第六百七十八話 光に添うか、光に散るか
『ハハハハハッ!! 貴様の体を貰うぞ! シャドウ!!』
『ムゥ!?』
「『シャドウ!!』」
シャドウの足元に広がる影に、細長い影そのものとなった影の魔王が体を滑り込ませる。
『俺と貴様の相性はきっと良い! その強い体は死体だし、何よりもお前の名前が良いぞ! 『シャドウ』フハハハハッ! ピッタリじゃないか! 『影の魔王・シャドウ』とは、正に俺の為にあるような体だ!!』
影の魔王がシャドウの影に沈んでいく。天使の力を宿す比奈ならばこれを防ぐ事も可能だが、比奈とシャドウの間には距離があり、そこは今や影の魔王の完全なるテリトリーだ。
この距離を瞬時に詰めてシャドウの影から影の魔王を引きずり出す事は、いかに『戦乙女』比奈としても、不可能だった。
影の魔王は高笑いをしながら、残る体をシャドウの影に沈ませる。だが、その寸前に影の魔王は見た。上から影の魔王を見下ろしているシャドウの、その口許に、ほんの僅かな笑みが浮かんでいるのを。
『――――――――!!』
『――――遅い』
何かがヤバいと、影の魔王の直感が警鐘を鳴らし、影の魔王はシャドウの影から抜け出そうと脱出を図る。しかしそれは成されない。何故ならシャドウの影から伸びる幾つもの『悪夢』の腕が、影の魔王を捕らえて離さないからだ。
『な、何だこの腕は!?』
『先程のお前の言葉。『俺達の相性が良い』だったか。せっかくだから、同意してやろう。確かに俺達の能力は相性が良い。元々『闇属性』と言う部分で相性が良いからな』
シャドウの『悪夢』に絡め取られた影の魔王は、なんとかその手を振り払って逃げようとするが出来ずにいた。
物質的なものを持たない『影』や『悪夢』などと言う『闇』に属する力は、精神力の強さこそがものをいう。
ここまでの戦いを優位に進め、なおかつこれまで歩んで来た『聖騎士』としての人生経験から、相手を確実に滅するまで油断しない心構えが出来ているシャドウ。
基本的には騙し打ちで、そうでなくとも操る死体を捨て駒にして勝利を拾う影の魔王。更には今に関して言えば、比奈とシャドウに追い詰められ、何とか起死回生をしようと使いたくなかった奥の手を使い、自らの半身まで犠牲にしている。
平常通りの精神力など保てるはずもなく、影の魔王はシャドウに対して打てる手が無くなっていた。
『ヤメろ! 放せ!!』
何とか手を振り解こうと魔法を撃つも、それすらも『悪夢』の手に握り潰され、影の魔王はそのままシャドウの『悪夢』へと落ちていった。
「『…………大丈夫なの? シャドウ』」
『まだ終わっていないぞ、ヒナ』
シャドウを心配して近づいてくる比奈を、シャドウが片手を上げて止めた。
『俺は今、影の魔王を絡めとったに過ぎない。俺には影の魔王を取り込んだりする力は無いし、永遠に封印する事も不可能だ』
「『そうなの? じゃあ、どうするのよ』」
『準備が出来たら外に出すから、お前の力で討ち取ってくれ』
「『そういう事か。解ったわ! ちょっと待ってて!』」
そう言うと比奈は天使の翼を広げ、幾何学模様の輪も出して天使の力を練り上げた。元々、影の魔王を倒す為に練り上げていた力だ。再び溜めるのにそう時間は掛からない。
比奈が練り上げた力は強大で、それは比奈の全身を青白く光らせ、白い稲妻が比奈の体を常に流れていた。
「『いいわよシャドウ! いつでも来なさい!!』」
『…………頼むから俺を巻き込むなよ? ソレをマトモに喰らったら消滅してしまいそうだ』
「『影の魔王を確実に消し去るくらいには溜めたもの! さあ! 来なさい!!』」
『ほんの少しだけだが、同情するぞ影の魔王』
シャドウの影から、紫色の大きな玉が浮かびあがった。頼りなくフヨフヨと浮かぶそれは、中で何かがもがいているかの様に形を変えたりしている。
その正体はもちろん、影の魔王を中に閉じ込めた『悪夢』であり、影の魔王はそこから逃れようと暴れているのだ。
『ではサラバだ、名も知らぬ影の魔王よ』
シャドウは無造作に『悪夢』を掴み、暴れるそれを比奈の前方に放り投げた。
そして比奈は大剣を構えると、その全てを真っ白な『聖なる雷鎚』に変えた!
「『寄り添わない影は、光に散るものよ。消え去りなさい!! 『裁きの雷鎚』!!』」
真っ白な稲妻を迸らせながら、光の奔流が走った。その光は、わずか二百メートル程度の長さでしかなかったが、『悪夢』に捕らわれた影の魔王は、その光ので確かに散った。
そして力を使い果たした比奈は『戦乙女』が解除されると同時に崩れ落ち、ラルファはそんな比奈の体を支えていた。
『かくも勇者は凄まじい。…………さて、あとはそのデカイ鯨だけだぞ。ハヤトにメテオラよ』
シャドウが上空に目を向けると、そこでの戦いは激しさを増していた。




