で戦っているメテオラに、作戦を伝えて欲しいのだ。
「頼んだぞ。上はシャルアと戦闘中だから十分に気をつけろよ。攻撃のまきぞえを喰わないようにな!」
『ヒャンッ!』
子犬眷族は短い前足を上げて返事をすると、メテオラがいる上に向かって飛んでいった。
◇
鯨の上での戦闘は激しさを増していた。
自我を持たないシャルアの攻撃は、メテオラに当たる事こそないがその威力は凄まじく、メテオラは常に緊張状態を強いられていた。
精神力が磨耗すれば、その身に宿す悪魔の制御が甘くなるかも知れない。それは不味い。メテオラの今の姿は『プライド・フォーム』宿す悪魔の名は『ルシファー』だ。そんな大物に、好きかってさせる訳にはいかない。
「ハァアアアッ!!」
シャルアの衝撃波や魔法は避けて、それと同時に襲ってくるシャルアの腕を斬る。しかしどれだけ斬った所でシャルアはそれを再生してしまう。
それにメテオラは、もうひとつ気づいている事がある。
(…………やっぱり、少しずつ体が崩れていますね)
それは鯨の背中から生えているシャルアの上半身が、少しずつだが鯨の中に飲まれている事だ。それも、溶けた蝋燭が滴り落ちるように少しずつ。
最初は、シャルアに限界が来て鯨の魔王に飲まれているのかと思ったメテオラだが、それはすぐに否定している。なぜなら、シャルアは斬られた箇所は瞬時に再生しているが、鯨の魔王の体が斬られた時は再生が遅いからだ。
吸収されているとしたら、やはり鯨の魔王の方なのだ。
(これは早く決着をつけた方が良さそうですね。でも、どう倒しましょうかね)
隙を見て『プライド・フォーム』の必殺技を叩き込む事も考えたメテオラだが、どうもそれで倒せるとは思えなかった。
メテオラも隼人と同じく、シャルアと鯨の魔王を倒すには体の何処かにある三つの『エンブレム』と、シャルアの核である『アマリリスの指』を同時に破壊しなければいけないと考えていたのだ。
と、そこに。
『ヒャンッ!』
「え、子犬!?」
シャルアの攻撃をかい潜って、子犬眷族がメテオラにたどり着き、その腕にしっかりと抱きついた。
「うっ、カ、カワイイ…………。えっ! この声、隼人さん?」
戦闘中だというのにホッコリしてしまうメテオラの頭に、隼人の声が響いた。それは子犬眷族に託した隼人の言葉であり、シャルア及び鯨の魔王を倒す為の作戦だった。
「…………なるほど。でも結局、力業ですね。…………ねぇ子犬君。隼人さんに、僕の声を伝える事はできる?」
『ヒャンッ!』
「そう。なら、お願いね」
シャルアの体が崩れている現状から、メテオラはひとつの可能性を考えていた。
見た目としては、鯨の魔王がシャルアを取り込もうとしている様に見えるが、それが違うと言うならば、これはむしろシャルアが鯨の魔王を完全に取り込もうとしているのかも知れない。
このまま行ってもし同化するならば、三つの『エンブレム』と『アマリリスの指』を同時に破壊するのに、そっちの方が都合が良いかも知れないと、そんな事をメテオラは子犬に託した。
そしてそんな中でも、シャルアの体は鯨の魔王の中へと、少しずつ沈んでいった。




