第六百八十話 氷の魔王
『ヒャンッ!』
「ん? おお、帰って来たか。…………この声、メテオラからもメッセージを送れるのかよ」
巨大なグラシャラボラスになっている俺の頭の上に子犬眷族が張り付き、それと同時にメテオラの声が流れて来た。
…………シャルアが鯨の魔王を? 上はそんな事になっていたのか。…………うん、なるほど。確かに力押しでいくのなら、敵は小さい方が良いと思う。
しかし、シャルアが鯨の魔王を完全に吸収しようとしているとはな。どうりで鯨の魔王がヒレを再生する時に、まずシャルアの腕が出てから再生が始まった訳だ。再生機能あたりは、すでにシャルアの手に落ちていると言う事だろう。
どれ、ならもっと乗っ取りが早くなるように、俺も少し手伝ってやるか、鯨の魔王が弱まればそれだけ吸収も早くなるし、ついでにシャルアの強化も抑えられるはずだ。
「どんどん出て来い! 眷族達!!」
『ワオォォーーーーーーーーン!!』
グラシャラボラスの遠吠えが響くと同時に、グラシャラボラスの体は炎に包まれ、そこから眷族が次々と生まれてくる。
それを見てマズイと感じたのか、鯨の魔王が抵抗を始めた。
巨大な体から大量の霧を出し、氷の礫や氷の竜巻を乱発する。グラシャラボラスの眷族達は口から吐く炎でそれらを相殺しつつ、鯨の魔王を包囲していった。
「よし! やれーーっ!!」
『ワオォーーーーン!!』
そして包囲が終わり俺が合図を出すと、眷族達いっせいに大量の炎を吐き、鯨の魔王を炎で包み込んだ!
『オォオオォォーーーーン!!??』
大量の炎に対して、鯨の魔王は大量の霧で対抗する。炎とぶつかる氷の霧は、蒸発し蒸気となりながらも鯨の魔王を炎で押し込んでいく。
と、その時。蒸気に包まれる鯨の魔王の上空から翼を持った影が飛び出し、俺の所へと降りて来た。
「隼人さん!」
「おお、メテオラ。降りて来たのか」
「それはそうですよ。真っ白になっちゃって何も見えなくなっちゃいましたから」
「…………そっか、ゴメン」
「いえ、いいですけどね。上の戦いも膠着していましたから」
そっか、そうだよな。こんだけ蒸気が発生してたら戦えないもんな。
俺達がそんな話をしている中でも、グラシャラボラスの眷族達と鯨の魔王の押し合いは続いている。そして鯨の魔王が出す霧が弱まり、燃える訳ではないが、鯨の魔王が炎に包まれ始めた時。
『ウオォォーーーーン!!』
グラシャラボラスの雄叫びと共に、眷族達がその体を炎の槍へと変えて鯨の魔王に突き刺さり、刺さった瞬間に爆発と共に大量の炎へと変わっていった。
『グオォォオオォォーーーーーーーーン!!??』
ビシリッ! ビキッ! ビキビシィッ!!
それは、厚めの氷が割れていくような音だった。その音の出所は鯨の魔王であり、やがてそのヒビ割れていく様子は、俺達の目にも見える程に大きくなっていった。
そのヒビは徐々に大きくなっていき、やがて鯨の魔王の全身に行き渡ると。
『オオォォオォォォーーーーーーン!!!!』
鯨の魔王の断末魔の叫びと共に大きく割れた。そしてその瞬間!!
「ヤバイ!? 下がれメテオラ!!」
「!!??」
ヒビにそって大きく割れた鯨の魔王から、勢いよく氷の霧と茨のような氷の槍が突き出した!!
グラシャラボラスの眷族の中で残っていた奴らはその茨に突き刺され、炎の塊となって霧散し、メテオラを庇って前に出た俺も、炎の壁を作ってガードはしたもののデカイ体が仇となって何ヵ所も貫かれてしまった。
「…………ウグッ!?」
「隼人さん! これを! 『エクスポーション』です!」
俺の体を貫いた氷の茨が砕け、メテオラが『エクスポーション』を飲ませてくれたので、貫かれた体のキズは消えたが、グラシャラボラスの角が頭部と両肩の三本折られてしまった。
そして砕けて落ちていく鯨の魔王の残骸は、落ちていく途中でピタリと止まり、崩れていくように氷の霧になると鯨の魔王がいた上空へと、渦を巻きながら昇っていった。
「…………わかるかメテオラ」
「はい。シャルア様の存在感が、どんどん大きく高まっていきます…………」
霧散した氷は一ヶ所に集まり、渦を巻いて凝縮されていく。そして徐々に小さくなり人ひとり分くらいになった所でピシリ! と固まり、その外郭がハラハラと崩れて落ちた。
「…………完全復活か?」
「いえ、あれはもう天使ではありません。魔王の力が、天使のそれを上回っていますから」
そこにいたのは、紛れもなく『シャルア』だった。ただし、天使であり魔王であったシャルアではなく、完全なる魔王となったシャルア。
氷の体と氷の翼を持ち、その周囲には随分と小さくなった氷の鯨を三体泳がせる『氷の魔王』。
氷のドレスをまとったその姿は、キラキラと舞うダイヤモンドダストも相まって、いっそ神々しく見えた。
氷の魔王『シャルア』が、そこに誕生していた。




